住友ファーマの野村博社長は10月31日、2022年度中間決算説明会で会見し、米国で販売中のパーキンソン病に伴うオフ症状治療剤「キンモビ」の減損損失として計上した約544億円について言及。「2022年度の連結業績のコア営業利益への影響は限定的で、営業利益以下の各利益段階では大幅な減益となる。キャッシュフローへの影響はない」と説明した。
連結子会社マイオバント社の完全子会社化については、「大型化が期待されるオルゴビクス、マイフェンブリーを我々が思う戦略で伸ばすことができるようになる」とそのメリットを強調。「両剤より得られるキャッシュフローのグループ内活用および経営スピードの加速を目指したい」と抱負を述べた。
野村氏は、2023年2月のラツーダ特許切れ以降の成長戦略にも言及し、「現在米国で発売中のオルゴビクス(進行性前立腺がん治療剤)、マイフェンブリー(子宮筋腫治療剤および子宮内膜症治療剤)、ジェムテサ(過活動膀胱)の新製品に加えて、2024年に発売予定のウロタロント(統合失調症)の4つの新製品で2030年代半ばまでの成長を図りたい」と強調。
それ以降は、「現在P1段階にある化合物の中からしっかりと収益の柱になるものを見出して次の成長に繋げる」戦略を披露した。
「キンモビ」の減損損失計上に伴う2022年度業績予想(カッコ内は5月13日予想との差額)は、売上収益6040億円(540億円増)、コア営業利益320億円(20億円増)、営業利益△300億円(△540)、当期利益△150(△370)、ROE(%)△2.4、ROIC(%)△1.0。
その他の収益(コア内)では、下期に優先審査バウチャーの売却や、ブロバナ(COPD治療剤)・ゾネペックスHFA(喘息治療剤)の販売権のLupin社への譲渡対価(約 112 億円)等の計上を予定している。
キンモビは、2020年上市以来、コロナ禍も伴って売上計画を下回る状況が続いていた。野村氏は、「パーキンソン病に伴うオフ症状治療剤として、既にアポモルヒネ注射剤が販売されていたが、その利用は限定的で、より簡便に使用できるキンモビは患者ニーズに応える製品として期待されていた」とこれまでの経緯を説明。売上不調及び収益予測見直しの理由としては、「レスキュー剤へのニーズを持つパーキンソン病患者は想定程大きくはなかった」、「ドーズを上げていくのに複雑な手順を必要とした」、「安全性のプロファイルが想定と異なっていた」を挙げた。
今後は、「キンモビのプロモーションを中止し、提携先を検討している。キンモビのセールスレップ20人~30人をジェムテサのプロモーションに投入してリソースを合理化する」
一方、マイオバント社の完全子会社化では、1株当たり27.00米ドル、総額約2500億円で、未保有のマイオバント社全株式を取得する。資金については、「手元資金および銀行借入により調達する予定で、借入のためのコミットメントは取得済みである」と明かした。
なお、同資金計上により、コア営業利益以下の各利益段階で減益影響が想定されるが、クロージングの時期によるため影響額は未定のため、2022年度連結業績には織り込まれていない。
2023年2月のラツーダ特許切れ以降の成長戦略では、現在米国で発売中のオルゴビクス、マイフェンブリー、ジェムテサの新製品に加えて2024年にはウロタロントの上市が予定されている。同剤は、市販後も「大うつ病補助療法」、「全般性不安障害」などの効能追加による拡大が予定されている。野村氏は、「これらの薬剤はいずれも、2030年代半ばまで独占期間がある。その後は、現在P1段階にある化合物の中からしっかりと収益の柱になるものを見出して次の成長に繋げて行く」構想を示した。
研究開発方針にも言及し、「今までのように非臨床から臨床に上がって来た化合物を順番に開発していく方法は難しい。選択的に開発する化合物を絞っていく」と明言。その上で、「研究の意思決定を研究部門に任せていたが、これからは経営がしっかりと関与し、サポートすべきものはしっかりサポートしたい」と強調した。同研究開発方針に基づいて、がん領域では、「DSP-5336」(血液がん、米国・日本P1/2)、「TP-3654」(骨髄繊維症、米国・日本P1)の重点的開発を推進する。
国内医薬品事業では、12月31日に販売提携契約期間が満了して日本イーライリリーに移管されるトルリシティ(2型糖尿病治療薬・注射剤)のリカバリーにも言及した。
糖尿病部門では、「糖新生抑制と糖取り込み能改善の2つの作用機序を持つ2型糖尿病治療薬のツイミーグが、9月より長期処方解禁となった」と報告。同剤に加えて、「従来のエクア(DPP4阻害薬)、メトグルコ(ビグアナイド系薬剤)などの豊富な種類の糖尿病治療薬を活かした販売戦略」で対応する。さらに、「糖尿病領域におけるMRのセールスフォースの優秀さを活かした新製品の販売提携の可能性」も示した。