2026年目途に規模の大きい医療用固形製剤の受注先を募集
「未来にチャレンジする健康開発企業」を企業理念とする田村薬品工業のグローバルGMPに対応した紀ノ光台工場(和歌山県橋本市)が、本年7月より本格稼働した。現在受託製造している大手製薬企業のブランドOTC製品を皮切りに、今後は2026年を目途に規模の大きい医療用固型製剤の受注先を募集し、世界進出を視野に入れた第一歩を踏み出す。
製品設計から生産まで一貫した医薬品製造受託を可能とする紀ノ光台工場は、2018年4月13日に着工し、2019年6月29日に竣工した。
田村薬品工業は、昭和9年、田村信一氏が奈良県で個人創業した「亜細亜薬品商行」をルーツとする。昭和23年に、奈良県御所市に田村薬品工業が設立。本年、75周年を迎える節目の年に紀ノ光台工場での本格的生産がスタートした。
田村大作社長は、「当社は、配置薬から市場変化への対応・事業拡大を目指してOTCの受注製造、さらに医療用固型製剤の受注製造に取り組んできた」と話す。
田村薬品工業の医療用医薬品製造については、2006年に奈良県の工業団地「テクノパーク・なら」内の五條工場に移転したホシエヌ製薬(元藤沢薬品グループ)をM&Aし、「五条工場を起点に、医療用医薬品の生産能力技術を習得しつつ、キャパシティと生産能力の向上を目指すには既存の工場のリニューアルよりもグローバルGMPに対応できる新工場の開設が不可欠であるとの結論に達し、新工場開設に至った」と説明する田村社長。その結果、「8年構想で紀ノ光台工場建設を計画し、本年7月、本格稼働を開始した」
紀ノ光台工場は、①クロスコンタミネーション(異物混入)の排除、②迅速稼働、効率的生産を追求した自動化、③顧客ニーズに柔軟に対応、④人、環境に配慮した工場をコンセプトとする。
これらのコンセプトについて田村康平常務取締役生産本部本部長は、「受託医薬品市場は、多品種・少量ロットが要望されている。こうした中、紀ノ光台工場では、小ロットへの対応、自在に小回りのきく自動化工場を目指している」と強調する。
その上で、「国内の少子化が進む中、24時間自動稼働し、異物混入を極力排除できる生産対応を構築しており、SDGsにも配慮している」と指摘し、「24時間自動稼働により、受注量が増加しても、リカバリーが可能である」と訴えかける。
田村社長も「医療用医薬品・一般用医薬品の固形剤中心とする紀ノ光台工場、一般用医薬品・医薬部外品の液剤を中心とする‟本店工場”(奈良県御所市)、中規模ロットの医療用医薬品の固型製剤を中心とする‟五條工場”でも展開していく」方針を示す。
紀ノ光台工場では、独自に開発された人対応小型気密缶による新製造方式の「スマートカンガルー方式」(SMALL CONTAINER & ROBOT KANGAROO)が、自在に小回りのきく自動化工場実現のための大きな原動力となっている。
紀ノ光台工場での製造は、錠剤移送、保管に小型容器を採用し、スタッカークレーンで各工程室に運搬される。
小型容器が工程室に自動で運び込まれた後は、打錠、糖衣、錠剤検査及び包装ホッパー投入までの工程間をハンドリングロボットが完全自動で生産するスマートカンガルー方式を採用している。
通常、ロボットアーム採用工場では大型容器(200~300kg)が用いられるが、紀ノ光台工場では小型容器(50kg)を用いており、「ロットサイズが大きい物から小さい物まで幅広く対応できる」(田村常務)のが大きな特徴だ。
さらに、この小型容器がロボットアームで自動開閉できる密封容器となっているのも見逃せない。
具体的には、小型容器の蓋のチューブ内部を加圧でなく陰圧に引くことで蓋が開くBLT(BANDLESS AIRTIGHT)技術が採用されている。すなわち、陰圧常態にすることで蓋のチューブ内部のシリコンが収縮して蓋が開き、常圧に戻せばシリコンが元の状態に戻って蓋が閉まるというわけだ。
この技術は日揮と六菱ゴムが共同開発したもので、開閉耐久テストを約5万回繰り返しても問題ないことが確認されている。
田村常務は、「紀ノ光台工場では、各工程室にスタッカークレーンを用いて運搬するとともに、全ての工程にバルク用と作業員用の前室を設けることで、コンタミリスクを最小限にしている」と指摘。
加えて、「小型容器とハンドリングロボットを用いたスマートカンガルー方式の採用により、工程における人の介入を最小限にし、高い品質とコストメリットを実現している」と新工場の特徴を総括する。
現在、紀ノ光台工場では、大手製薬企業のブランドOTC製品受託製造に加えて、医療用医薬品の固型剤及び顆粒剤の外観検査・充填包装を行っている。従業員数は、製造部門45名、品質部門4名、工場管理部・生産管理部などその他9名の合計58名(2022年7月現在)である。
大手製薬企業のブランドOTC製品は、固形剤2億5000万錠、SP包装6000万包製造しており、OTC製品の受託生産キャパシティは4億錠に上る。 一方、医療用固型製剤の生産能力は6億錠、PTP包装は4億錠を誇り、将来の増産に向けた拡張エリアも確保している。
田村社長は、紀ノ光台工場のこれからの運営について「FDAなどの世界基準のGMPに対応できるようにハード面を構築しているため、現在、規模の大きい医療用固形製剤の受注先を募集している」と呼びかける。
気になる受注価格は、「生産から包装までの一貫した受注生産であれば、他社とは十分に対応できる」と胸を張る。受注先獲得期限についても、「2022年を目途に、できるだけ早い時期の獲得を目指したい」と言及した。