CENP-Iを標的としたがん治療薬開発に期待
早稲田大学は23日、染色体を次世代に継承する基盤である「動原体」を維持する仕組みを発見したと発表した。
動原体を構成するタンパク質のひとつであるMis6 (ヒトCENP-I)が、動原体の土台となるCENP-Aタンパク質の維持に必要な役割を担うことを発見し、染色体を次世代へと継承するための基盤となる「動原体」が安定的に維持される仕組みを明らかにしたもの。
今回の研究を皮切りとして、CENP-Iとがん細胞との関係性を探ることで、CENP-Iを標的としたがん治療薬の開発などに結びつくことが期待される。
早稲田大学大大学院先進理工学研究科博士課程(研究当時)の平井隼人氏、同大理工学術院の佐藤政充教授らの研究グループは、染色体を次世代に継承するための基盤となる動原体を安定的に維持するしくみを発見した。
動原体が正しく形成されない場合、あるいは動原体が崩壊してしまう場合には、染色体が不均等に分配されるリスクが高まり、細胞のがん化を引き起こす可能性がある。
同研究により、染色体を均等に分配するための普遍的で重要なシステムが明らかになったことで、このシステムを標的とした新たながん治療薬の開発などにも結びつくことが期待される。同研究成果は、Nature Researchが提供するオープンアクセス・ジャーナル『Communications Biology』に、15日にオンラインで掲載された。
同研究グループは以前、染色体上にCENP-Aを「供給」する新規因子を発見していた。さらに、今回の研究では、供給されたCENP-Aを失わないように「維持」するしくみと、それを司る因子を発見することができた。
そもそも、Mis6(CENP-I)はCENP-Aを「供給」する因子だと考えられていたが、今回の研究成果は、Mis6の未知の機能を見いだしたもの。
細胞は、何回分裂を繰り返しても、染色体のセントロメア領域が動原体の形成場所として維持されたまま、継承されていく。
さらに、それは親の代から子の代へと世代を受け継ぐ際も同じで、世代を超えても染色体のセントロメア領域が常に動原体として引き継がれる。
専門的に言えば、動原体は世代を超えてエピジェネティックに受け継がれている。これは、いかなる場面でもCENP-Aが失われずに「維持」されることと密接に関係しており、同研究によって、CENP-Aを維持する機構が明らかになったことで、動原体のエピジェネティクスのしくみが解明できつつあると将来を展望している。
また、近年の研究で、胃がんや乳がん細胞ではヒトCENP-I(分裂酵母Mis6)が過剰に発現していることが報告されている。平井氏らが今回明らかにしたメカニズムと合わせて考えると、CENP-I(Mis6)の異常な過剰発現によって、染色体上の正しい位置に正しい量のCENP-Aが存在すべきだというバランスが崩れてしまい、染色体の分配が異常になり、最終的にがん化につながったと考えられる。
がん化のメカニズムには様々なものがあるが、この場合は過剰なCENP-Iの作用を抑えてあげることで、がん化阻止ができる可能性がある。今回の研究を皮切りに、CENP-Iとがん細胞との関係性を探ることで、CENP-Iを標的としたがん治療薬の開発などに結びつくことが期待される。
◆研究者のコメント
世界中の研究者の多くがCENP-Aを「供給」する仕組みについて調べる中、あえてニッチな「維持」する仕組みに目を向けて研究を粘り強く続けてきた。
その結果、意外な因子が意外な方法でCENP-Aを維持しているという、非常に重要な発見をすることができたと考えている。