早期アルツハイマー病治療薬「Kisunla」 米国FDA が承認 イーライリリー・アンド・カンパニー

 日本イーライリリーは5日、イーライリリー・アンド・カンパニーの早期アルツハイマー病(AD)治療薬「Kisunla」(一般名:ドナネマブ)について、米国FDAが軽度認知障害(MCI)または軽度認知症の段階においてアミロイドβ病理を示唆する所見が確認された成人を適応として承認したと発表した。
 毎月1回点滴静注により投与を行うKisunlaは、アミロイドプラークが除去された時点で投与を完了できるエビデンスを持つ、最初で唯一のアミロイドプラークを標的とした治療薬で、投与回数や治療費の負担を軽減する。
 アミロイドは体内で自然に産生されるタンパク質で、それが塊となることでアミロイドプラークが形成される。アミロイドプラークが脳内に過剰に蓄積すると、ADの特徴である記憶や思考の問題につながる可能性がある。
 Kisunlaは、体内に過剰に蓄積したアミロイドプラークを除去することで、新しい情報や重要な日付および予定などを記憶する能力、計画を立て整理する能力、食事を作ったり家電製品を使ったりする能力、金銭を管理し自立した生活をおくる能力などの衰えの遅延が期待できる。
 今回の承認は、P3相TRAILBLAZER-ALZ 2試験に基づくもの。TRAILBLAZER-ALZ 2試験では、早期ADの中でもより早い段階にある参加者により大きな治療効果がみられた。試験参加者は18ヵ月間にわたり、疾患のより早い段階にある参加者(タウ蛋白のレベルが軽度〜中等度の参加者)と、早期ADの中でも病理的に後期に進行していることを示すタウ蛋白のレベルが高い参加者を含む参加者全体の2群に分けて分析された。 その結果、Kisunlaの投与により、両群とも臨床症状の悪化が有意に抑制された。Kisunlaの投与を受けたタウ蛋白のレベルが軽度~中等度の参加者は、記憶、思考、日常の機能を統合的に測定するアルツハイマー病評価尺度(iADRS)において、プラセボ群と比較して35%の有意な進行抑制がみられた。
 参加者全体においても、Kisunlaを投与した参加者のiADRSは22%で、統計学的に有意であった。解析を行った2群のうち、Kisunlaの投与群はプラセボ投与群と比較して次の臨床病期に進行するリスクが39%低下していた。
 参加者全体では、Kisunlaによりアミロイドプラークが試験開始時と比較して、6ヵ月で平均61%、12ヵ月で80%、18ヵ月で84%減少した。
 この試験の目的の一つは、アミロイドPET検査の視覚的読影で陰性と判定される最も低いレベルまでアミロイドプラークを除去することであった。試験参加者がこのレベルに達したことが確認された場合、Kisunlaの投与を完了し、残りの試験期間はプラセボに切り替えた。
TRAILBLAZER-ALZ 2試験において、試験参加者は試験の治療目標の一つであるアミロイドPET検査の視覚的読影で陰性と判定される最も低いレベルまでのアミロイドプラークの除去を確認した後、6ヵ月、12ヵ月または18ヵ月で投与を完了しプラセボに切り替えることができた。
 Kisunlaを投与した参加者全体では、アミロイドPET検査によるアミロイドのレベル評価に基づき、6ヵ月後に17%、12ヵ月後に47%、18ヵ月後に69%が投与を完了することができた。
 安全性では、Kisunlaの投与により、アミロイド関連画像異常(ARIA)を引き起こす場合がある。ARIAは抗アミロイド抗体療法の副作用で、多くは無症状である。ARIAは、核磁気共鳴画像(MRI)によって検出することができ、発生した場合は、脳の一部または複数の領域の一時的な浮腫として発現する場合があるが、通常は時間の経過とともに消失する。
 また、脳表面や脳内の小さな出血として認められる場合もある。まれに、より広範囲な脳の領域で出血が起こるケースもある。ARIAはまれに重篤となり、生命を脅かす事象となる可能性もある。
 また、Kisunlaは、ある種のアレルギー反応を起こす可能性があり、中には重篤で生命を脅かす場合もある。これが起こる場合は通常、投与中または投与後30分以内に発現するす。頭痛も多く報告されている副作用の一つである。
 Kisunlaの総治療費は投与期間によって異なる。FDAは投与ガイドラインにおいて、アミロイドプラークがアミロイドPET画像で観察できる最も低いレベルまで除去された場合、Kisunla投与の完了を検討することができるとしている。
 毎月1回30分の点滴治療をより短い期間で完了できれば、当事者の投与回数を減らし、結果的に治療費の負担も抑えることができる可能性がある。
 Kisunlaの治療に対する当事者の自己負担額は、治療期間と保険料によって異なる。現在、メディケアの有資格者は、National Coverage Determination with Coverage Evidence Developmentに従い保険適用となる。
 また、2023年10月現在、メディケアの有資格者に対しては、アミロイドPET検査に対する広範な保険適用および償還が可能だ。98%以上のメディケアの有資格者が、自己負担をなくすまたは制限する、あるいは年間の負担額の上限を設ける保険に加入している。

◆Anne Whiteリリーのエグゼクティブバイスプレジデント、Lilly Neuroscienceプレジデントのコメント
 Kisunlaは、効果的な治療を一刻も早く必要としている早期ADの人々にとって、非常に意義のある結果を示した。Kisunlaは、ADの当事者がより早い段階で治療を受けた場合に、最大の効果をもたらす可能性がある。
 リリーは引き続き、さまざまなパートナーと協力して、ADの診断と治療の改善に取り組んでいく。
 毎年、より多くの人々がこの病気の危険にさらされている。リリーはそのような人々の人生をより豊かにするために引き続き尽力していきたい。

◆Alzheimer’s Drug Discovery Foundation (ADDF)共同設立者で最高科学責任者のHoward Fillit氏(医学博士)のコメント
 今回の承認は、将来、多くの新規治療薬が登場するであろうADの標準治療の進化に向けた新たな一歩であり、ADのコミュニティーが待ち望んでいた希望である。医師として、投与を完了できる可能性があることを心強く感じる。
 これにより、投与対象者自身が負担する費用と、投与による身体的な負担を軽減できる可能性がある。ADの診断と治療をより早期に実施することで、疾患の進行を有意に遅らせることができる可能性があり、それはADの人々が自立して生活できる貴重な時間をより長く維持できることに繋がる。

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