難聴の早期診断や新しい補聴方法の開発に期待
岐阜大学大学院医学系研究科生命原理学講座生体物理・生理学分野、高等研究院One Medicineトランスレーショナルリサーチセンター先端医療機器開発部門の任書晃教授と新潟大学自然科学系(工学部)の崔森悦准教授らのグループは、ヒトが超音波を内耳で受容する仕組みを発見した。
モルモットの内耳蝸牛に本来動物が聞くことができない高い周波数を持つ超音波を与えると、蝸牛の入り口に位置するフック部の有毛細胞が超音波に同期して超高速で振動・活性化することを世界で初めて実証したもの。同研究成果は今後、難聴の早期診断や新しい補聴方法の開発などに繋がる可能性が期待される。
有毛細胞とは、蝸牛で音を電気に変換する細胞である。可聴音を認識する有毛細胞が、本来受け取る周波数とその整数倍の音を感知することが超音波受容の原理である。これらの研究成果は、7月25日付で“米国アカデミー紀要 Nexus”に掲載された。
20 kHzを超える超音波はイルカやコウモリなど限られた動物が聴取可能とされてきた。だが、ヒトでも骨を介した音刺激を用いれば超音波を聴取できることが知られている。
この現象は「超音波聴覚」と呼ばれ、その発見以来75年以上にわたり謎であった。従来想定されてきた仕組みとして、超音波が聴覚に関する神経を刺激する骨により超音波が可聴音へと変調するなどの可能性があったが、決定的な証拠はなかった。
そこで任書氏らは、全身麻酔をかけたモルモットに可聴域を超える超音波を与え、神経の興奮と有毛細胞の電流を測定した。通常、側頭骨を介した音刺激でのみ非可聴域の超音波が知覚されるが(図:赤矢印)、中耳の骨「耳小骨」に直接超音波刺激を加えると、超音波を知覚できた。すなわち、蝸牛は本来超音波を受容できることが判明した(図:青矢印)。
さらに、先端光学計測装置である光干渉断層撮影装置(OCT)を活用して、音が有毛細胞に引き起こす1000億分の1センチの振動をフック部で測定した。フック部は可聴域の上限付近の高い周波数の音を受け取る場所である。振動を解析すると、有毛細胞は通常受容する可聴域の周波数に加えて、その2倍、3倍の周波数(高調波、図:緑四角)に応答していた。この応答が、可聴域を超える超音波の感知を可能にする(図:新しい可聴域)。
同研究成果により、超音波聴覚が有毛細胞機能を反映することが明らかになり、今後難聴の早期診断や新しい補聴方法の開発などに繋がる可能性がある。