子どものスクリーンタイムの長さとADHD症状、脳構造の関連を解明 福井大学

スクリーンタイムが長いほどCBCL測定のADHD症状得点高く、脳皮質薄い

 福井大学子どものこころの発達研究センターの寿秋露特命助教らの研究グループは、子どものスクリーンタイム(テレビ・ゲーム・スマートフォンなどの利用時間)、注意欠如多動症(ADHD)症状と、脳の構造の関連を解明した。
 スクリーンタイムが長い子どもほど、2年後にChild Behavior Checklist(CBCL)で測定したときのADHD症状の得点が高くみられ、前頭葉・側頭葉など脳の皮質が薄いことを発見したもの。同研究は、世界最大規模の小児縦断研究「Adolescent Brain Cognitive Development(ABCD) Study」のデータを用いて実施された。
 具体的には、ベースライン時(9~10歳)の1万0116名と、2年後の追跡時点で得られた7880名の子どもを対象に、スクリーンタイム、ADHD症状(Child Behavior Checklist、CBCLにより評価)、脳構造(MRIによる測定)の関連を調べた。
 分析の結果、スクリーンタイムが長い子どもほど、2年後にCBCLで測定したADHD症状の得点が高くみられる傾向があり、あわせて脳の一部(右側頭極、左上前頭回、左吻側中前頭回)で皮質が薄くなる傾向があることが判った。さらに、脳全体の皮質体積がスクリーンタイムとADHD症状の関係を部分的に仲介(媒介)していることも確認された。
 これらの知見は、スクリーンタイムがADHD症状および脳構造、さらにそれらの発達と関連していることを示しており、スクリーンタイムとADHD症状との関連に関わる神経メカニズムの解明に重要な示唆を与えるものである。
 同研究は、発達期におけるデジタルメディア利用の脳科学的理解を深め、今後の健全なメディア使用ガイドラインの策定や教育・医療現場での支援方針づくりへの貢献が期待される。
 近年、インターネットやスマートフォンなどのデジタルデバイスの普及により、子どもや思春期の若者の「スクリーンタイム(画面視聴時間)」は急速に増加している。特にCOVID-19以降は、オンライン授業やリモートでの交流が一般化し、長時間のスクリーン利用が日常化した。だが、過度なスクリーン利用は、身体活動や睡眠時間の減少、心理的健康や学業成績への悪影響が報告されており、さらに脳の発達に影響を及ぼす可能性も指摘されている。
 これまでの研究では、スクリーンタイムがADHD症状の重症度と関連することが報告されてきたが、その多くは横断研究であり、発達に伴う変化や神経生物学的なメカニズムについては十分に解明されてなかった。
 また、脳構造との関連についても、前頭前野や帯状回などの特定の領域に変化がみられるという報告はあるものの、大規模データを用いた縦断的検証は少なく、メカニズムの全体像は明らかではなかった。
 同研究は、アメリカ国立衛生研究所(NIH)が主導する大規模縦断プロジェクト「Adolescent Brain Cognitive Development(ABCD) Study」のデータを用い、スクリーンタイム、ADHD症状、および脳構造の三者の関係を詳細に検討したもの。
 対象はベースライン時(9〜10歳)の1万0116名および2年後追跡時点で得られた7880名であり、MRIによる脳画像データ、行動データ、スクリーンタイムデータを解析に用いた。
 分析では、ベースライン時のスクリーンタイムが2年後のADHD症状および脳構造の変化に与える影響を検討し、さらに脳構造がスクリーンタイムとADHD症状の関係を媒介するかを明らかにするため、媒介分析を実施した。

図1


 その結果、スクリーンタイムはADHD症状の増加と有意に関連しており(図1)、また右側頭極、左上前頭回、左吻側中前頭回などの脳領域で皮質厚の減少とも関連していた(図2)。 

図2

 さらに、全皮質体積がスクリーンタイムとADHD症状の関係を部分的に媒介していることが明らかになった(図3)。

図3


 これらの結果は、スクリーンタイムが脳構造の発達およびADHD症状の発達に影響を与える可能性を示している。
 同研究は、スクリーンタイムとADHD症状の関連における脳構造の媒介的役割を初めて示した縦断研究で、発達期の子どもにおけるデジタルメディア利用の神経学的影響を明らかにする上で重要な知見を提供した。
 特に、皮質体積の減少という脳の構造的変化が、ADHD症状にみられる注意制御の困難さや衝動性と関係している可能性を示した点は、教育・臨床現場においても重要な示唆となる。
 今後、同研究グループでは、脳の機能的結合やネットワーク解析などの脳機能指標を用いて、神経ネットワークレベルでのメカニズムをさらに明らかにしていく。

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