四半期毎に成果報告した総説および学術論文紹介 ナノ医療イノベーションセンター

 川崎市産業振興財団 ナノ医療イノベーションセンター(iCONM、センター長:片岡一則氏)は13日、同センターが関わった研究の成果として発表した主要
論文の要旨を、今後四半期ごとにまとめてプレスリリースすることを明らかにした。
 今回、2022 年 1 月~3 月に公開された総説および論文から、次の4報をプレスリリースで紹介された。
① 総説:ナノミセルを用いてニューロン(脳脊髄神経細胞)を選択的に標的とする治療戦略
課題と期待。
② 総説:脳腫瘍の治療を目的としたナノミセル製剤。
③ 論文:効果的なポリ(L-オルニチン)を用いた mRNA の保護は、電荷変換ポリマー(CCP)を
組み合わせることでエンドソームからの離脱機能との相乗効果を生む。
④ 総説:シスプラチンを基本とした抗がん剤治療における腫瘍組織選択性ナノミセル製剤。

◆ナノミセルを用いてニューロン(脳脊髄神経細胞)を選択的に標的とする治療戦略:課題と期待
原題:Selective targeting of neurons using nanomedicine-based strategies: open questions and new opportunities
雑誌名:Nanomedicine
著者:Rosalia R.-Rodriguez and Sabina Quader
URL:http://doi.org/10.2217/nnm-2021-0486

 要旨:中枢神経に関連する疾患には、神経変性疾患(アルツハイマー型認知症やパーキンソン病など)や代謝性疾患(耐糖能異常や肥満など)が含まれ、数多くの疾病の治療ターゲットとなりうるが治療の選択肢は限られている。
 その理由として、特定のニューロンをターゲットにする必要があること、脳への薬物送達が限られていること、それが故に末梢組織への副作用が強いことが挙げられる。
 これらの課題を解決する手段としてナノミセルを利用する方法がある。だが、中枢に到達する技術進歩があるにも関わらず、ニューロンをターゲットとして設計されたナノミセル製剤はわずかで、これまで、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病、てんかん、筋委縮性側索硬化症の治療を目的としたナノミセル製剤が報告されている。
 筆者らは、視床下部のニューロンが脂質代謝に関わっていることから、肥満とそれに関連する疾患の治療にナノミセル製剤を利用することを研究している。
 特定のリガンドをターゲットとしたナノミセル製剤を合成することで、脳内の必要な場所に薬剤や mRNA を送達し、中枢からの指令の制御に基づく治療法に繋げようとする研究について本総説では紹介されている。

◆脳腫瘍の治療を目的としたナノミセル製剤
原題:Nanomedicine for Brain Cancer
雑誌名:Advanced Drug Delivery Review
著者:Sabina Quader, Kazunori Kataoka and Horacio Cabral
URL:https://doi.org/10.1016/j.addr.2022.114115

要旨:脳腫瘍は有効な治療法が無く、生存率は過去 30 年間ほとんど変わっていない予後の悪い腫瘍の一つである。脳腫瘍を治療する難しさの一つとして、血液脳(腫瘍)関門(BBB/BBTB)を突
破して、治療濃度に達する薬剤を腫瘍部位に送達させることがあげられる。ナノミセル製剤は、薬
物動態および薬力学の制御による薬物のバイオアベイラビリティの向上、BBB/BBBB 突破機能、腫瘍
部位での優れた分布、腫瘍特異的な薬物活性化プロファイルなど、その独自の特徴を生かして、これらの困難に取り組むための注目すべき見通しを示し始めている。
 この総説では、ナノミセルの脳腫瘍ターゲティングアプローチについてまとめ、その適用性と応用の可能性をさまざまな観点から示す。そのために、脳腫瘍とその治療法、BBBとBBTB の発生、およびそれらがナノミセルのターゲティングに果たす役割、さらに優れた治療効果を促進するためのナノミセルの可能性について、一般的な知見を示す。
 その上で、この生命を脅かす疾患の治療におけるナノミセル製剤の臨床応用の可能性を高めるため、ナノミセル製剤とその臨床試験に関する主要課題について論じる。

