
JCRファーマは7日、メディア向け会社・工場説明会を同社神戸サイエンスパークセンター(神戸市)で開催し、同センター原薬工場見学も実施した。
同社は、治療法が確立していない希少疾病に用いる医薬品の研究開発を推進しており、研究開発から国内での生産、販売まで一貫した体制で高品質な医薬品を創出する「研究開発力」と「モノづくり力」を強みとする。
JCRファーマでは、1993年に遺伝子組換え天然型ヒト成長ホルモン製剤「グロウジェクト」の製造販売を開始。また、2021年には世界初の独自の血液脳関門通過技術「J-Brain Cargo」を適用した世界初の遺伝子組換えムコ多糖症Ⅱ型治療剤(ライソゾーム病治療剤)「イズカーゴ」を上市した。2023年度売上高は428億円。その内、グロウジェクト(179億円)、イズカーゴ(51億円)、テムセル(再生医療等製品、32億円)の主要3製品が62%占める。
他にも、エポエチン(腎性貧血治療剤、19億円、キッセイ薬品が医薬情報活動および販売)、ダルベポエチン(腎性貧血治療剤、26億円)、アガルシダーゼ(ライソゾーム病治療剤、16億円、住友ファーマが医薬情報活動および販売)などの製品群を擁する。2024年度売上予想は330億円。また、2021年度は、アストラゼネカの新型コロナワクチンの原薬を受託製造したため過去最高売上高511億円を計上した。

従業員数は約1000名。2024年度の研究開発費予想は136億円。自社開発パイプラインは、ライソゾーム病関連17品目以上、成長ホルモン製剤1品目。ライソゾーム病関連品の一つであるJR171(グローバルP1/2)は、導出に向けて交渉中である。

あいさつの中で芦田信会長兼社長は、「当社は、1975年に創業し、今年で50周年を迎える。創業当初からバイオに関わる事業を展開しており、合成等の医薬品に携わったことがない」と明言。その上で、「研究に興味があったので、売上高の20~35%を研究開発費に投資してきた。この投資が実を結び、中枢神経系に必要な薬剤を届ける基盤技術のJ-Brain Cargoが誕生した。前期は18年振りに赤字決算となったが、来期は間違いなく黒字化する」と同社の経緯を説明した。
さらに、「これまで、苦しんでいる子供達やそのご家族の思いになんとか応えようと小児の希少疾病の新薬開発に取り組んできた。今後の50年に向けては、小児の希少疾病は勿論、すべての人々のアンメットメディカルニーズに応える素晴らしい技術を創出していきたい」と抱負を述べた。
JCRファーマの開発パイプラインのメインターゲットであるライソゾーム病は、細胞一つ一つの中にあるライソゾーム内で機能する酵素の働きがなかったり、弱くなったりして分解されるべきものが細胞に溜まる疾患だ。
ライソゾームは、細胞の中のいわゆる「ごみ処理工場」で、特定の酵素が生まれつき欠損、または働きが低下していると、その老廃物(ゴミ)が体内に蓄積してしまう。老廃物が溜まる部分によって、内臓障害、骨や筋肉の異常、知能障害など様々な症状を惹起する。
ライソゾーム病の全身症状では、関節拘縮や骨変形、肝臓・脾臓の肥大、呼吸障害、弁膜疾患、中枢神経系症状では、知的な発達の遅れ、行動の異常、けいれん発作ーなどが挙げられる。ライソゾーム病は、子供の成長とともに今までできていたことがだんだんできなくなり、幼くして亡くなるケースもある。
ライソゾーム病の治療は、体外で作った酵素を体内に入れる薬物治療が行われる。だが、肝臓、肺、腎臓には薬物が届くものの、脳は脳血液関門が薬物をブロックして届かないため、治療における大きな障壁となっていた。

薗田啓之取締役専務執行役員(研究担当、研究本部長)は、「酵素は分子量が大きく脳血液関門を通過できない。当社が独自開発した血液脳関門通過技術のJ-Brain Cargoによってこの課題を解決した」と話す。さらに、「J-Brain Cargo技術は、様々な疾患への応用が期待できる」と強調する。
今後、同技術の応用により、脳(アルツハイマー)、眼(神経変性疾患)、骨格筋(眼疾患)、軟骨(骨系統疾患)、筋疾患などの治療薬開発が注目される。「JCRファーマでは希少疾患、希少疾患以外の疾患は他社とパートナーシップを組んで治療薬開発を進めていく」(薗田氏)。なお、メディパルホールディングスと「超希少疾病」、アレクシオン社、アンジェリーニ社と「J-Brain Cargo」、モダリス社と「新規遺伝子治療開発」に関する提携を締結している。
神戸サイエンスパークセンターはシングルユースによる原薬生産が特徴

一方、メディア公開された神戸サイエンスパークセンターは、厚労省の「ワクチン生産体制等緊急整備事業」による新型コロナワクチンの原薬工場として整備され、平時は同社が開発を推進する希少疾病向け医薬品の開発、製造を行い、感染症などのパンデミック時には国の求めに応じて活用される。
神戸サイエンスパークセンター原薬工場は、4基の2000Lシングルユースリアクターによる原薬生産が大きな特徴だ。シングルユースとは、単回使用、プラスチック製のバッグやチューブなどの使い捨てを意味する。これにより、交差汚染リスクの低減、洗浄や滅菌バリデーションの省力化、製品切り替え期間の短縮化などが図られている。
現在、建設中の神戸サイエンスパークセンター新製剤工場は、製剤棟地上3階建て、事務棟地上3階建て、自動倉庫棟(常温・冷蔵)で構成される。敷地面積2万7557㎡、建築面積5060㎡、延床面積1万4775㎡。総工費約250億円(ワクチン生産強化のためのバイオ医薬品製造拠点等整備事業にかかる補助金を活用予定)。2026年9月に竣工、2027年の稼働を予定している。
