2025年大阪・関西万博とミライ医療 2050年はセルフケア中心となり、かかりつけ薬剤師が生活を指導  森下竜一大阪大学大学院医学研究科臨床遺伝子治療学寄付講座教授

第26回近畿薬剤師学術大会ハイライト

森下氏

 第26回近畿薬剤師学術大会が10日、「地域と薬剤師の調和~創造力とコミュニケーションの能力が未來への澪標(みおつくし)」をメインテーマに大阪市内で開催され、2025大阪・関西万博大阪ヘルスケアパビリオン総合プロデューサーの森下竜一氏(大阪大学大学院医学研究科臨床遺伝子治療学寄付講座教授)が「2025大阪・関西万博から考える2050年のミライ医療・薬剤師の果たす役割とは」をテーマに特別記念講演を行った。
 森下氏は、来年4月13日から10月13日の184日間、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに大阪市の人工島‟夢洲”で開催される「2025大阪・関西万博」の進捗状況や将来的な医療の話を盛り込みながら、2050年の大阪を具現化した大阪パビリオンへと誘うレクチャーを展開。「2050年は、生活の中にある様々な場所で検査値など自分について色んな事が分かる機会があってセルフケアが中心となり、かかりつけ薬剤師が生活を指導している時代になる」と語った。

完成した大屋根

 森下氏は、万博の進捗状況について、「直径2025m、高さ12m(外観は20m)内径約615mの世界最大級の木造建築物となる極めて大きな世界最大の木造建築物のリング(大屋根)が完成した。30分から40分で中を1周できる」と紹介し、「全てのパビリオンの建築も開催まで間に合う」と力を込めた。
 万博とオリンピックの制度上の違いについても、「万博は国のイベント、オリンピックは東京都のイベントであることが大きく異なる。ナショナルイベントの万博の方が格上で、開催期間もオリンピックはパラリンピックも入れて1カ月程度、これに対し万博は半年と長く、準備期間も5年間を費やしている」と言い切った。
 大阪府・市が「万博誘致」に踏み切った大きな理由は、「大阪人の健康状態は決して良くなく、それを変えたい」ためで、‟命”がテーマとなった。大阪は、薬、ヘルスケア関連企業も集積しているという地の利もある。1970年の大阪万博では、地元のパビリオンが無かったが、2025大阪・関西万博では大阪・関西経済発展への貢献を目的に、‟大阪パビリオン”を出展する。政府館とともに最大の大きさを誇る大阪パビリオンでは、「Reborn」のテーマのもと、「健康」という観点からの未来社会の新たな価値の創造への取り組みが展開される。

 現在、日本は高齢化がどんどん進んでいる。人口ピラミッドの推移をみれば、1950年は若い年齢層が多く、裾野が広がる富士山型であった。その後、団塊の世代の年齢の推移とともにつぼ型へと変化し、2000年にはつぼ型からの移行期を迎えて人口減少に向かい、2050年には世界に類を見ない逆富士山型を形成するようになる。
 その一方で、老後期間は伸長していく。1920年は60歳定年の下、夫は61歳で亡くなりその老後期間はわずか1年であった(妻の老後期間は5年)。国民皆保険制度ができた1961年の老後期間は夫12年、妻16年で、2017年には65歳定年制で老後期間は夫16年、妻24年と伸長した。生産者人口の減少により‟入り”が減って、‟出費”が増加していく構造を余儀なくされている。

 その間、消費税は、1989年の3%を皮切りに、その後、5%、8%、10%と増加したが、単純に今のままの社会保障制度を続けると25%まで上昇するものと予測される。
 国民皆保険制度ができて60年が経過している。その当時と現在は同じではなく、生物学的年齢が変化しており、元気で普通に働ける期間が伸びている。さらに、現在では、健康寿命が新しい指標として注目されている。

 そこで、これまで65~74歳を前期高齢者、75~89歳を後期高齢者、90歳以上を超高齢者としていたものを、75歳以上を「高齢者」とする高齢者定義の変更が提言された。
 18~64歳で65歳以上を支える場合、2017年が2.1人に1人、2040年1.5人に1人、2065年1.3人に1人であったものが、18~74歳で75歳以上を支える場合、2017年5.1人に1人、2040人3.3人に1人、2065年2.4人に1人と、75歳以上を「支えられる側」とすれば景色が大きく変わる。この構想を実現するには、たとえ齢を重ねても、もっともっと元気でいることが重要となる。

