膵がんの早期診断における唾液メタボローム解析の有用性に期待 第22回日本抗加齢医学会総会

 第22回日本抗加齢医学会総会は、17日から19日の3日間、大阪国際会議場でWEB併用方式で開催され、膵がんのファーストスクリーニング(早期診断)における唾液メタボローム解析の有用性やCKD(慢性腎臓病)と酸化ストレス、CKD治療薬としてのSDLT-2阻害薬への期待などについて報告された。

宮内氏


 膵臓は、「沈黙の臓器」と言われ、膵臓がんの早期発見は非常に難しい。膵臓がんの5年生存率も10%程度と低い。こうした中、「唾液や糞便のデータを組み合わせてスクリーニングすることで、膵臓がんの早期発見ができる可能性」が報告された。
 ヒトの腸管には約40兆個、数百種類の腸内細菌が生息しており、独自の生態系・代謝系を構築しつつ宿主と共生関係を築いている。
 近年の次世代シーケンサーの発達に伴い、16SrRNA遺伝子を標的とした腸内細菌叢解析が急速に広がっている。その結果、腸疾患や糖尿病、さらには自閉症などあらゆる疾患において腸内細菌叢の乱れが確認されてきた。
 加えて、腸内細菌叢の全ゲノム配列を解読するショットガンメタゲノム解析、代謝産物を定量するメタボローム解析、さらにはトランスクルプトーム解析など、各網羅的解析を組み合わせたマルチオミクス解析を用いることで、複雑な腸内細菌・宿主間相互作用の詳細の解明されつつある。
 こうした中、宮内栄治氏(群馬大学生体調節研究所粘膜エコシステム制御分野)らの研究グループは、唾液や糞便のデータから膵がんを予測するモデル構築の研究を進めている。
 その結果、唾液、糞便ともに健常人と膵がん患者では差はなかったが、唾液の代謝産物を定量するメタボローム解析では、差が認められた。宮内氏は、「今後、この代謝物が膵がんのファーストスクリーニングに使える可能性が高い」と強調した。
 宮内氏らは、これまで、多発性硬化症モデルマウスを用いて、中枢神経系の炎症推進に関する腸内細菌を特定し、その作用機序を明らかにしてきた。この研究には、16SrRNA遺伝子シーケンシングやショットガンメタゲノムシーケンシング解析が大きく貢献した。
 また、炎症性腸疾患患者のサンプルで16SrRNA遺伝子シーケンシングやメタボローム解析を組み合わせ、喫煙が腸粘膜細菌叢や腸管免疫に与える影響を検討してきた。
 宮内氏は、「タバコをやめると潰瘍性大腸炎やクローン病が悪化するという臨床データがある」と紹介し、「これまでそのメカに図もの詳細は判っていなかったが、我々の研究により、口の菌が腸の粘膜で増加し、芳香族化合物がその要因として影響していることが判明した」と報告した。

西山氏


 一方、CKDと酸化ストレスについて講演した西山成氏(香川大学医学部薬理学)は、様々な動物実験モデルでのCKDの病態において、局所のNADPHオキシダーゼ活性化を伴う酸化ストレスの亢進が重要な役割を果たしていることを報告してきた。また、いくつかの抗酸化薬が腎臓の保護効果を示すことも実験的に明らかにしてきた。
 加えて、CKDに対して効果が期待できるレニン・アンジオテンシン系阻害薬やアルドステロンのミネラルコルチコイド受容体拮抗薬などの腎保護作用も、酸化ストレスの抑制効果を伴っていることも解明してきた。その一方で、CKD治療薬として副作用の少ない抗酸化剤の開発はなかなか進まず、臨床応用に結び付けることが難しいとされていた。
 だが、近年、SGLT2阻害薬が、腎臓中の酸化ストレス減少効果を示すP3試験結果が相次いで報告されるようになった。2020年には、アストラゼネカの「フォシーガ」が、2型糖尿病合併の有無に関わらず慢性腎臓病治療薬として承認取得する根拠となった国際共同P3相試験(DAPA-CKD試験)結果が公表された。
 その後、2021年8月26日に、日本で初めて「フォシーガ」が、慢性腎臓病治療薬として承認された。
 田辺三菱製薬のSGLT2阻害剤「カナグル」は、CREDENCE試験においてカナグリフロジン投与群はプラセボ群に比べて腎機能の指標である糸球体濾過濾過量(eGFR値)の低下速度を有意に抑制し、透析を15.1年間も遅らせる結果を示した(カナグルは、6月20日に慢性腎臓病の適応追加承認取得)。
 また、最近、Nrf2活性化薬「パルドキソロンメチル」(協和キリン)が腎機能の指標であるGFRを増加させることが明らかになってきた。パルドキソロンメチルは、抗酸化、抗解毒酵素の誘導に関与する転写因子Nft2を活性化する化合物である。
 そのターゲットとなるNft2は、通常の状態では細胞内でkeap1に補足されて抑制状態にあるため、ユビキチン・プロレアソームによって常に分解を受けている。だが、酸化ストレスが存在すると、Nft2はkeap1の影響を逃れ、安定化して核内に移行することが知られている。さらに、Nrf2は、マクロファージの炎症応答を転写レベルで抑制し、抗炎症作用も発揮することも報告されている。
 もともとNrf2活性化薬「パルドキソロンメチル」は、抗がん薬として開発されていたが、臨床試験の過程でGFR増加が頻回に観察され、CKD治療薬としての抗酸化剤(P3)として開発されている。

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