病態再現作製時間の大幅短縮で運動障害などの治療薬開発加速に期待
アイ・ピースは14日、皮膚繊維芽細胞(dermal fibroblast)に4つの遺伝子を導入することで、オリゴデンドロサイト前駆細胞に直接的に短期間で変換するダイレクトリプログラミングに成功したと発表した。
ダイレクトリプログラミングでは、大幅に短縮された作製時間内での病態再現が可能となるため、今後、運動障害、痙性麻痺、てんかんなどの創薬開発加速が期待される。
この研究成果は、スタンフォード大学ワーニグ教授、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のロウィッチ教授、信田広子研究員(現ラトガース大学助教授)らの共同研究によるもの。
信田研究員は2020年9月よりニュージャージー州ラトガース大学で研究室を立ち上げ、ダイレクトリプログラミングで作成したオリゴデンドロサイトを用いた髄鞘疾患の創薬、再生研究に取り組んでいる(https://cabm.rutgers.edu/research/nobuta-lab)。同研究成果は、学術誌Developmentオンライン版に6月24日に掲載された。
オリゴデドロサイトは神経細胞の軸索に髄鞘(myelin:ミエリン)を形成する細胞で、神経を囲む絶縁体の役割を果たし、電気信号が流れる速度を加速する。オリゴデンドロサイトの異常は大脳白質萎縮症を引き起こす。
その病態解明・創薬や移植医療には、多くのオリゴデンドロサイトの作製を必要とする。これまで行われてきたヒトiPS細胞やES細胞からオリゴデドロサイトへの分化誘導による作製は分化誘導効率が悪く、また分化誘導には長い時間を要する。
そのため移植医療や病態解明には高額の費用が必要で早期治療法開発ならびに創薬の妨げとなっていた。加えて、移植医療には未分化細胞の混入による腫瘍形成の可能性などの問題があった。
今回、信田氏らは、皮膚の細胞から幹細胞状態を経ることなくオリゴデンドロサイト前駆細胞への変換に成功した。驚くことに、皮膚から直接作製されたオリゴデンドロサイト前駆細胞は試験管内においても、マウスの脳に移植後においても、機能的なオリゴデンドロサイトに終末分化し、神経細胞に巻き付きミエリン鞘を形成した。
さらに、先天性髄鞘形成不全症の一種ペリツェウス・メルツバッハー病(PMD)の患者由来の皮膚の細胞から作製したオリゴデンドロサイト前駆細胞を用いて試験管内で病態の再現に成功した。
PMDは、小児に発症する発達障害で、オリゴデンドロサイト特異的に発現する遺伝子PLP1の異常により惹起する。遺伝子の異常により分化中のオリゴデンドロサイトが脳内で死滅し、髄鞘形成を妨げることがわかっている。
現時点において、運動障害、痙性麻痺、てんかんなどの症状に対する緩和治療しかなく、根本的な治療法はない。今回、成功したダイレクトリプログラミングでは、大幅に短縮された作製時間内で病態の再現に成功したため、今後の創薬開発加速への寄与が注目される。
また、今回作成に成功したオリゴデンドロサイト前駆細胞は移植後マウスの脳に生着し神経細胞に巻き付くことが証明されたことから、他の先天性髄鞘形成不全症や効果的な治療法に乏しい髄鞘疾患(多発性硬化症、視神経脊髄炎など)の移植再生医療への技術応用が期待される。
学術誌Developmentに掲載された論文は、https://journals.biologists.com/dev/article/149/20/dev199723/275808/Generation-of-functional-human-oligodendrocytes よりリンクできる。
アイ・ピースは、GMPiPS細胞の販売、及び医療用細胞の製造受託サービスをグローバルに展開している。京都大学山中伸弥教授の研究室出身で、世界で初めてヒトiPS細胞の樹立成功を報告した論文の第二著者でもある田邊剛士氏によって2015年に立ち上げられた。
iPS細胞の開発当初から研究に従事してきた田邊は、アイ・ピースを通じiPS細胞を全ての人々の手に届くものとすることを目指し、日々革新的な技術開発に取り組んでいる。アイ・ピース独自の技術により、コンタミネーションの懸念なく複数のドナー由来のiPS細胞を並行して製造することができ、多数のiPS細胞を適切な価格で提供することが可能となった。
同社では、PMDA・FDA基準に沿った高品質細胞製品として同社のiPS細胞その他細胞製品を製薬会社・細胞医療開発会社に提供し、創薬・細胞医療開発の支援を行っている。
さらに、世界中の一人一人が自分自身のiPS細胞を持つことによって将来の疾患発症予防・治療に備えるため、個人向けのiPS細胞の製造も進めている。
アイ・ピースは、細胞医療が一日も早く患者の手が届くものとなるよう、製薬会社・細胞医療開発会社を支援するとともに、個人向けiPS細胞バンキングサービスの確立により再生細胞医療の一日も早い普及を目指している。