オーリオンバイオテック・ジャパンは8日、7日に開催された中央社会保険医療協議会の総会において、再生医療等製品、培養ヒト角膜内皮細胞・調整・移植キット「ビズノバ」が9月1日付で保険収載されることが了承されたと発表した。
ビズノバは、「水疱性角膜症」を効能、効果または性能とし世界で初めて製造販売承認を取得したヒト角膜より分離・培養して製した成熟分化培養ヒト角膜内皮細胞を含む角膜内皮細胞剤を主構成体とした再生医療等製品である。
これまで水疱性角膜症の治療には、ドナー角膜組織を用いた角膜移植術(角膜内皮移植等の部分移植を含む)が行われてきた。一方で、ドナー角膜の供給は慢性的に不足しており、水疱性角膜症治療の大きな課題の一つであった。ビズノバは、1人分のドナー角膜から複数患者分の製品を製造できるため、ドナー角膜不足を解消する糸口になることが期待される。
同品開発の経緯については、京都府立医科大学において角膜移植に代わる新規治療法としてドナー由来の角膜内皮細胞を生体外で培養拡大後、高機能な培養ヒト角膜内皮細胞の懸濁液を水疱性角膜症患者の前房内に移植する革新的な再生医療技術である培養ヒト角膜内皮細胞移植が開発されてきた。
2013年12月10日に京都府立医科大学附属病院で水疱性角膜症に対する培養ヒト角膜内皮細胞移植の臨床研究を世界で初めて開始し、2年間の観察期間を終了した最初の11例の成果をまとめた論文がThe New England Journal of Medicine(2018年3月15日版)にOriginal Articleとして掲載された。
2017年から京都府立医科大学附属病院、京都大学医学部附属病院及び国立長寿医療研究センター病院の3施設で水疱性角膜症に対する培養ヒト角膜内皮細胞移植の多施設共同医師主導治験を実施し、その有効性と安全性を証明した。京都府立医科大学感覚器未来医療学(木下茂教授)、同学大学院医学研究科 視覚機能再生外科学(外園千恵教授、上野盛夫准教授)などを中心とした成果である。
同技術開発は、日本医療研究開発機構(AMED)「再生医療実現拠点ネットワークプログラム(再生医療の実現化ハイウェイ、技術開発個別課題)」「再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業」「再生医療実用化研究事業」の支援を受けて実施された。
オーリオンバイオテックは、米国ワシントン州シアトル市(本社)及びマサチューセッツ州ケンブリッジ市に拠点を置く眼科領域において革新的な再生医療技術により視力の低下で悩む患者の視力回復を目指すバイオテック企業だ。
同社は、京都府立医科大学などから同製品の基本技術に関わるライセンスを取得している。同社子会社で、東京都及び京都市に拠点を置く合同会社オーリオンバイオテック・ジャパンは、2022年6月に厚生労働省へビズノバの製造販売承認申請を行い、2023年3月17日に再生医療等製品の製造販売承認を取得している。オーリオンバイオテックでは、日本での製造販売承認取得に続き、米国及びカナダでも臨床試験を実施し、BTD(画期的治療薬指定)及びRMAT(再生医療先進治療薬指定)を米国FDAより取得している。
また、ビズノバの製造はS-RACMOに委託し、製品供給体制を整えている。S-RACMOは、住友化学と住友ファーマにより、2020年9月に設立された合弁会社である。再生医療、細胞治療の早期普及及び産業化に貢献すべく、再生・細胞医薬分野の製法開発、製造などの受託事業に取り組んでいる。ビズノバの製品概要は次の通り。
①保険償還価格:946万4500円
②決定区分:C2(新機能・新技術)
③効能・効果、性能:水疱性角膜症、原理・メカニズム:成熟分化型培養ヒト角膜内皮細胞を前房内に移植することで、障害を受けた単層角膜内皮組織を再建する。
◆同製品医師主導治験責任医師の木下茂京都府立医科大学特任講座感覚器未来医療学教授のコメント
日本発、世界初かつ世界標準治療となる可能性のある培養ヒト角膜内皮細胞を移植する技術の製品化は、水疱性角膜症の治療の発展に大きく寄与するものと期待している
◆ 医師主導治験調整医師の外園千恵京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学教授のコメント
水疱性角膜症の既存治療である角膜移植術には課題が多く残されている。ビズノバはそれらを克服する新たな治療選択肢となり得ると考えられ、水疱性角膜症患者の日常生活の質の向上につながることを願っている。