尿酸値の正常値持続は痛風以外の多くの疾患予防に重要
明治および鳥取大学医学部ゲノム再生医学講座再生医療学分野の經遠智一助教らの研究グループは、尿酸値が高い状態で生存していた血管細胞は、好中球などの免疫細胞を呼び寄せることで、傷ついた血管の治癒能力の低下を引き起こし、血管組織の炎症反応や炎症の増悪に関与している可能性を明らかにした。
同研究成果は、本年1月17日~19日に開催された「第52回日本免疫学会学術集会」および2月29日~3月1日に開催された「第57回日本痛風・尿酸核酸学会総会」で発表された。
同研究により、血管に尿酸塩結晶が沈着すると、異物に反応する好中球がその沈着部分に集まるように促され、血管の炎症反応を引き起こす可能性が示唆された。
さらに、血管の創傷治癒能力の低下を引き起こし、これが血管組織での炎症を引き起こしたり悪化させたりすることに関与している可能性が示された。一連の研究からは、高尿酸血症の状態が動脈硬化の直接的なリスク因子になり得ることがより強く示唆された。
高尿酸血症がもたらす人への影響は、耳にすることが多い痛風だけにとどまらず、同研究で着目している動脈硬化や、メタボリックシンドローム、心臓病、腎臓病、尿路結石などの様々な疾患にもおよぶと報告されている。
従って、尿酸値を正常な値に保つことは、多くの疾患を予防するためにも重要であると考えられる。
血中尿酸値が7mg/dL(=70µg/mL)を超えた状態は高尿酸血症と呼ばれ、この状態が持続すると血中に溶けきれなかった尿酸が結晶化し、尿酸塩結晶として関節組織に沈着することで痛風の原因となる。
近年では尿酸塩結晶が血管にも沈着することが明らかとなり、関節以外での尿酸塩結晶の影響が懸念されている。同研究グループは、これまでにヒト血管内皮細胞に尿酸塩結晶を125µg/mLの濃度で添加すると炎症などに関連したケモカイン遺伝子発現が上昇することを報告してきた。
そこで同研究では、高尿酸血症によって生じる尿酸塩結晶が血管の細胞に及ぼす影響について詳しく評価した。
具体手には、ヒト血管内皮細胞に尿酸塩結晶(125 µg/mL)を添加して3日後に生細胞を分取し、遺伝子発現を網羅的に解析。その結果、非添加群に比べて、細胞遊走に関連する遺伝子群の発現量が増加し、細胞増殖に関わる遺伝子群の発現量が減少していた。これらを踏まえて次の検証実験を行った。
細胞遊走遺伝子発現量増加の検証実験
ヒト血管内皮細胞に尿酸塩結晶(125 µg/mL)を添加した細胞上清をヒト末梢血由来好中球に添加し、細胞遊走試験を行った。
<細胞増殖遺伝子発現量減少の検証実験>
ヒト血管内皮細胞に尿酸塩結晶(125µg/mL)を添加し、1日後の細胞数をカウントした。さらに一層の内皮細胞シートに傷をつけた(創傷)状態で尿酸塩結晶(125µg/mL)を添加し、創傷治癒能力について評価した。
ヒト血管内皮細胞に尿酸塩結晶(125µg/mL)を添加した細胞上清をヒト末梢血由来好中球に添加することで、遊走する好中球の細胞数が増加した(図1)。
一方で、ヒト血管内皮細胞に尿酸塩結晶(125µg/mL)を添加することで、細胞増殖が抑制された(図2)。
さらに、創傷部分(スクラッチ)の回復が抑制された(図3)。これにより細胞遊走が引き起こされること、および細胞増殖能が低下することで創傷治癒能力が低下している可能性が示唆された。
同研究成果より、高尿酸血症によって尿酸塩結晶が血管組織に沈着すると、次の2つの側面から血管の細胞に直接的な影響をもたらし得る可能性が示された。
細胞死を起こさない濃度において、①好中球を含めた多くの免疫細胞の遊走を介して炎症反応を引き起こす。
②細胞の増殖を抑制し、血管の創傷治癒能力の低下を引き起こす。
今回、尿酸塩結晶の血管への影響について、細胞評価においても遺伝子発現量変化と一致する結果を確認できた。従って、ヒトの体内において、高尿酸血症によって生じた尿酸塩結晶が細胞の傷害を介して動脈硬化のリスク因子となり得ることがより強く示唆された。