世界初の高粘性糸状菌培養対応ハイブリッド型 高効率シングルユースバイオリアクター開発 佐竹マルチミクス

図1 開発したリアクター(200L実証機)

 佐竹マルチミクスは2日、東北大学、合同酒精との共同研究で、高粘性糸状菌にも利用可能な200Lのハイブリッド型高効率シングルユースバイオリアクターの開発に世界で初めて成功したと発表した。
 同バイオリアクターは、より低動力で効率良く培養液を撹拌し、通気量を確保する撹拌システムの確立によって開発されたもの。
 同研究は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」プロジェクトとして実施された。これにより従来よりも低い導入コストで、消費動力を低減しながら微生物培養が可能になった。
 今回開発した同リアクターの市場供給価格は、従来のリユース型バイオリアクターと比較すると環境整備を含む導入コストで約40%削減を達成した。また、ランニングコストも市場での一般的なコスト水準の3分の1以下に抑制した。
 今後三者は、さらなる培養評価、耐久評価を進め、2023年度中の製品化・販売を目指す。なお、この事業の成果である同リアクターの小スケールモデル(4リットル)を、10月11日から13日までパシフィコ横浜で開催されるバイオテクノロジー展「BioJapan 2023」のNEDOブースで展示する。
 近年、循環型社会の実現に向けて、生物資源や生物機能を用いて物質を生産する技術(バイオものづくり)の貢献が期待されており、微生物による物質生産(微生物生産)の重要度が増している。
 一方、一般的に微生物生産には、リユース型バイオリアクターなどの高額で大がかりな滅菌設備の整備が必要で、新規事業者の参入を阻む一つの障壁となってきた。
 そこで、NEDOの「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術」事業の一環として、佐竹マルチミクス、東北大学、合同酒精は、特に培養難度が高いとされている高粘性の糸状菌を用いたタンパク質高生産技術と、その糸状菌を高効率に培養可能な本リアクターの開発に取り組んだ。
 一般的に糸状菌は、タンパク質の生産能力に優れるとされており、産業用酵素などの生産に幅広く用いられている。だが、糸状菌の増殖・菌糸の成長による菌体の凝集や、それに伴う培養液粘度の上昇により、培養槽内の均一な撹拌が困難となることで、糸状菌にとって理想的な生育環境(通気状態など)が維持できず、培養が進むにつれて生産性が低下することが課題であった。
 こうした中、同事業で、より凝集性の低い糸状菌の開発や、より低動力で効率良く培養液を撹拌し、通気量を確保することが可能な撹拌システムの確立に取り組み、高粘性糸状菌にも利用可能な本リアクターの開発に世界で初めて成功した(図1)。これにより、従来よりも低い導入コストで、消費動力を低減しながら微生物培養が可能になった。
 今回の成果として、低動力で効率良く通気量を確保可能な撹拌システムが確立された。
 従来のバイオリアクターで用いられてきたラシュトンタービン(6FT)は、通気撹拌を行うことで気泡の分散性と培養液の流動性が低下するため、微生物培養における動力効率に課題があった。
 そこで、通気撹拌時の気泡の分散性を向上させた高効率タービン(HS100タービン)と、培養槽内で強力な撹拌作用を有する軸流インペラ(HR100インペラ)を組み合わせた撹拌システムを糸状菌培養に適用することで、より低動力で効率よく培養液を撹拌可能なバイオリアクターを実現した。
 また、この撹拌システムを用いて数値流体力学(CFD)シミュレーションと、実際の培養の検証とスケールアップ検討を進めたところ、従来の6FTと比較して、消費動力の抑制、液流動作用およびガス分散作用の向上を確認した(図2)。

図2 6FT(左)とHS100タービン・HR100インペラの組み合わせ(中央)の比較

 なお、同シミュレーションでは、東北大学が開発した粘性低減型の菌糸分散株が用いられた。
 次の成果として、低導入コストのハイブリッド型シングルユースバイオリアクター(HSF-HSUB 200)の開発が挙げられる。
 前述の撹拌システムを使用することで、従来よりも低動力で微生物生産を実施できるようになり、バイオリアクターのシングルユース化が可能となった。シングルユース型でも、培養槽内(バッグ内)の滅菌処理自体は必要とされるが、佐竹マルチミクスの独自技術による新規滅菌システムを同リアクターに適用することで、高額な滅菌設備の導入が不要になった。
 同時に、運転負荷の高い糸状菌培養にも対応できる頑強性を維持するため、培養槽と配管のみをシングルユース化して一式をシステム化することで本リアクターを完成した(図3)。
 今回開発され同リアクターの市場供給価格は、リユース型バイオリアクターと比較すると環境整備を含む導入コストで約40%削減(佐竹マルチミクス自社製品比)を達成した。
 また、ランニングコストも市場で一般的なコスト水準の3分の1以下に抑制でき、新規事業者の参入障壁低減が期待できる。

図3 本リアクターの外観(左:シングルユースバック装填前 右:装填後)

 現在、東北大学と合同酒精は、同リアクターの製品化に向けた培養評価および耐久評価を共同で進めている。これまでの評価で、同リアクターは培養難度が高い糸状菌培養で十分な生産性を達成することを確認した。
 今後は、糸状菌だけでなくさまざまな微生物生産で利活用を進め、汎用性をさらに高めていく。佐竹マルチミクスは、評価結果を踏まえて2023年度中に200Lスケールまでのリアクターの製品化・販売を目指す。これにより、新規参入事業者が導入しやすい微生物用バイオリアクターの普及を促進し、バイオものづくり技術の適用範囲の拡大、バイオエコノミーのさらなる発展に貢献する。

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