塩野義製薬は15日、東京都内で記者会見し、GARDP(本部:スイス ジュネーブ)、CHAI(本部:米国マサチューセッツ州)と、世界中の国々の抗菌薬へのアクセス改善を目的とした提携契約を同日締結したと発表した。塩野義製薬とGARDPの間で技術移転を含むライセンス契約ならびに、塩野義製薬、GARDP、CHAIのの3者間での提携契約を締結したもの。
両契約に基づき、塩野義製薬、GARDP、CHAIの3者は治療選択肢が限られる薬剤耐性(antimicrobial resistance、AMR)感染症の患者に対するセフィデロコルの提供に向けた取り組みを開始する。セフィデロコルは、WHOが優先度の高い病原菌として指定するグラム陰性菌に活性を示す抗菌薬である。2019年にFDA、2020年に欧州医薬品庁(EMA)より承認を取得し、WHOの必須医薬品リストにも掲載されている。
塩野義製薬とGARDPの間で締結された抗菌薬のライセンス契約は、深刻な細菌感染症の治療を目的に製薬企業と公衆衛生を優先課題に取り組む非営利団体との間で結ばれた初めての契約となる。
GARDPは、同契約に基づくサブライセンスを通じて、新規抗菌薬へのアクセスを必要とする多くの低中所得国に対してセフィデロコルの製造・販売を担う。
対象となる国・地域は、すべての低所得国および多くの低中所得国、高中所得国を含む世界135ヵ国(世界の約70%)に及び、AMRによる影響を最も受けている国・地域の大半が含まれている。
CHAIは、低中所得国の人々の命を救い、病気の負担軽減に取り組むグローバルヘルス組織である。
会見では、澤田拓子塩野義製薬の取締役副社長兼ヘルスケア戦略本部長が、「当社は、GARDPおよびCHAIとの画期的な契約を通じて、抗菌薬へのアクセス改善に貢献できることを誇りに思う」と強調。「多剤耐性グラム陰性菌感染症に対する治療選択肢として、セフィデロコルを必要とする世界中の患者さんにお届けできるよう取り組んでいく」と抱負を述べた。
AMRは、緊急かつ重要な公衆衛生上の脅威である。最近の研究によれば、2019年にはAMRにより世界中で約130万人が死亡したと推定されている。過去の推定値の約2倍に増加している。
GARDP代表のManica Balasegaram博士は、「AMRは将来の問題として頻繁に取り上げられている。実際、薬剤耐性菌による感染症によって多くの人命が犠牲になっており、世界の医療システムに大きな打撃を与えている」と報告。
さらに、「こうした現状を変えるため、抗菌薬へのアクセスが不十分でAMRによる負担が最も大きい地域における抗菌薬へのアクセスの加速をサポートする必要がある」と断言した。
その上で、「GARDPは、資金提供パートナーからの支援を受け、塩野義製薬、CHAIと協力することで、抗菌薬を必要とする医師と患者へのアクセス改善をグローバルで加速させていく。抗菌薬の開発と輸送は、AMRと戦うGARDPの取り組みと密接に関連している」と訴求した。
必要とする患者にセフィデロコルを届けるには、技術的、法的、規制的、および経済的な多くの障壁を克服する必要がある。塩野義製薬およびGARDPは、多くの官民と連携して市場を再構築し、世界各国に医薬品を供給する能力に長けたCHAIと協力し、セフィデロコルのアクセスにおける課題に対処していく。
CHAI最高科学責任者兼感染症対策上級副社長のDavid Ripin博士は、「細菌感染症の適切な診断と治療により、生命を脅かす感染症の治療を改善できる。それには、セフィデロコルのような革新的な薬へのアクセスも含まれる」と指摘。 加えて、「CHAIは、この革新的な抗菌薬であるセフィデロコルを必要とする患者が、必要なときに必要な場所で利用できるようにするための3者による提携契約に参加できることをとても嬉しく思う」と述べた。
提携契約には、抗菌薬の適正使用を確実なものとするために必要な、医療機関でのスチュワードシッププログラムの強化を目的とした各国の保健省や専門家との協力・支援に関する規定が含まれている。
この規定は、セフィデロコルの適正使用を促し、新たな耐性菌の出現を回避するために非常に重要なアクションとなる。インドは、今回の取り組みの恩恵を受ける可能性のある国の1つだ。
インド医学研究評議会(Gol)Senior Scientist and Program Officer of AMR の Kamini Walia氏は、「インドでは、薬剤耐性の感染症患者に対する新しい治療手段を早急に必要としている」と明言。さらに、「今回の取り組みによって、セフィデロコルがより早くインドに供給され、使用できるようになることは、患者の治療において大変有益である。ただし、この薬の誤用や乱用を防ぐために、使用に関して厳格な管理を行う必要がある」とコメントした。
今回のライセンス契約ならびに提携契約は、抗菌薬への適切なアクセスをより一般的なものにするための大きな目的を有している。塩野義製薬とGARDPは、将来、同様の契約の新しい基準として役立つ可能性のある画期的な同ライセンス契約発表に合意した。
今回の取り組みは、民間企業と非営利団体の主要な関係者が結集することで、セフィデロコルを必要としている患者に届けるために必要な様々な障壁を克服する可能性を示しており、抗菌薬へのアクセスに対する精力的で有望なコラボレーションの在り方を提示したものだ。