塩野義製薬は22日、新型コロナ経口治療薬ゾコーバについて、P2/3試験のPhase 3 partにおいてウイルス力価の早期陰性化ならびに罹患後症状(後遺症、Long COVID)の発現リスクに対する低減効果が確認されたと発表した。
今回新たに得られた良好な結果は、次の通り。
・感染性を有するSARS-CoV-2ウイルス(ウイルス力価)が陰性となるまでの時間を有意に短縮
・投与4日目(3回投与後)の時点で、96%の患者でウイルス力価を陰性化
・追跡調査の結果、投与開始時点の症状スコアが比較的高い患者において、咳や喉の痛み、倦怠感、味覚異常など14症状のいずれかの持続を認める患者の割合を半減(プラセボ比で45%のリスク低減)
・集中力・思考力の低下や物忘れ、不眠など、神経系の罹患後症状が認められるリスクを33%低減
なお、これらの結果は、第30回 Conference on Retroviruses and Opportunistic Infections(CROI)2023で発表された。
Phase 3 partは、ゾコーバ(125 mg、250 mgの2用量)を1日1回、5日間経口投与した際の臨床症状の改善効果を検証することを主目的に、軽症/中等症患者を対象に実施された。同試験では、日本、韓国、ベトナムにおいて重症化リスク因子の有無、またワクチン接種の有無(9割以上が接種済み)にかかわらず、発症から120時間以内の患者1821例が登録された。
同試験においてエンシトレルビルは、オミクロン株流行期に実施した臨床試験で、COVID-19症状の罹病期間を主要評価項目として、世界で初めてプラセボに対する有意差を示し、日本において125 mg(初日のみ375 mg)の用量で2022年11月22日に緊急承認されている。
CROI 2023では、新規データを含む次の内容が発表された(承認用量を中心に概説)。
【主要評価項目(既報)】
発症から72時間未満に割付けられた患者集団において、ゾコーバ125mg投与は、オミクロン株感染時に特徴的な5症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさまたは発熱、けん怠感 (疲労感))が消失するまでの時間をプラセボ群との比較で有意に短縮し、症状に対する改善効果が確認された(p=0.0407)。
症状消失までの時間の中央値は、同薬125mg投与群では167.9時間、プラセボ群では192.2時間であった。
【主要な副次評価項目(新規)】
ゾコーバ125 mg投与により、感染性を有するSARS-CoV-2ウイルス(ウイルス力価)の陰性化が最初に確認されるまでの時間を、プラセボ群と比較して有意に短縮した(p<0.0001)。力価陰性化までの時間の中央値は、同薬125mg投与群では36.2時間、プラセボ群では65.3時間であった。
投与4日目(3回投与後)において、ウイルス力価陽性の患者の割合はプラセボ群との比較で87%減少し、96%の患者がすでに力価陰性となった。
【安全性(既報)】
忍容性は良好であり、両用量ともに重篤な副作用や死亡例の報告はなかった。125 mg投与群で比較的高頻度に見られた副作用は、高比重リポ蛋白の減少および血中トリグリセリドの上昇であった。
その他、主要な副次評価項目として、ゾコーバは、投与4日目におけるウイルスRNA量を有意に減少させた(4日目におけるベースラインからのウイルスRNA変化量はプラセボとの比較で1.4 log10 copies/mL以上の差;p<0.0001)。
また、CROI 2023では、ゾコーバのCOVID-19罹患後症状(後遺症、Long COVID)に対する効果を探索的に評価した結果が新たに発表された。Long COVIDは、発症120時間以内に同薬による治療を開始してから3ヵ月(Day 85)、6ヵ月(Day 169)経過した時点まで各症状の有無を追跡調査することにより評価された。
【 Long COVIDの発現リスクに対する効果(COVID-19に特徴的な14症状)】
投与開始時のCOVID-19症状スコアが中央値以上の患者集団において、ゾコーバ125 mg投与は、COVID-19に特徴的な咳や喉の痛み、倦怠感、味覚、嗅覚異常など14症状のいずれかの長期持続を認める患者の割合を、プラセボ群と比較して有意に減少させた(同薬125 mg投与群の14.5%、プラセボ群の26.3%が症状の発現を報告)、プラセボ比で45%の相対リスク低下;p<0.05)。
【Long COVIDの発現リスクに対する効果(神経系の4症状)】
ゾコーバ125 mg投与は、罹患後症状として報告の多い4つの神経症状(課題解決力、集中力・思考力の低下、物忘れ、不眠)の発現を認める患者の割合を、プラセボ群と比較して有意に減少させた(本薬125 mg投与群の29.4%、プラセボ群の44.0%が症状の発現を報告b)、プラセボ比で33%の相対リスク低下;p<0.05)。
患者日誌の最終観測時点(例 Day 21)からDay 169までに、同一症状で軽度以上の症状が2回以上連続して確認されるDay85またはDay169の少なくとも一時点で軽度以上の症状が1つ以上確認される全体の患者集団においても、ゾコーバ125mg投与はCOVID-19に特徴的な14症状、神経系の4症状に対して同様のリスク低下傾向を示した。
14症状に対する相対リスクはプラセボ比で25%低下(p=0.1774)、神経系4症状に対しては26%の有意な低下(p<0.05)であった。
◆Amesh Adaljaジョンズ・ホプキンス健康安全保障センター上級研究員(感染症内科医・医学博士兼IDSAフェロー)のコメント
Long COVID症状への対処は、依然としてパンデミックにおける最大のアンメットニーズの1つである。この状況に対処する抗ウイルス薬は、COVID-19患者を治療するために必要なツールとして追加されることを歓迎する。
今回の評価は、患者の報告結果に基づき、抗ウイルス薬のLong COVID発現リスクに対する効果を探索的に検討する最初のプラセボ対照前向き研究である。また、今回公表した結果は中間解析データであり、今後12ヵ月時点(Day 337)までフォローアップが継続される。
塩野義製薬は、パンデミックの早期終息による社会の安心・安全の回復に貢献するために、ゾコーバの有効性、安全性に関するエビデンスの集積に引き続き注力する。
また、海外での実用化に向けた提携先との緊密な連携ならびに生産を含むグローバルサプライチェーンの強化を図り、今後も状況に変化があり次第告知する。
なお、同件が2023年3月期の連結業績予想に与える影響については、現時点で軽微である。影響を認識した際は内容を精査の上、速やかに公表する。