sipavibart 免疫不全患者に対する新型コロナ感染症の曝露前発症抑制目的に承認申請 アストラゼネカ

 アストラゼネカは、長時間作用型モノクローナル抗体「sipavibart」について、26日、免疫不全患者に対する新型コロナ感染症の曝露前発症抑制を目的とした製造販売承認を厚生労働省に申請した。
 同申請は、P3試験であるSUPERNOVA試験の結果に基づくもの。同試験により、免疫不全患者集団においてsipavibart 投与群が対照群(チキサゲビマブ/シルガビマブまたはプラセボ)と比較して症候性新型コロナ感染の発症率を統計学的に有意に低下させたことが示された 。
 免疫不全患者集団には、血液がん、臓器移植レシピエント、透析を要する末期腎不全、B細胞枯渇療法を受けてから1年以内の患者、免疫抑制剤を使用中の患者が含まれている。
 2023年の人口動態統計によると2020年以降新型コロナ感染症による累計死者数が 10 万人を超え、新型コロナ感染が5類感染症とされた昨年5月以降でも 2024年3月までの11カ月で約4万人の新型コロナ感染関連死亡数があり依然として公衆衛生上の課題は残存している。
 免疫不全患者においては、新型コロナ感染症ワクチン接種により十分な免疫応答が得られず、新型コロナ感染症に感染した場合、一般の人と比べて重症化率及び死亡率が高かったことが海外の大規模なリアルワールドエビデンス研究であるINFORMで確認されている。
 INFORM研究によると免疫不全患者は、研究の対象集団の約4%以下であるにもかかわらず、新型コロナ感染症ワクチンの反復投与後であっても新型コロナ感染症による入院、ICU入院、死亡の約25%を占めている。
 世界保健機関がパンデミックの終息を宣言してから1年が経過したものの、免疫不全患者にとっては依然として重症化リスクの脅威が続くばかりでなく、感染を契機とした原疾患の治療の遅延も課題となっている。
 Sipavibartは、2024年6月に欧州連合(EU)において新型コロナ感染症発症抑制を目的に迅速審査の対象として指定された。日本においても、アストラセネカは、免疫不全を抱える患者が感染症予防から取り残されることのないよう、承認に向け規制当局とも緊密に連携していく。

◆小野稔日本移植学会の理事長(東京大学 医学部附属病院心臓外科教授)のコメント
 臓器移植患者さんは免疫抑制下にあることから、COVID19 感染による重症化率や死亡率が一般人と比較して高いことが知られている。
 移植患者の一般人口と比較した標準化死亡比は、パンデミック期間を通じて一貫して高く、今後も臓器移植後患者はワクチン接種の継続や抗体製剤などによる防御、また一般的なマスク、手洗い、人ごみを避けるなどの感染予防策の継続が重要だと考えている。
 今後、予防に対する選択肢が増えることに期待している。

◆金兼弘和日本免疫不全・自己炎症学会副理事長(東京医科歯科大学大学院小児地域成育医療学講座教授)のコメント
 原発性免疫不全症候群は、先天的に免疫系のいずれかの部分に欠陥がある疾患の総称であり、感染症に罹りやすく、重症化しやすいことが特徴である。これらの患者は、新型コロナ感染症が5類感染症に移行後もいまだ脅威であることに変わりなく、引き続き生活の制限を余儀なくされている。
 ワクチンによる免疫獲得が不十分なこれらの患者さんは、他に予防手段がなく、中和抗体薬は引き続き日常生活を取り戻すために重要な役割を果たしている。変異株が進化し続ける状況の中、既存の変異株に効果があるsipavibartを次の変異株の流行前になるべく早く導入する必要があると考える。
 このようなワクチン以外の予防薬として新たな選択肢が増えることは重要であり、重症化リスクの高いこれらの患者さんに対し、より確実な予防策として、長時間作用型の曝露前予防投与が本邦でも遅れることなく早期に使用可能となることを期待している。

◆大津智子アストラゼネカ執行役員研究開発本部長のコメント
 新型コロナ感染症は、免疫不全の患者さんにとっては未だ疾病負担の高い感染症であることに変わりはなく、多くの患者さんは不安を抱えたまま生活をしている。
 これまで年末年始に比較的大きな感染拡大が見られており、また、2024年度からは、新型コロナ感染症ワクチンの接種対象者がこれまでとは異なり高齢者が中心となるため、流行周期の推測が難しく、仮に大規模な流行となった場合には、免疫不全患者さんにおいても重症化リスクの増大が考えられるため、早期に予防の手段を提供することが重要であると考えている。
 Sipavibartの承認がされた暁には、新型コロナ感染症の感染症予防から誰一人として取り残されることのない社会の実現の一助になることを願っている。

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