肥満者と非肥満者の病態の違いに着目
岐阜大学保健管理センター山本眞由美教授、三輪貴生医師らのグループは、若年成人男性の体組成と代謝異常関連脂肪性肝疾患(MAFLD)1)および非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)2)との関連を明らかにした。
近年、肥満人口の増加により脂肪性肝疾患に伴う肝硬変、肝発癌、心臓血管病などが問題とされている。同研究では、健康診断を受診した男子大学院生335名を対象とし、MAFLDおよびNAFLDに関連する因子に関して生体電気インピーダンス法による体組成測定(骨格筋量, 体脂肪量)3)を含めて検討した。
年齢中央値22歳の若年成人男性において肥満(BMI ≥ 25 kg/m2)は9%、MAFLDは8%、NAFLDは16%、それぞれ有していた(図1)。
参加者全体では、体脂肪量がMAFLDおよびNAFLDと関連する因子であった。また、非肥満者(BMI < 25 kg/m2)においても体脂肪量がMAFLDおよびNAFLDと関連する因子であり、いわゆる「かくれ肥満」が脂肪性肝疾患に関与することが明らかになっている。
決定木解析4)の結果、全体ではBMIが脂肪性肝疾患を規定する第一の因子であり、非肥満者では第一にBMI、第二に骨格筋量が抽出された(図2)。
また、体組成と各血液検査を含むランダムフォレスト解析5)の結果、全体ではBMIが、非肥満者では血清中性脂肪値が脂肪性肝疾患に寄与する因子であった(図3)。
これらの結果から、若年成人男性において肥満が脂肪性肝疾患を規定する重要な因子であり、非肥満者では体脂肪量に加えて骨格筋量や血清中性脂肪値など包括的な病態把握が必要であることが示唆された。
三輪貴生医師らの研究により年齢中央値22歳の若年男性の17%に脂肪肝があり、そのうち半数は肥満や脂質異常などの代謝異常に関連することが明らかになった。
また、若年の脂肪性肝疾患と体組成の関係解明により、若年世代からの予防法および介入法の確立に寄与することが期待される。
同研究成果は、日本時間2023年8月1日付でHepatology Research誌53巻8号に掲載された。
【研究背景】
肥満人口の増加に伴い、非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease; NAFLD)は世界的に増加傾向であり、本邦でも今後NAFLDが増加することが見込まれている。近年、脂肪性肝疾患の新概念として脂肪肝と「肥満」、「2型糖尿病」、「2種類以上の代謝異常」を併発することで診断する代謝異常関連脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction-associated fatty liver disease; MAFLD)が提唱された。
MAFLDはNAFLDの高リスク因子を包括した概念であるため、肝硬変、肝発癌、心血管疾患の発生リスクが高い患者を効率的に同定することが期待されている。だが、若年世代におけるMAFLDおよびNAFLDの現状と体組成との関係に関しては明らかではない。
そこで、同研究では、若年成人男性を対象としてMAFLDおよびNAFLDの現状と体組成を含む関連因子について検討した。
岐阜大学入学時健康診断を受診した男子大学院生335名を対象とし、通常の健康診断項目に加えて腹部超音波検査と生体電気インピーダンス法による体組成測定、握力測定を行い、MAFLDおよびNAFLDの現状と体組成を含む関連する因子に関して検討した。
参加者の年齢中央値は22歳、body mass index(BMI)中央値は21 kg/m2であり、9%がBMI 25 kg/m2以上の肥満症を有した。腹部超音波検査により脂肪肝は全体の17%が有し、8%がMAFLD、16%がNAFLDと判定された。また、8%はMAFLDおよびNAFLDの両者を有していた(図1)。
体組成とMAFLDおよびNAFLDとの関連に関する検討では、年齢、骨格筋量(skeletal muscle mass index)、体脂肪量(fat mass index)、握力を含めた多変量解析を行い、体脂肪量がMAFLDおよびNAFLDを規定する独立因子であることが明らかになった。
また、非肥満(BMI < 25 kg/m2)の参加者305名を対象として同様の多変量解析を行ったところ、非肥満の参加者においても体脂肪量がMAFLDおよびNAFLDを規定する独立因子であった。
これらの結果から、日本人若年成人男性において体脂肪の蓄積は、新規概念であるMAFLDと既存概念であるNAFLDの両者を規定する重要な因子であることが明らかになった。
また、非肥満の日本人若年成人男性においても、脂肪の蓄積がMAFLDおよびNAFLDの原因となることが明らかになった。これらの因子を用いた決定木解析やランダムフォレスト解析でも同様の解析結果であった。
以上の結果によりBMIでは正常体重と判定されるが、実際には脂肪が蓄積している「かくれ肥満」が若年成人男性の脂肪性肝疾患を規定する重要な因子であることが判明した。
次に日常診療における体組成の簡易指標であるBMIの役割を明らかにするため、年齢、BMI、骨格筋量、体脂肪量、握力を含めて決定木解析を行った。参加者全体ではMAFLDおよびNAFLDを規定する因子としてBMIが抽出され、日常診療における脂肪性肝疾患の簡易指標としてのBMIの有用性が明らかになった(図2a、2b)。
また、非肥満の参加者では第一にBMI、第二に骨格筋量が抽出された(図2c、2d)。この結果からBMIは非肥満の対象者においてもMAFLDおよびNAFLDの簡易指標となり、脂肪蓄積に次いで骨格筋量が脂肪性肝疾患の病態に寄与していることが判った。
最後に、各内分泌代謝異常を代表する血液検査指標および体組成を含めてランダムフォレスト解析を行った。ランダムフォレスト解析では、参加者全体においてBMIがMAFLDおよびNAFLDに最も寄与する因子であり、非肥満の参加者では血清中性脂肪値がMAFLDおよびNAFLDに最も寄与する因子であることが明らかになった。
以上の結果から、年齢中央値22歳の若年成人男性において8%がMAFLD、16%がNAFLDを有し、体脂肪量が病態に重要な役割を果たしていることが判った。
非肥満の脂肪性肝疾患に関しては体脂肪量のみならず骨格筋量や血清中性脂肪値を含めた包括的なアセスメントが必要であることが示唆された。
同研究結果により、若年成人男性における脂肪性肝疾患の現状が明らかになり、個人の病態に応じた予防および治療方針策定への寄与が期待される。
同研究により、若年成人男性における脂肪性肝疾患と体組成の関係が明らかになった。この知見により若年世代での脂肪性肝疾患の病態理解および早期発見につながる可能性がある。
また、体組成を含む個人の病態に応じた栄養・運動療法を行うことにより、若年世代からの脂肪性肝疾患への介入方法を確立し、肝硬変、肝発癌、心臓血管疾患を含めた予後改善につながる可能性が期待される。