難治性乳がん治療候補化合物として男性ホルモン合成酵素阻害剤「WH23」創出 岐阜大学

岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科の遠藤智史准教授らの研究グループは、難治性乳がんの治療を目指す新たな候補化合物として男性ホルモン合成酵素阻害剤「WH23」を創出した。
 WH23は、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)の中でも治療が困難とされるルミナル・アンドロゲン受容体(LAR)陽性サブタイプに対する新規治療薬候補化合物として注目されている。
 同研究は、乳がんにおける男性ホルモンの代謝酵素DHRS11に着目し、特異的阻害剤を開発した点に大きな意義がある。未知の部分が多いDHRS11の機能を解明する強力なツールとなるだけでなく、治療法の選択肢が限られていた患者に対し、病態に合わせた「個別化医療」を実現する新たな一手としても期待される。
 同研究成果は、2月6日に、創薬化学の国際誌「European Journal of Medicinal Chemistry」のオンライン版で発表された。

 TNBCは、ホルモン療法やHER2標的療法といった標準的な治療が効かず、治療が難しい乳がんとして知られている。中でもLARサブタイプ(LAR TNBC)は、アンドロゲン受容体(AR)を介して増殖する特徴がある。
 研究グループはこれまでに、アンドロゲン合成に関わる新しい酵素DHRS11を特定し、天然由来化合物KC-Aがこの酵素を阻害することを発見していた。同研究では、KC-Aの構造をさらに改良することで、より強力な治療効果を持つ化合物の開発に挑んだ。

強力なDHRS11阻害剤WH23の開発

 具体的には、23種類の誘導体を合成・評価した結果、最も強力な化合物「WH23」を同定した。WH23は、従来報告されている阻害剤よりも低い濃度(IC50 = 37 nM)でDHRS11の酵素活性を阻害する。分子モデリングなどの計算科学的手法と変異導入試験により、WH23がDHRS11の特定の部位(His210)と強固な水素結合を形成することが、その強力な阻害活性の鍵であることを解明した。

図1. KC-AとWH23のDHRS11ドッキングモデルの比較

二重の作用メカニズムと抗腫瘍効果

 WH23は、TNBC細胞(MDA-MB-453)において、DHRS11によるアンドロゲン供給を断つだけでなく、ARの発現自体も抑制し、下流の増殖シグナルを抑制することがわかった。また、がん細胞の生存に関わるPI3K/AKT経路も阻害することが判明した。


図2. KC-AとWH23のAR発現抑制およびアンドロゲン依存性細胞増殖抑制効果

薬剤耐性の克服と相乗作用

 臨床で使用されるAKT阻害剤カピバセルチブ(Capivasertib、Cap)には、乳がん細胞において逆にDHRS11の発現を増加させてしまうという代償作用が生じることが判明した。そこで、Cap耐性細胞に対してWH23を併用したところ、顕著な相乗効果により細胞死が誘導されることを実証した。
 同研究で開発されたWH23は、アンドロゲンに依存した難治性乳がんの治療における有望なリード化合物である。今後、動物モデルを用いた体内での有効性評価(in vivo試験)や酵素-阻害剤複合体構造の解明によりさらに改良を進め、将来的な臨床応用に向けた研究を加速させる。

◆研究者コメント
 乳がんにおける男性ホルモンの役割や関連する酵素については、まだ多くの謎に包まれている。DHRS11は比較的なじみの薄い酵素かもしれないが、その特異的阻害剤を開発することには、基礎研究を大きく加速させる重要な意義があると考えている。
 こうしたニッチな分野への探求が、最終的には治療法が限られる患者さん一人ひとりに最適な治療を届ける『個別化医療』への道に繋がることを願っている。
 

タイトルとURLをコピーしました