ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)は7日、東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻の一木隆範教授(iCONM 研究統括・主幹研究員)、東京科学大学生体材料工学研究所の松元教授らが、1 ナノリットルにも満たない超微量サンプルに含まれるブドウ糖を高精度で定量するマイクロニードルデバイスを共同開発したと発表した。
同デバイスは、静脈血に比べて採取の際の身体負荷が少ないものの微量採取しかできない皮膚中の間質液を用いた血糖値の予測を可能にする技術として期待される。同研究に関する学術論文は、11 月 17日付 Journal of Materials Science Bにオンライン掲載された。
採血は、数ある看護手技の中でも重要なものと位置付けられているが、加齢や疾病、治療などの理由で静脈への穿刺が困難なケースも少なくない。川崎市看護協会によるニーズ調査においても「誰もが簡便に、患者に苦痛を与えることなく採血できる方法はないか?」という声が多くあるため、その工学的解決法についての研究がプロジェクトCHANGEで進んでいる。
体調管理が手軽にできると近年注目されるウェアラブル生体センサーはその一例で、今回、素材として生分解性ポリマーであるポリ乳酸を用い、侵襲性低減のための微細加工を施したマイクロニードル(極めて細く短い針)デバイスが開発された。
「採血不要の臨床検査」を可能にするには、血液に代わる生体試料を何にするかを考えなくてはならない。中でも病気の診断に有用な生体成分が多く含まれる皮膚中の間質液(ISF)は有力な候補となり得る。
だが、ISF の採取・成分分析は血液に比べて難しく、極微量(サブナノリットル)の抽出技術あるいは、超小型センサーをマイクロシリンジに直接組み込む工夫が必要となる。
一木氏らの研究は、超微量サンプル中のブドウ糖を高精度で定量することをゴールに定めたものだ。血糖測定法として現在使用されている酵素法では、標的分子となるブドウ糖を酵素反応で別の物質に変え消費してしまうため、サンプル量が微量である場合には定量の正確性に影響を与えてしまう。そこで、検査中にブドウ糖を消費しない光学マイクロニードルデバイス式の血糖測定法を考案し実証した。また、酵素のような不安定生体物質を使用しておらず、デバイス使用期限の長期化にも繋がる。
研究グループは、毛細血管が密に走り血漿成分が豊富な皮膚網状層の ISFを効果的に採取するために長さ2mmの透明度の高いポリ乳酸製マイクロニードルを製造し、その先端部にハイドロゲル光重合により機能性を持たせる技術をこれまでに報告している。
今回の研究では、ブドウ糖と定量的かつ可逆的に結合するボロン酸を含む蛍光性ハイドロゲルで先端が機能化された光学マイクロニードルデバイスを開発し、サブナノリッターレベルという超微量サンプル中のブドウ糖を高精度で定量することに成功した。

マイクロニードルの先端部には、直径100μm×深さ100μmのポケット(容積 0.79 nL)があり、その接触部に埋め込まれたボロン酸含有ハイドロゲルブロックは、ブドウ糖を検知すると光の照射により蛍光を発する。
様々な濃度の試料から得られる蛍光を GRIN レンズで集光し、その強度を調べるとハイドロゲル中のボロン酸に取り込まれたブドウ糖量との間に定量性があることが確認できた。この時の誤差は 0.0%~9.6%と、市販されている自己血糖測定器の誤差範囲基準に十分収まった。

先端に機能性ハイドロゲルを持つ光学マイクロニードルデバイスは、測定対象となる化合物を消費することなく定量分析を行うことができるため、超微量サンプルの検査に有効な手段となる。
検査を受ける側のみならず検査を行う側にとっても身体的精神的な負担となる採血に代えて、皮膚網状層のISFを使った臨床検査法の開発は、今後増加する在宅医療の質と効率性を変え
ることにも繋がると期待される。

