小児悪性脳腫瘍(髄芽腫)において化学療法の効果を高める遺伝子特定 新潟大学

 新潟大学脳研究所脳神経外科分野の棗田学助教、藤井幸彦教授らの研究グループは、小児悪性脳腫瘍である髄芽腫に対する化学療法の効果を高める遺伝子としてSLFN11(Schlafen 11、シュラーフェン11)を特定した。
 同研究の結果から、髄芽腫においてSLFN11の発現評価により治療効果や予後予測が可能となる。さらに、SLFN11の発現が低く予後不良のGroup 3等の症例では、通常の化学療法にHDAC阻害剤を追加することで予後の改善が期待される。これらの研究成果は、10月23日、科学雑誌Neuro-Oncology誌に掲載された。
 小児悪性脳腫瘍の最も多くを占める髄芽腫は、遺伝子変異の特徴などで4つのサブグループ( WNT 群、 SHH 群、 Group 3 、 Group 4 )に分類されている。 Group 3 、 Group 4 は、化学療法の効果が低い一方で、 WNT 群と SHH 群の一部は化学療法の効果が高く、予後良好であることが知られていたが、その原因は不明であった。
 同研究では、患者サンプルやデータベース解析の結果から、WNT群とSHH群の一部でSLFN 11が高発現していることを突き止め、さらにSLFN11がシスプラチンなどの化学療法の効果を増大させることを実証した。
 さらには、 SLFN11の発現が低く、シスプラチンに抵抗性を示す場合に、SLFN11 の発現を上昇させる薬剤と併用することで、シスプラチン抵抗性を打破できることを実証した。
 同研究結果から、髄芽腫においてSLFN11の発現を評価することで、治療効果や予後予測が可能となり、さらに SLFN11 を軸とした新規治療戦略の創生が期待できる。
 髄芽腫は、小児に多い悪性脳腫瘍であり、小脳から発生し、浸潤性に増殖し、髄膜播種を起こしやすい性質を持ち、世界保健機構(WHO)脳腫瘍病理分類ではグレード4と最も悪性度が高い脳腫瘍と定義されている。
 従来は、極めて予後不良であったが、近年、全脳全脊髄照射およびDNA障害型抗がん剤であるシスプラチンを含む多剤大量化学療法を行う治療法が確立し、5年生存率が8割を超えるようになり、治療成績は飛躍的に向上している。
 新潟大学医歯学総合病院でも、手術を行う脳神経外科、病理診断を行う脳研究所病理学分野、放射線治療を行う放射線治療科、化学療法を行う小児腫瘍科で協力し、治療に当たっている。
 また網羅的遺伝子解析により、髄芽腫は分子学的にWNT群、SHH群、Group 3、Group 4の4群に分けられることが判明した。WNT群が最も予後良好であり、5年生存率は95%以上とされている。続いて、SHH群、Group 4、Group 3の順に予後不良とされているが、なぜ、治療反応性に差がでるのかは解明されていない。
 同研究グループは、髄芽腫の予後を最も左右する因子として、またシスプラチンなどの化学療法の効果を飛躍的に高める因子としてSLFN11を同定した。
 まず、はじめに髄芽腫の公開データベースを解析し、2万以上の遺伝子よりSLFN11は予後との相関がとても強い(上位1%)ことが判った。
 続いて、高発現、中発現、低発現の3群に分けますと、今まで報告されている髄芽腫の予後因子34因子の中で、SLFN11で最も良く予後の3群が分かれることが判明した。
 次に、髄芽腫の分子分類の4群でSLFN11のmRNA発現を比較しますと、最も予後良好であるWNT群の多くの症例でSLFN11は高発現し、2番目に予後良好であるSHH群の一部の症例がSLFN11高発現、予後不良であるGroup 3、 Group 4ではSLFN11が低発現であることが判った(図1)。

 加えて、WNT群25例、SHH群27例を含む合計98例の髄芽腫でSLFN11蛋白発現を免疫染色で評価したところ、mRNA発現と同様にWNT群およびSHH群の一部の症例で強く染色されましたが、Group3およびGroup 4の症例は殆どがSLFN11陰性であった。
 次に、髄芽腫細胞株を用いてSLFN11発現およびシスプラチンに対する感受性を検証した。SLFN11を発現する髄芽腫細胞株(SLFN11(+)株)でSLFN11をノックアウトすると、シスプラチンに対する感受性が低下した(図2左上)。反対に、SLFN11を発現しない髄芽腫細胞株(SLFN11(-)株)でSLFN11を過剰発現させるとシスプラチンに対する感受性は上昇した(図2右上)。
 さらに、同研究グループは、SLFN11の発現はエピゲノムによって調整されており、SLFN11(-)株にHDAC阻害剤を投与するとSLFN11発現を上昇させ(図2左下)、シスプラチンとの相乗効果を示した。
 また、マウス頭蓋内移植モデルにおいても、SLFN11過剰発現細胞株ではSLFN11(-)株と比べてシスプラチンへの感受性が高いことを証明した(図2右下)。
 これらの研究結果は、髄芽腫の実臨床において大きなインパクトがあると考えられる。まず、個々の症例でSLFN11の発現を免疫染色で評価することで、化学療法に対する感受性を術後早期に予測可能となる。


 例えば、SLFN11発現の高い髄芽腫症例では、シスプラチンを含む化学療法の感受性が高いと予想できる。現在、標準リスクの髄芽腫に対する標準治療は、全脳全脊髄照射24グレイとされている。24グレイの放射線量を18グレイほどに減量することで、下垂体ホルモン異常(低身長、甲状腺機能低下症)や高次機能障害などの放射線治療による晩期障害の影響を最小限に留めるられると期待されている。
 だが、今のところ、放射線量を減少させることで残念ながら再発率が高くなることが知られている。とはいえ、同研究によってSLFN11発現が高く、化学療法に感受性の高いことが期待される症例に限っては放射線量を下げられる可能性が示された。
 また、同研究の結果から、SLFN11の発現が低く予後不良のGroup 3等の症例では、通常の化学療法にHDAC阻害剤を追加することで予後を改善させることが期待される。実臨床への貢献のためには、今後、前向きな臨床試験を組んでの検証が必要であると考察される。

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