高齢期にむけた健康的な食事のタンパク質比率は25〜35% 東京都健康長寿医療センター研究所

食事のタンパク質バランスによる健康維持や健康長寿への応用に期待

 東京都健康長寿医療センター研究所の石神昭人副所長、近藤嘉高早稲田大学講師、ニチレイフーズの研究グループは、高齢期にむけた健康の維持にとって最適な食事のタンパク質比率は、25〜35%であることを明らかにした。
 この研究成果は、食事のタンパク質バランスによる健康維持や健康長寿に大きく貢献するものと期待される。同研究成果は、2023年4月28日にGeroScienceの電子版に掲載された。
 昔から長生きの秘訣のひとつに、バランスの良い食事が挙げられる。農林水産省の令和3年度食料需給表(概算)によれば、日本における1人・1日あたり供給熱量は2271kcal、熱量比率の内訳はタンパク質が13.8%、脂質が32.5%、炭水化物が53.7%である。
 では、健康長寿に最適な食事の三大栄養素(タンパク質、脂質、炭水化物)バランスは、いくつなのか。最近、マウスに成長期から一生涯にわたり低タンパク質・低脂質・高炭水化物の食餌を与えて飼育すると、寿命が延びることがわかってきた。
 一方、高齢者においては低栄養によるサルコペニアやフレイルの高リスクが問題となっており、その予防あるいは改善するためにも、充分な量のタンパク質を摂取することが推奨されている。従って、健康長寿に最適な三大栄養素バランスは、成長期、若齢期、中齢期、高齢期といった各ライフステージで異なると考えられる。
 同研究では、日本における高齢期にむけた健康維持や健康長寿に理想的なタンパク質比率を明らかにすることを目的に実験を行った。
 同研究では、若齢(6月齢)と中齢(16月齢)の雄マウスにタンパク質比率の異なる食餌(カロリー比率5%(P5群), 15%(P15群), 25%(P25群), 35%(P35群), 45%(P45群))を与えて2ヶ月間飼育し、タンパク質比率や月齢が異なると健康にどのような影響があるかを詳しく調べた。
 各食餌のカロリーを4.2 kcal/gに揃えるため、脂質の比率は日本を想定した25%に固定して、炭水化物の比率を変えた。すなわち、P5群(タンパク質5% 炭水化物70% 脂質25%)、P15群(タンパク質15% 炭水化物60% 脂質25%)、P25群(タンパク質25% 炭水化物50% 脂質25%)、P35群(タンパク質35% 炭水化物40% 脂質25%)、P45群(タンパク質45% 炭水化物30% 脂質25%)の5群とした。P15群は、現在の日本における三大栄養素バランスに最も近い状態である。
 2ヶ月後、中齢マウスの体重は若齢よりも高値であり、P5群は他群よりも低値であった(図1)。また、中齢マウスが食べた食餌量は若齢よりも多く、そしてP5群の摂食量は他群よりも多かったものの、P45群では少ないこともわかった。体内のタンパク質量を調節するため、摂取するタンパク質が不足すると摂食量が増える、もしくは摂取タンパク質量が増加すると摂食量が減るという現象は、「Protein leverage(タンパク質のてこ)」として知られている。
 P5群では、肝臓に多くの脂肪滴が認められ、中性脂肪と総コレステロールが高値でした(図1)。また、中齢のP5群やP15群は、若齢よりも中性脂肪が高値であった。肝臓に脂肪が蓄積する現象は、タンパク質の食べる量が不足するとおこる栄養失調(クワシオルコル)に特徴的な症状である。

図1

 一方、P35群は、若齢、中齢ともに中性脂肪が蓄積しなかった。血糖値は、若齢、中齢ともにP25群、P35群が低値であったが、P45群はむしろ高値を示した(図1)。
 P45群は、食餌の炭水化物比率が30%と低いことから、体内でタンパク質のアミノ酸を分解して糖を合成している可能性が考えられる。
 また、血液中の中性脂肪の値は食餌による違いはなかった。だが、総コレステロール値はP15群が最も高値、P5, P35, P45群では低値であった。
 次に、タンパク質比率の異なる食餌や月齢の違いにより、体内のアミノ酸レベルは異なるのではないかと考え、血液中のアミノ酸濃度(20種類)を測定した。体のなかで作ることができない9種類の必須アミノ酸の血液中濃度は、食餌、月齢、飼料による違いは認められなかった。
 一方、体のなかで作ることができる11種類の非必須アミノ酸濃度の血液中濃度は、若齢、中齢ともにP5群が最も高値を示し、P45群で最も低値を示した(図1)。
 P5群は、食餌からのタンパク質が不足したため、体のなかで非必須アミノ酸を合成した可能性が考えられる。P45群は、食餌からの炭水化物が不足した結果、体のなかで非必須アミノ酸を分解することにより、エネルギー源として利用した可能性がある。
 また、血液中の分岐鎖アミノ酸濃度(BCAA)は、P35群とP45群で最も高値を示した。分岐鎖アミノ酸は、筋肉においても重要なアミノ酸なので、十分なタンパク質を摂取することは予備力を高めるともいえる。
 さらに、マウスの血液中アミノ酸濃度をもちいて、機械学習である自己組織化マップ(self-organizing map: SOM)解析を行った。その結果、似たアミノ酸濃度のプロファイルをもつマウスで構成される塊(クラスター)がいくつか形成された。血液中アミノ酸濃度のプロファイルは、月齢やタンパク質比率の異なる食餌のみで、決定されることもわかった。
 自己組織化マップに肝臓の中性脂肪量を重ね合わせると肝臓の中性脂肪量が高いクラスター(P5群やP15群, P45群のマウスが多い)や少ないクラスター(P35群のマウスが多い)が認められた。これらの結果から、血液中アミノ酸濃度のプロファイルと肝臓の中性脂肪量は良く相関することが明らかになった。

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