アステラスは2024年、バイオテクノロジー分野でのさらなる躍進を目指し、米国の東西に最先端のイノベーションセンターを設立した。5月にはカリフォルニア州サウスサンフランシスコにあるバイオテクノロジー・エコシステムの中心にAstellas West Coast Innovation Center(アステラス ウェストコーストイノベーションセンター)を開設。9月にはマサチューセッツ州ケンブリッジにAstellas Life Sciences Center(アステラス ライフサイエンスセンター)をオープンした。両センターは、アステラスがコラボレーションを促進し、科学の限界を押し広げ、世界中の患者に新たな治療法という「価値」を届けることを目指す最先端の施設である。
Astellas Life Sciences Centerでパーナーシップ構築やデータ管理を担うDaniel Hoeppner氏と、Astella West Coast Innovation Centerで神経筋疾患の遺伝子治療研究をリードするMolly Ryan氏が、それぞれの拠点での日常や、新しい環境がどのように彼らの研究に革新をもたらしているかを紹介する。
パートナーシップ、そして実践的な研究を推進
両センターでは、日々の業務において学際的なチームワークと自発的なイノベーションを重視している。ダン氏はAstellas Engineered Small Molecules(アステラスエンジニアードスモールモレキュールズ)チームのパートナーシップ構築およびデータ管理責任者として、事業開発、データ、実践的な研究の橋渡しを行い、統合的な研究アプローチを推進している。
「私の役割は、パートナーシップの構築と、研究を円滑に進めるためのデジタルデータの管理です」と話すダン氏。ダン氏はかつて研究に従事していた経験を活かし、研究プロジェクトに直接関わることも多く、「Astellas Life Sciences Centerでは新たなアイデアが共有スペースでの有機的な交流からも生まれる」と語る。
さらに、「対面での会議だけでなく、コーヒーブレイク中の何気ない会話からも新たな洞察を得ることが多いと感じています」と続ける。
Astellas Gene Therapies(アステラスジーンセラピーズ)で神経筋疾患研究をリードするモリー氏も、ダン氏と同様の経験をしている。神経筋疾患の遺伝子治療プログラムの部門横断チームのリーダーとして、日々さまざまな分野の専門家と綿密に連携するモリー氏は、「メンバーが一堂に会することで大きな変化が生まれました」と強調する。
「探索研究や前臨床研究を担うチームからプロジェクト管理を行うチームまで、センター内のメンバーと容易に連携できることで、自発的なコラボレーションが円滑に行われている」
Astellas West Coast Innovation Centerも、エレベーターやカフェスペースなどでカジュアルに交流しやすいレイアウトとなっており、チームのつながりを強化し、イノベーションを促進するのに最適な環境である。
アイデアは、部門を超えた自発的なコラボレーションから生まれるという原則のもと、両センターは対面交流を促す構造で設計されている。Astellas Life Sciences Centerでは、この原則がSakuLabTM-Cambridge MA(マサチューセッツ州ケンブリッジ)の設置によって実現され、当社の米国初のオープンラボスペースとして、共創とイノベーションの拠点となっている。このオープンラボは、創薬探索活動の一環として、合成生物学に焦点を当て、バイオベンチャーやアカデミア、インキュベーターとのパートナーシップを積極的に模索している。
入居企業は、施設の利用に加え、製薬の専門家との相談や貴重なネットワーク構築の機会を得ることができる。
標的タンパク質分解誘導と遺伝子治療における統合的な研究アプローチ
両センターにおいて、アステラスは最先端の創薬研究に注力している。Astellas Life Sciences Centerでは、標的タンパク質分解誘導(従来アプローチできなかった疾患に関連するタンパク質を標的にする方法)などの新しい治療法を前臨床研究段階まで進めることで、アンメットメディカルニーズが高い疾患に対する創薬のイノベーションを加速している。
