脳卒中後の手指麻痺リハビリテーションにおける能動型展伸・屈伸回転運動装置MELTzへの期待

MELTz を用いたリハビリ風景

 脳卒中後のリハビリテーションでは、足、体幹、肩・肘などの部位を優先し、手指は後回しになる場合が少なくないようだ。一方、患者は、「最も自分らしさを発揮できる」部位として‟手指麻痺のリハビリ”に対する期待が高く、患者が最初に治してほしい部位と、作業療法士・理学療法士(療法士)が行うリハビリ部位の優先順位が乖離しているのが現状だ。
 こうした中、昨年9月30日、住友ファーマがMELTINと共同開発し、MELTINが製造販売業者として医療機器認証を取得した能動型展伸・屈伸回転運動装置「MELTz手指運動リハビリテーションシステム」が発売された。
 MELTzは、「生体信号処理技術+生体模倣ロボット技術」を適用した医療機器だ。脳卒中などによる手指麻痺のリハビリにおいて、患者の運動意図に合わせた動作アシストを何度も正確に再現することで、より多くのリハビリテーションの機会を提供している。そこで、脳卒中後の手指麻痺リハビリテーションにおけるMELTzへの期待について紹介したい。
 人が手足を動かそうとする時には、脳から運動指令を伝える神経信号(生体信号)が発信され、筋肉において筋活動を引き起こす筋電に変換される。MELTzは、その筋電のデータを総合的に解析して、その人が手指をどのように動かそうとしているのかを瞬時に識別し、手指の運動アシストを実現している。
 具体的には、前腕3箇所に貼り付けたセンサーから1秒間に約1000回もの莫大な筋電データを測定して、その波形を総合的に解析して高速かつ高精度にロボットの動きに変換し、脳から出された手指の動きを患者が装着しているハンドユニットに伝えてリアルタイムに手指運動補助を行う。
 患者がパーをしようとコンピュータが判断すればパーの形にロボットハンドが開き、グーならグーの形にハンドユニットが動いてリアルタイムに手指の運動をアシストするのがMELTzの基本的なメカニズムである。加えて、電極センサーおよび測定システムの最適化で高感度測定を実現し、患者の微弱な筋電を捉えることも可能だ。
 MELTzの名称は、開発会社のMELTIN+生体信号の波形を表すパラメータの1つである「周波数」の単位(ヘルツ、Hz)に由来しており、メーカー希望小売価格は500万円(税別)。
 これまで、筋電のON、OFFを計測する筋電応答型の運動補助装置は開発されているが、筋電のON、OFFではなく、脳からの手の形も含めた運動意図を読み取ってハンドユニットが動くのがMELTzが有するこれまでの装置にない特徴だ。

筋肉や腱に相当するワイヤーが力強くかつ繊細に手指を駆動する「生体模倣ロボット技術」


 すなわち、患者が運動意図を持った時にハンドユニットが動き、運動意図と同時に運動解除を行うことで、脳の再学習を促し、リハビリ効果を高めていく。ハンドユニットに細かな調整機能を設けているため、指の長さなどが異なる様々な装着者の手にフィットするだけでなく、右手にも左手にも使用可能である。
 脳卒中に罹患すれば、手指を握る動作はできるが、開くことが困難な患者が多い。こうした患者がMELTzを使用すれば、握ったり開いたりする動作のリハビリが可能になる。
 リハビリテーションは、「できるだけ早期にできるだけ多く行う」のが原則だ。とはいえ、実臨床ではなかなか原則通りには行かず、足、体幹、肩・肘などの部位が優先され、手指は後回しになるケースは珍しくない。 こうした理由により、MELTzを用いた手指運動のリハビリテーションは、通常の療法士が手を添えて行うリハビリとは別の時間に、患者が自主的に週5回20分~50分行っている医療施設もある。
 気になるMELTzによるリハビリ効果については、指導医からの報告として、「物を持ったり離したりできるようになり、リハビリ効果がそのまま持続した」症例も挙がっている。
 順天堂大学で実施されている外来の脳卒中後患者を対象としたMELTzの臨床研究では、「週2回、40分、4週間実施する」プロトコールが組まれており、「肩、肘、手指の運動効果を評価するテストで改善効果がみられた」症例も少なくない。
 また、MELTzを7か月間試験導入している福島県の5施設では、全ての施設が「継続して使用したい」と回答している。

MELTz手指運動リハビリテーションシステム


 MELTzによる手指のリハビリを行った患者の感想としては、「動かない手指を自分の意思で動かす練習ができて嬉しい」、「使った後、手が動かせるようになった」、「MELTzを一度使ってみて手指運動のコツが掴めてその状態をキープできるようになった」などの声が寄せられている。
 その一方で、「ロボットハンドの装着や、操作に慣れるまでに時間が掛かる」という意見もある。だが、リハビリ回数の多い施設ほどこういった意見が少ない傾向にあり、慣れればこうした不都合は軽減されると考えられる。
 住友ファーマと MELTIN は、今後、順天堂大学での臨床研究や現在実施中の臨床研究から得られるエビデンスを基に「最低どの程度のリハビリ量で、効果を出せるか」を見据えながら、MELTzに改良を加える予定で、将来的には改良品を用いた治験を実施し、新医療機器または改良医療機器としての承認取得や新規保険適用の取得などを目指している。
 医療現場にとってMELTz導入は、どのようなメリットがあるのか。「MELTzによるトレーニングで患者の手指が動くようになる」のが何よりも大きい。
 MELTzを用いた手指のリハビリテーションには、運動量増加機器加算として月1回150点の保険点数が認められている。さらに、病院機能は、患者の入院時と退院時の症状度の差分で評価されるため、MELTz導入によって病院機能評価のベースとしての点数が上がる可能性がある。忙しい療法士の労力削減に貢献することも見逃せない。
 脳卒中後のリハビリテーションでは、足、体幹、肩・肘などの部位を優先し、手指は後回しになるケースが多い。一方、患者は、「最も自分らしさを発揮できる」部位として‟手指麻痺のリハビリ”を希望する。
 MELTzの画面指示に沿った簡単なトレーニングにより、患者の希望と理学療法士が行うリハビリ部位の優先順位の乖離を補うことも期待される。トレーニング結果もリアルタイムでビジュアル化して画面に表示できるので、患者がリハビリテーションを続けるモチベーションアップにも繋がっている。
 このように患者にとって福音となり、病院の総合的な評価にも貢献できるMELTzの導入価値は大きいようだ。

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