小野薬品は28日、チラブルチニブについて、米国の再発または難治性の中枢神経系原発リンパ腫(PCNSL)患者を対象とした非盲検P2試験(PROSPECT試験)において、投与の奏効率66.7%、完全奏効率44%で、管理可能な安全性プロファイルが示されたと発表した。これらの試験の結果は、米国時間2025年5月31日に米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で口頭発表される。
チラブルチニブは、小野薬品が創製した選択性の高い不可逆的な経口第2世代ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害剤である。2023年3月に米国FDAより、PCNSLの治療薬としてオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)の指定を受けている。今後、PROSPECT試験のデータはFDAに提出される予定である。なお、同剤は、日本、韓国および台湾で「再発または難治性の中枢神経系原発リンパ腫」の効能又は効果で承認されている。
PCNSLは、脳実質、脊髄、眼球、レプト髄膜に限局し、全身に病変を認めない希少疾患で悪性度の高い節外性非ホジキンリンパ腫(NHL)である。米国でのPCNSLの年間発生率は100万人当たり約5人。その発生率は65歳以上の免疫不全の人でさらに増加する。
PCNSL患者が呈する徴候および症状は病変の神経解剖学的部位により異なり、局所神経障害、神経精神症状、頭蓋内圧上昇に関連する症状、発作、眼症状、頭痛、運動困難、脳ニューロパチー、神経根障害などがある。米国ではPCNSLに対して承認された治療薬はなく、治療アプローチを支持するデータも非常に限られている。
最近、導入治療後に新たにPCNSLと診断された患者の臨床結果は改善しているが、約20〜30%の患者で初回治療が奏効せず、最終的には60%の患者が再発に至る。
PROSPECT試験では、再発または難治性のPCNSL患者48例が、1日1回、チラブルチニブ単剤の経口投与を受けた。同試験の主要評価項目はORRであり、副次評価項目には、奏効期間(DOR)、奏効までの期間(TTR)および安全性が含まれている。
中央値11.5カ月の追跡調査において、ORRは67%、完全奏効率は44%であった。DORの中央値は9.3カ月、TTRの中央値は1.0カ月。探索的評価項目として評価した全生存期間の中央値は未達で、無増悪生存期間の中央値は6.0カ月であった。
安全性プロファイルでチラブルチニブは、概ね良好な結果を示した。データカットオフ時点で、13例(27%)がチラブルチニブの投与を継続していた。投与の中止に至った主たる理由は病勢進行(54.2%)および死亡(8.3%)で、有害事象(AE)の発現により投与を中止した症例は1例であった。
グレード3以上の治療中に発現したAE(TEAE)の発現率は56.3%であった。グレードを問わない治療に関連するAEの発現率は75.0%で、うち最も頻繁に認められたのは、貧血(18.8%)、斑状丘疹状皮疹(16.7%)、疲労(14.6%)、好中球数減少(14.6%)、リンパ球減少(14.6%)、そう痒(14.6%)、発疹(14.6%)であった。TEAEによる死亡が患者2例で発生したが、いずれも同薬との関連性はないと判断された。
◆PROSPECT試験治験調整医師のTracy Batchelor氏(マサチューセッツ総合病院ブリガム神経学部門長、MD, MPH)のコメント
PCNSLは、希少疾患で悪性度の高い節外性非ホジキンリンパ腫であり、生存率は一般的に低く、米国では承認された治療薬はない。PROSPECT試験のデータは、チラブルチニブが、再発又は難治性のPCNSL患者さんに有望な奏効率をもたらすことを示しており、深刻な疾患と闘う患者さんの有効な治療選択肢となる可能性を支持するものである。
◆Thomas Lechner ONO PHARMA USAメディカルアフェアーズ担当バイスプレジデント(MSc.、Ph.D.)のコメント
現在チラブルチニブは、日本、台湾および韓国において、再発または難治性のPCNSLの治療薬として承認されている。困難な疾患と闘う米国の患者さんにも、一刻も早くこの有望な治療選択肢をお届けできることを願っている。