「ここには、メディカル担当CMO(Chief Medical Officer)が率いる活気溢れる臨床研究者のコミュニティがあり、彼らと連携して研究戦略を策定し、研究結果が開発そして患者さんへの価値創出につながるよう支援している」とダン氏は語る。さらに、「私たちは最先端の研究施設を活用して、研究プロセスを最適化し、実際の結果を目に見える形で得られるようになった」と続ける。
これは、アステラスが研究の優先順位を最適化し、タンパク質の恒常性を調節するなどの強力な新しい治療法の探索を加速していることを示している。
一方、Astellas West Coast Innovation Centerでは、モリーのチームが神経筋疾患に焦点を当てた複雑な遺伝子治療の研究を進めている。
モリー氏は、「遺伝子治療は従来、機能喪失型変異による希少な疾患に対する遺伝子置換療法に重点を置いてきましたが、将来を見据えて、より困難な疾患を対象にした治療法の確立を目指しています」と話す。モリー氏のチームは、現在、遺伝子置換療法に加えて、機能獲得型変異による疾患に対する治療法の研究に注力している。
これは、欠損した遺伝子を置き換えるのではなく、毒性を持つようになった変異遺伝子を制御する治療アプローチです。モリー氏は、「遺伝子治療の領域で次のステップを進めるには、従来のアプローチを再考する必要があります」と述べ、「革新的な治療法の確立にはクロスファンクショナルなコラボレーションが必要不可欠である」と強調する。
このように両センターは、科学の進歩を患者さんの「価値」に変えるというアステラスのコミットメントに基づき日々研究に邁進している。アステラスは引き続き、標的タンパク質分解誘導や遺伝子治療など、当社がPrimary Focus(プライマリーフォーカス)として選定する領域へ重点的に投資し、アンメットメディカルニーズが高い疾患を克服する新たなヘルスケアソリューションを開拓していく。
米国東西のサイエンスエコシステムにおける立地条件の活用
両センターの立地条件も、最先端の科学やイノベーションにアプローチする上で重要な役割を果たしている。Astellas Life Sciences Centerがあるマサチューセッツ州ケンブリッジ・クロッシングには、大手製薬企業やバイオテック企業、アカデミアが密集しており、活発なサイエンスコミュニティが形成されている。「多様な組織が集まるエリアなので、近隣で開催される会議やイベントには徒歩や自転車で参加できる」(ダン氏)。
また、同センターのユニークな特徴として、公共ピアノが設置されており、従業員と近隣住民が交流し、懇親を深めるきっかけとなっている。こうした地域とのつながりにより、研究者は多彩なイノベーションのエコシステムに参加し、組織の枠を越えた有意義なパートナーシップを育むことができる。
一方、サウスサンフランシスコにあるAstellas West Coast Innovation Centerは5 階建ての施設で、研究室とオフィスが互い接続された構造となっており、コラボレーションが生まれやすい環境が整っている。「多様な研究者が密接に連携できる環境を整えることで、それぞれのノウハウや知見、ツールを共有できるようになりました。こうした好循環は、研究者たちがベイエリアの各地に散らばっていた状況では得られなかった」と強調するモリー氏は、「研究者が一堂に会することで、まとまりのあるユニットとして機能し、互いに学び合い、それぞれの研究プロセスにおいてより効果的に協働できるようになった」と話す。
さらなるイノベーションの基盤強化に向けて
ダン氏とモリー氏は、アステラスがバイオテクノロジー・エコシステムに深く根ざすことで、コラボレーションがさらに強化されることを期待している。「ケンブリッジに新たな仲間が加わり、この地域がより活性化することを楽しみにしている」とダン氏。
モリー氏は、「遺伝子治療や細胞医療の複雑な課題に挑戦し続けることで、Astellas West Coast Innovation Centerで協働する多様なチームのつながりがより強固になることを期待している」と明言。
その上で、「さまざまな機能をもつチームが一つ屋根の下に集まった結果、センター内で循環するエコシステムを構築できている」と強調する。
ダン氏とモリー氏の経験を通じて、両センターは、コラボレーションを活性化し、画期的な研究活動を支える環境であることが伝わる。アステラスは、米国東西の2拠点は単なる施設ではなく、新たなイノベーションと共創を生み出し、ヘルスケアを進化させるというグローバルな使命を実現するうえで中心的な存在になると確信している。