レカネマブ 早期アルツハイマー病P3試験で臨床症状悪化を抑制 エーザイ

 エーザイは28日、抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体「レカネマブ」について、1795人の早期アルツハイマー病を対象としたグローバル大規模臨床P3相CLARITY AD検証試験において、統計学的に高度に有意な臨床症状の悪化抑制を示し、主要評価項目を達成したと発表した。
 脳内アミロイド病理が確認されたアルツハイマー病(AD)による軽度認知障害(MCI、Mild Cognitive Impairment)および軽度AD(これらを総称して早期ADと定義)を対象とした大規模なグローバル臨床P3相Clarity AD検証試験において、主要評価項目(CDR-SB)ならびに全ての重要な副次評価項目を統計学的に高度に有意な結果をもって達成し、良好なトップライン結果を取得したもの。同結果は、レカネマブがADの進行を遅らせ、認知機能と日常生活機能に意義のある影響を与える可能性を示している。
 CDR-SBは、認知症の幅広いステージの重症度を評価するスケールで、記憶、見当識、判断力と問題解決、地域社会の活動、家庭および趣味、身の回りの世話の6項目について、当事者の診察や家族および介護者からの情報で評価する。6項目のスコアの合計点がCDR-SBのスコアとなり、早期ステージのADを対象とした治療薬の適切な有効性評価項目としても使用される。
 同試験結果に基づいて、エーザイは、2022年度中の米国におけるフル承認申請、ならびに日本、欧州における販売承認申請を目指し、各国当局と協議を行う。
 レカネマブについて、エーザイは、開発および薬事申請をグローバルに主導し、エーザイの最終意思決定権のもとで、エーザイとバイオジェンが共同商業化・共同販促を行う。
 同試験結果については、アルツハイマー病臨床試験会議(CTAD)において、本年11月29日に発表し、査読付き医学誌で公表する予定だ。
 同試験のintent-to-treat(ITT)集団における解析の結果、投与18カ月時点での全般臨床症状の評価指標であるCDR-SBスコアの平均変化量は、レカネマブ投与群がプラセボ投与群と比較して-0.45となり27%の悪化抑制を示し(p=0.00005)、主要評価項目を達成した。
 また、CDR-SBは投与6カ月以降全ての評価ポイントにおいてレカネマブ投与群がプラセボ投与群と比較して統計学的に高度に有意な悪化抑制を示した(全評価ポイントでp<0.01)。
 重要な副次評価項目であるアミロイドPET測定による脳内アミロイド蓄積、ADAS-cog14(Alzheimer’s Disease Assessment Scale-cognitive subsale 14)、ADCOMS(Alzheimer’s Disease Composite Score)およびADCS MCI-ADL(Alzheimer’s Disease Cooperative Study-Activities of Daily Living Scale for Mild Cognitive Impairment)の投与18カ月時点での変化についても、全ての項目においてプラセボと比較して統計学的に高度に有意な結果を示した(p<0.01)。
 抗アミロイド抗体に関連する有害事象であるアミロイド関連画像異常(ARIA)については、ARIA-E(浮腫/浸出)の発現率は、レカネマブ投与群で12.5%、プラセボ投与群で1.7%であり、その内、症候性のARIA-Eの発現率は、レカネマブ投与群で2.8%、プラセボ投与群で0.0%であった。
 ARIA-H(ARIAによる脳微小出血、大出血、脳表ヘモジデリン沈着)の発現率は、レカネマブ投与群で17.0%、プラセボ投与群で8.7%であった。症候性ARIA-Hの発現率は、レカネマブ投与群で0.7%、プラセボ投与群で0.2%であった。
 ARIA-Hのみ(ARIA-Eを発現していない被験者でのARIA-H)はレカネマブ投与群(8.8%)とプラセボ投与群(7.6%)で差はなかった。ARIA(ARIA-Eおよび/またはARIA-H)の発現率はレカネマブ投与群で21.3%、プラセボ投与群で9.3%であった。総じてレカネマブのARIA発現プロファイルは想定内であった。
 CLARITY AD検証試験は、早期AD当事者様1795人を対象とした、プラセボ対照、二重盲検、並行群間比較、無作為化グローバル臨床P3相検証試験で、被験者は、レカネマブ10 mg/kg bi-weekly投与群またはプラセボ投与群に1:1で割り付けられた。
 ベースライン時における被験者特性はレカネマブ投与群、プラセボ投与群ともに類似しており、バランスがとれていた。被験者登録基準においては、幅広い合併症あるいは併用治療(高血圧症、糖尿病、心臓病、肥満、腎臓病、抗凝固剤併用など)を許容している。
 また、米国における民族的・人種的多様性を考慮したエーザイの被験者募集戦略により、米国における総登録者の約25%がヒスパニック系およびアフリカ系アメリカ人となった。これらの包括的な被験者登録基準と民族・人種多様性の確保の結果、米国においてはメディケア加入者と概ね同様な分布となった。
 米国において、レカネマブは、2022年7月に迅速承認制度に基づく生物製剤ライセンス申請(Biologics License Application: BLA)が米国FDAに受理され、現在審査中である。同迅速承認申請は優先審査(Priority Review)の指定を受け、PDUFA(Prescription Drugs User Fee Act)アクション・デート(審査終了目標日)が2023年1月6日に定められた。
 FDAは、同Clarity AD試験の結果について、レカネマブの臨床的有用性の検証試験として評価することに合意している。迅速承認制度では本検証試験以外の全てのデータが審査され、フル承認に向けた申請においては主に検証試験が審査対象となる。
 エーザイとバイオジェン・インクは、迅速承認制度により同試験の審査以外のパートの審査を先行して完了することにより、米国において、一日でも早くフル承認に基づきレカネマブを当事者に届けることを目指している。
 日本においても、2022年3月より、医薬品事前評価相談制度を活用し、同検証試験以外の申請データを医薬品医療機器総合機構(PMDA)に提出している。これにより、今回のClarity AD試験に基づく申請に対する審査期間を短縮し、一日でも早くレカネマブを当事者に届けるよう尽力している。

