新潟大学大学院医歯学総合研究科皮膚科学分野の長谷川瑛人助教らとドイツのマックス・プランク生化学研究所(MPIB)のMatthias Mann教授らの国際共同研究グループは29日、重篤な薬疹である中毒性表皮壊死症(TEN)の予後を改善させる新規治療法を開発したと発表した。
TENは様々な薬剤が原因で発症し、全身の皮膚や粘膜が壊死してしまう致死的疾患で、国が定める指定難病である。日本の診療ガイドラインにおいては副腎皮質ステロイドの全身投与が第一選択で、難治な症例には免疫グロブリン大量静注療法や、血漿交換療法などが行われるが、約30%の患者が致死的な経過となる。
TENのメカニズムは完全には解明されていないため、病気のメカニズムを解明し、より有効な新しい治療法の開発が必要とされてきた。
同研究グループは、最新の研究技術である空間プロテオミクスを用いてTENの発症メカニズムを解明し、新しい治療薬の開発を行った。
具体的には、空間プロテオミクスを用いて、TEN患者の皮膚組織を解析した。特に、Matthias Mann教授らが開発したディープ・ビジュアル・プロテオミクスと呼ばれる、高性能な顕微鏡、AIによる解析、超高性能な質量分析の技術を融合し1個1個の細胞に含まれるタンパク質を正確に定量する最先端の技術を使用した(図1)。
TEN患者の皮膚の細胞のタンパク質を詳細に解析した結果、炎症を起こすJAK/STAT経路が著明に亢進していることが分かった。アトピー性皮膚炎や関節リウマチなどの疾患において、このJAK/STAT経路を阻害する治療薬であるJAK阻害剤がすでに開発されている。
同研究ではモデルマウスを用いてJAK阻害剤の有効性を検証した上で、実際のTEN患者にJAK阻害剤を使用し、その有効性を実証した。
TEN患者の皮膚を空間プロテオミクスで解析した結果、TEN患者の皮膚ではJAK/STAT経路が著明に亢進していることが分かった(図2)。
TENの病態を模したモデルマウスに対しJAK阻害剤を投与したところ、TEN様の症状を抑制することができた(図3)。
この結果に基づき、7名のTEN患者にJAK阻害剤を投与したところ、7名全員が速やかに治癒し大きな副作用もみられなかった(図4)。
同研究の結果から、TENに対してJAK阻害剤が非常に有効な治療法である可能性が示された。これらの研究成果は、10月16日、科学誌「Nature」(IMPACT FACTOR: 50.5)に掲載された。
今回の研究で、TENに対してJAK阻害剤が有効な治療法である可能性が示された。今後は、より大規模な臨床試験を行い、TENに対するJAK阻害剤の有効性と安全性を検証し、実用化を目指す。