ポリフェノール健康効果の解明や新しいサプリメント開発に期待
岐阜大学応用生物科学部山内恒生助教のグループは9日、タンニンのタンパク質凝集モデルの作成に成功したと発表した。
タンニンは代表的なポリフェノールのひとつであり、多くの生物活性が報告されている他、食品の渋み成分としても知られている。これらはタンニンのもつタンパク質への強い相互作用が原因であると考えられていたが、これまでタンニンのタンパク質への作用様式は分子レベルで明らかにされていなかった(図1)。
同研究において、タンニンは中国の漢方で用いられる鶏血藤から分離し、核磁気共鳴分光 (NMR)法とチオール分解法で構造解析した。得られた縮合型タンニンは、コラーゲン分解酵素であるmatrix metalloproteinase-1 (MMP-1) を強力に阻害し、凝集活性も示した。
ドッキングシミュレーション及びNMRを用いた解析により、これらのタンニンのMMP-1への結合箇所を明らかにした。この結合箇所を架橋点として、タンパク質同士を繋げることで縮合型タンニンがタンパク質を凝集していると考え、タンパク質凝集の分子モデルの作成に世界で初めて成功した。タンニンのタンパク質結合様式が分子レベルで明らかになる事で、ポリフェノールの健康効果や、ワインやお茶などの食品の「渋み」のメカニズムが明らかになると期待される。
同研究成果は、6に英国の国際誌Food Chemistry誌のオンライン版で発表された。
縮合型タンニンは、カテキンの様なフラバン3オールが重合した構造をもつポリフェノールである。抗癌活性や抗炎症活性、血糖値低下作用、抗酸化活性等ありとあらゆる生物活性を持ち、お茶やワインの渋み成分としても良く知られている。
最近では、牛が発生するメタンガスを減少させることが明らかになり、餌にタンニンを混ぜることで温室効果ガスの発生を抑制する試みもなされている。
タンニンは、様々なタンパク質と結合し、凝集作用を示すことでこれらの多くの作用を引き起こすと考えられている。だが、構造やタンパク質への作用様式が複雑であるため、それらの相互作用の分子メカニズムはこれまでの解明されていなかった。
これらの理由により、タンニンは天然由来の活性成分としては、謎の多い分子であり、研究者の中では長い間、難解な化合物であるとされていた。
そこで、同研究ではこの謎を解明するために、新しくNMR法を用い、ここにドッキングシミュレーションの結果を合わせて考察した。NMR法では、タンパク質と分子の一対一の結合だけでなく、一対多数の結合箇所を明らかにすることが可能となる。
また、液体中のタンパク質の細かな動きを考慮することができ、より実際に近い結合の測定が可能となる。これらの特徴は、タンニンとタンパク質の相互作用を明らかにするために、とても良い方法であると考え、同研究で取り入れられた。
同研究では、中国の漢方である鶏血藤から2種類の縮合型タンニンを分離した。タンニンを分解することでその構造を解析するチオール分解法に加えて、近年新しく用いられており、非破壊のNMR法を取り入れ構造解析を行った(図2)。
NMR法とチオール分解法で得られた構造は、良好な一致を見せた。得られた2つのタンニンは、どちらも類似したフラバン3オールの単量体を含んでいることが示唆された。
また、これらの縮合型タンニンの構造は珍しいものでなく、多くの食品や植物中にみられる一般的な縮合型タンニンの構造であることが分かった。両者の平均重合度が異なり、一方は平均重合度が4程度のタンニン(CT2)で、もう一方は平均重合度が2程度のタンニン(CT1)であることが分かった。
同研究ではコラーゲン分解酵素であるMMP-1というタンパク質と縮合型タンニンとの相互作用を調査した。MMP-1活性試験を行ったところ、CT2はCT1よりも10倍以上MMP-1阻害活性が強いことが分かった。凝集作用を調査したところ、CT2は濃度依存的に強いMMP-1凝集活性を示した一方で、CT1は凝集活性を示さなかった。
この結果から、タンパク質の凝集には重合度が重要であることが示唆された。4量体が凝集を示し、重合度が低いと凝集を示さないという結果はこれまでにも報告されており、これらの結果は以前の結果を支持した。
MMP-1とCT1及びCT2との結合力を表面プラズモン共鳴法(SPR法)で比較したところ、意外にも凝集活性を示したCT2の結合力が弱く、凝集を示さないCT1の方が強いことが示された。
これはドッキングシミュレーションの結果も同様であった。ドッキングシミュレーションでは、CT1内のすべての原子とMMP-1が相互作用している一方で、CT2は半分ほどの原子しか相互作用していなかった。CT2は、相互作用していない原子が別のMMP-1と相互作用することで架橋し、凝集が生じると考えられた。
これらの結果から、NMR法で確認されたCT2の結合箇所(図3)を介して、MMP-1同士がつながり、凝集を生じさせている図4のモデルの作成に成功した。
タンニンは、血糖値低下作用、抗炎症や高肥満、抗癌活性など様々な生物活性が報告されている。また、ワインやお茶の渋みの原因物質としても広く知られている。
だが、その作用メカニズムは十分に明らかにされていない。タンニンの生体分子への相互作用機序解明により、渋みの抑えられたお茶やワインの開発や、より生物活性の高いタンニンの開発発展、新しい機能性食品やサプリメントの開発が期待される。