◆内藤晴夫エーザイCEOのコメント
 エーザイは、1990年代後半にアリセプトを米国、日本で発売して以来、世界100カ国以上で承認を得て、認知症当事者、その家族に届けると共に、疾患啓発やまちづくりを通じて人々との共感を築いてきた。
 アリセプトから約25年を経て、今回、レカネマブ(抗Aβプロトフィブリル抗体)のピボタルスタディーに良好な結果を得、ADコミュニティーの期待に応えることができることは、我々の使命を果たすことであり重要である。
 ADは、当事者と家族にとって大きな損失であると同時に、社会にとっても生産性の低下、社会的費用の増大、疾患に対する憂慮の拡大など、甚大な影響を及ぼしており、その解決や軽減に資することは大きなインパクトがある。
 また、ADの病態生理学的側面においても、今回の結果は、Aβの脳内異常蓄積が原因の一つであるとするAβ仮説をプロトフィブリルをターゲットとするレカネマブが臨床試験において証明することとなり、これからのADの診断・治療の充実、そして様々な治療オプションの開発の活発化など新たな地平を拓くことに繋がると期待している。

◆ミシェル・ヴォナッソスバイオジェンCEOのコメント
 本日の発表は、レカネマブがADの進行を遅らせ、認知機能と日常生活機能に意義のある影響を与える可能性を示しており、承認されれば、患者さんとその家族に希望をもたらすものである。凝集した脳内Aβの除去が、この疾患の早期段階の患者さんの病気の進行を遅らせることとの関連を示したことは重要と考えている。
 ニューロサイエンスにおけるパイオニアとして、この病気を克服するためには複数のアプローチと治療選択肢が必要であると考えており、今回の結果の意義について、患者さん、科学や医学の専門家コミュニティーと議論していくことを楽しみにしている。

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