 改善可能な主要な日常項目8項目には、①日常的な果物の摂取習慣(7日以上/週)、②日常的な鮮魚・魚介の摂取習慣(7日以上/週)、③日常的な乳製品の摂取習慣(5日以上/週)、④習慣的な運動または歩行(1時間以上の運動/週、または30分以上の歩行/日)、⑤適正体重の維持(BMI:21.0~25.0kg/㎡)、⑥適量飲酒(日本酒換算で1日2合以下)、⑦非喫煙および禁煙、⑧適正な睡眠時間(5.5~7.4時間/日)ーが挙げられる。

 こうした中、2025年大阪・関西万博が開かれる。「Reborn」をテーマとする大阪パビリオンは、健康、医療が大きなトピックとなっており、2050年のミライに実現を目指す都市生活の姿が描き出されている。
 2050年には検査等は全て街中でできるようになる。現在の病院の機能はもはや家庭で可能となり、朝起きたら血糖値や心電図が確認できるようになり、本当に病気の人だけが病院に来るようになる。
 街中を自動走行するモビリティやレストラン、ショップ、劇場など生活の中にある様々な場所で自分について色んな事が分かる機会があり、同時に食、運動、ココロといったパーソナライズケアが存在している。 このように2050年には、セルフメディケーションが主体となり、その機能は今病院で行われている機能の7割から8割までに拡大され、かかりつけ薬剤師が中心となって、普段の生活が指導されるようになる。
 生活習慣病の治療は民間ベースで行われるようになり、病院の治療は、最先端治療など特別なものに限定されてくる。その中で、市民はもっともっと健康で長生きを目指す。
 大阪パビリオンでは、「知る・感じる」、「体験できる」、「みんなで参加できる」という視点から、展示やイベントを通じて3つのサブテーマとなっている「Saving Lives(いのちを救う)」、「Emopowering Lives(いのちに力を与える)」、「Connecting Libes(いのちを繋ぐ)」にアプローチする。
 加えて、「People’s Living Lab(未来社会の実験場)でもある。大阪パビリオンには、300万人を超える世界中の来場者の健康データが蓄積される。それらのデータを元に、「日本人が元気になるには何をすれば良いのか」の施策の探求も可能となる。
 来場者は、普段の生活をしていても自動的に健康状態が把握できる2050年の生活様式を体験できる。メインエントランスから入場すると「アンチエイジング・ライド」が円を描きながら稼働している空間を見上げる。ブリーフィングスペースがありライドに搭乗するための基礎データ登録を行い来場者個々のアバターが作成される。
 「アンチエイジング・ライド」での診断サマリーを元に、パーソナライズされたヘルスケア・フードドリンクを提供する「ミライのフードスタンド」、「ミライの医療」、テクノロジーとオーガニックが組み合わされた「街中のスキャンニングマシン、「ミライのヘルスケア」、「大阪の未来技術・産業」、「ミライの大阪モン」、「ミライのエンタメシアター」などフューチャリスティック体験を提供する。
 パビリオン出口では、25年後の姿に変換された来場者個々のアバターが出現し、2050年の自分と出会える趣向も見逃せない。普段体験できないものに出会えるのも万博の魅力である。
 2050年のミライ都市では、普段の自宅での生活と街を歩いているだけで診断が行われ、健康管理が可能になる。さらに、遠隔で医師の指導を受け、適切な在宅疾病管理で重症化予防、安心できる救急対応が構築されている。大阪・関西万博会場においても生体情報、位置情報により‟突然死ゼロ”を目指している。

生命(いのち)の球

 1970年の大阪万博の太陽の塔には‟生命の木”が設置されていたが、今回の万博では、未来型の野菜の水耕栽培と魚の養殖を同時に実施する「生命(いのち)の球」を大阪パビリオン前に設置する。
 温度域、塩分濃度など環境の異なる水槽を球全体に複数設置し、多様な環境下での魚類、野菜の組み合わせが展示される。
 また、大阪パビリオンの認知度向上と誘客促進を目的に、来年1月15日から10月13日までバーチャル大阪パビリオンが実施される。展示ゾーンでは、リアルのパビリオンへの出展企業や、大阪の中小企業、スタートアップ等による「2050年のミライの姿」や「2050年に繋がる現在の取り組み」が紹介される。
 メインステージでは、人気VTuberによる音楽ライブや、リアルと連携したイベント等が実施される。
 また、デジタルIDにより、個人に帰属するデータを軸にしたサービス創出も可能になる。デジタル地域通貨に言語情報(AI)・決済情報・位置情報(ビーコン)・生体情報をヒモ付け、地域でのサービス流通・地域経済活性化に繋げる。
 

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