◆効果的なポリ(L-オルニチン)を用いた mRNA の保護は、電荷変換ポリマー(CCP)を組み合わせることでエンドソームからの離脱機能との相乗効果を生む原題:Effective mRNA Protection by Poly(l-ornithine) Synergizes with Endosomal Escape Functionality of a Charge-Conversion Polymer toward Maximizing mRNA Introduction Efficiency
雑誌名:Macromolecular Rapid Communications
著者:Anjaneyulu Dirisala, Satoshi Uchida, Junjie Li, Joachim F. R. Van Guyse, Kotaro Hayashi, Sai V. C. Vummaleti, Sarandeep Kaur, Yuki Mochida, Shigeto Fukushima, and Kazunori Kataoka URL:https://doi.org/10.1002/marc.202100754

 要旨:mRNA を効率的に送達するためには、mRNA をヌクレアーゼから保護することと、mRNA をエ
ンドソームから細胞質へ移送することの 2 つの大きな機能が送達担体には必要である。ここでは、
カチオマーの化学構造を微調整し、エンドソームからの mRNA の離脱を容易にすることで、この 2つの相補的な機能を 1 つのポリマー複合体(ポリプレックス)に統合した。メチレン鎖のスペーサーの長さがカチオマー側鎖に与える影響を、4つのメチレン鎖が連なったスペーサーであるポリ(L-リジン)(PLL)と3つのメチレン鎖が連なったスペーサーであるポリ(L-オルニチン)(PLO)の比較により評価する。
 特に、mRNA/カチオマーポリプレックスのヌクレアーゼ安定性は、1つのメチレン基の違いに大きく影響され、PLO/mRNAポリプレックスは PLL/mRNAポリプレックスに比べて高い安定性を示すことがわかった。
 エンドソームからの離脱機能を持たせるために、PLO/mRNA ポリプレックスを電荷変換ポリマー(CCP: Charge Conversion Polymer )で包み、細胞外の pH では負に帯電し、エンドソームの酸性pHでは正に転じてエンドソーム膜を崩壊させるようにした。
 CCP を用いると、元の PLO/mRNA ポリプレックスと比較して、培養細胞内でポリプレックスのエンドソームからの mRNA 離脱を促進し、mRNA からのタンパク質発現効率を約80倍に向上させた。
 本システムは、PLO によるヌクレアーゼに対する保護効果とCCPによるエンドソームからの離脱能力を相乗的に作用させ、mRNA の送達効率を高めた。

◆シスプラチンを基本とした抗がん剤治療における腫瘍組織選択性ナノミセル製剤
原題:Targeted nanomedicine in cisplatin-based cancer therapeutics
雑誌名:Journal of Controlled Release
著者:Yu Han, Panyue Wen, Junjie Li and Kazunori Kataoka
URL:https://doi.org/10.1016/j.jconrel.2022.03.049

 要旨:1978 年に認可されて以来、シスプラチンは世界で最も成功した化学療法剤の一つであることが実証されている。だが、シスプラチンが直面する 2 つの深刻な課題である耐性と毒性は、臨床応用のボトルネックになっている。
 腫瘍組織に選択的に届くナノミセル製剤は、正常組織への毒性を最小限に抑えながら、シスプラチンの有効性を最大化するための薬剤送達に大きな可能性を示している。
 本稿では、シスプラチンの耐性と毒性を管理するための腫瘍組織選択性ナノミセル製剤の最近の進歩と課題を、基礎と臨床の両側面から調査した。
 特に、シスプラチン感受性を打ち消す3つの主要なメカニズム(細胞内蓄積の減少、シスプラチン不活性化の増加、DNA 修復・損傷乗り越え合成の促進)に焦点を当て、それに対応して、シスプラチンの細胞内濃度の向上や併用療法を実施することによってシスプラチン感受性を高めるいくつかの代表的アプローチに焦点を当てた。
 さらに、シスプラチン送達システムの今後の進歩の要件として、(i)腫瘍集積性を圧倒的に向上させるのではなく、ナノバイオ相互作用と集積後の生物学的効果の理解、(ii)刺激応答性または能動標的型ナノミセルの開発、(iii)併用療法の最適化、(iv)腫瘍微細環境と免疫療法を標的とした新規併用に焦点を当てた。我々は、シスプラチンのナノミセル製剤が継続的に進歩し、がん治療に革命をもたらす可能性があると想定している。

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