ヤブカラシの3度の周期的花色変化とそのメカニズムの一端を解明 岐阜大学

ヒト重要栄養源「カロテノイド」の植物による制御機構解明に期待

図1:ヤブカラシの花色の変化
花の縦断面で示す。左から開花直後のオスの段階、雄しべが脱離した第一休止段階、雌しべが新調したメスの段階、そして雌しべも老化した最終段階。オスの段階とメスの段階だけオレンジ色を示し、他の段階ではピンク色をしている。花の中心にある柱状のものが雌しべ。

 岐阜大学応用生物科学部の川窪伸光教授と古川友紀子大学院生、東京大学大学院理学系研究科の塚谷裕一教授は、世界で類を見ない、3度も色が変わる花色の周期的変化を発見し、そのメカニズムの一端を明らかにした。
 今後、このメカニズム解明の推進により、人間にとっても重要な栄養源であるカロテノイドを、植物がどのように制御しているかの理解が進むものと期待される。加えて、花の色の「正直なシグナル」がどのように進化してきたのか純粋に科学的な理解も進む。これらの研究成果は、12月1日に科学誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載された。
 川窪教授らの研究グループは、世界で初めて花色を3度も変える花を発見した。身近なソメイヨシノも開花直後は白に近く、後にピンクが濃くなり、その名も七変化の別名で知られるランタナも、黄色から赤、あるいは白からピンクといったように花色を変える。こうした花色の1度の変化は、花粉を媒介する昆虫に対して、どの色の花を訪れると効率よく蜜を集められるかを示す「正直なシグナル」として進化したと考えられてきた。
 実際、数百種にのぼる植物がこれまでに、花色を開花期中に一回変えることが確認されている。この花色の変化は不可逆的であり、可逆的にもとに戻る事例は、わずか一例、アフリカに生えるマメ科の植物で、特殊な条件のもとで、しかも不完全な花色の復帰として報告があるのみであった。
 ところが、日本で身近に生えるヤブカラシの花を経時観察していたところ、予想外なことにヤブカラシは開花直後のオレンジ色から、やがてピンクに色を変えるばかりでなく、さらにもう一度オレンジに復帰した後、最後に再びピンクになることが分かった。
 花色は一回変わるだけという思い込みから、この3度も色が変わるという事実には、ありふれた植物の花にもかかわらずこれまで誰も気づいていなかった(図1)。

図 1
図1

 もし、これが他の花のように「正直なシグナル」なのだとしたら、なぜ3度も色が変わるのか。連続撮影映像を多数観察した結果、オレンジの花色は、ヤブカラシの花の性が成熟したタイミングと一致することが分かった。
 すなわち、開花直後の花は、雄しべだけが成熟しており、オスとして成熟したタイミングである。このときに最初のオレンジの状態が生じる。そのあと雄しべが散るとともに、色がピンクになる。その後、雌しべが成熟して伸び始めると、これに同期して色がオレンジに戻る。最後は、花が機能を終え、二度目のピンク色に戻る。
 この一連の色の変化は、たった1日半か2日程度で起きる。一体何がこの花色の変化をもたらしているのか。組織構造的にはこの間、変化は見られない。
 そこで、組織から色素を抽出して調べたところ、花色の変化は、ニンジンのオレンジの色と同じようなカロテノイドの含量の増減によっていることが判明した。これほどの短期間に、カロテノイドの量を周期的に増やしたり減らしたりする例は、これまで知られていない。
 今後、このメカニズム解明が進むことで、人間にとっても重要な栄養源であるカロテノイドを、植物がどのように制御しているかの理解が進むと期待される。 また、花の色の「正直なシグナル」がどのように進化してきたのか純粋に科学的な理解も進むと考えられる。
 なお、これらの研究は、科研費「新学術領域研究(課題番号:JP19H05672)」、「基盤研究(C)(課題番号:26440237)」の支援により実施された。

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