「上司との気軽な相談」は企業規模の大小に関係なし
ドクタートラストのストレスチェック研究所は3月31日、2020年度にストレスチェックの実施を受託した企業のデータから「企業規模と社内コミュニケーションの関係」を分析し、その結果を発表した。
同研究所では、ストレスチェックサービスを利用した累計受検者103万人のデータを活用し、さまざまな分析を行っている。今回の調査もその一環で、2020年度にドクタートラストでストレスチェックを受検したうち、「従業員数50名未満」あるいは「従業員数1000名以上」の企業に勤務している人を対象としたもの。
従業員数50名未満の企業1564名(80問版のみの設問では1287名)と、同1000名以上の企業13万9603名(80問のみの設問では2万7977名)について、ストレスチェック項目のうち「社内のコミュニケーション状況」に関わる設問への回答状況を分析した。
その結果、「同僚と気軽に話せる、相談できるか」、「互いを認め合う人間関係が構築されているか」の設問の回答では、「規模の大きい企業」のほうが良好であった。
一方、「職場で従業員の意見が聞かれるか」の設問は、「規模の小さい企業」が良好であった。
「上司と気軽に話せる、相談できるか」、「個々人の価値観を尊重しているか」「経営層からの情報は信頼できるか」の設問では、企業規模の影響はなかった。
ストレスチェック制度は、従業員のメンタル不調の予防やその気付きの促しや、ストレスが高い人の状況把握やケアを通して職場環境改善への取り組みを目的として制定され、従業員数50名以上の事業場で年1回の実施が義務づけられている。
ドクタートラストでは、ストレスチェックの集団分析データをもとに、さまざまな企業で職場環境改善コンサルティングを行っている。その際、コミュニケーションについて聞くと「うちは規模が大きいため、どうしても意思の疎通がしづらい」、「うちは小さい会社ですから。一人ひとりが自分で考えて動かないと仕事が回らないんです……! 大きい企業だとコミュニケーションをとる余裕があるかもしれないのですが」といったように、「企業規模がコミュニケーションを困難にしている」旨を企業担当者からの回答が得られた。
そこで、実際に「コミュニケーションの円滑さ」は企業規模によって異なるのかを調べるため、ストレスチェックデータの分析調査を試みた。
同分析では、ストレスチェック受検対象者数に基づいて「従業員数50名以下」「従業員数1000名以上」に企業を区分、当該企業で実際にストレスチェックを受検された方のデータを集計、分析している。
また、「社内のコミュニケーション状況」に関わる設問として次の9項目の回答傾向を分析した。
ストレスチェックは、設問数57問版、80問版の2種類があり、⑤~⑨は80問版のみの設問である。
① 上司は気軽に話ができますか?
② 同僚は気軽に話ができますか?
③ 上司は、あなたの個人的な問題を相談したら、きいてくれますか?
④ 同僚は、あなたの個人的な問題を相談したら、きいてくれますか?
⑤ 努力して仕事をすれば褒めてもらえる
⑥ 一人ひとりの価値観を大事にしてくれる職場だ
⑦ 経営層からの情報は信頼できる
⑧ 職場や仕事で変化があるときには、従業員の意見が聞かれている
⑨ 私たちの職場では、お互いに理解し認め合っている
なお、ストレスチェックは、各設問に対して「そうだ」「まあそうだ」「ややちがう」「ちがう」の4択形式で回答する。同分析では、「そうだ」「まあそうだ」を良好な回答群、「ややちがう」「ちがう」を不良な回答群としている。
調査結果の詳細は、次の通り。
1. 規模の大きい企業のほうが、同僚とのコミュニケーションが円滑であり、互いを認め合う信頼関係が構築されている
分析の結果、従業員数1000名以上で良好な回答群が多かったのは、「② 同僚は気軽に話ができますか?」「④ 同僚は、あなたの個人的な問題を相談したら、きいてくれますか?」「⑨ 私たちの職場では、お互いに理解し認め合っている」の3問。
職場の心理的安全性を醸成する、または信頼関係を構築する上では、コミュニケーションの量が重要とされているが、同僚とのコミュニケーションが円滑だからこそ、互いに認め合える信頼関係が醸成されるのだと考えられる。
2. 規模の小さい企業のほうが、従業員の意見がよく聞かれる
従業員数50名未満のほうが良好な回答群が大きかったのは「⑧ 職場や仕事で変化があるときには、従業員の意見が聞かれている」である。人数が少なければ、それだけ自分の声が会社に直接届きやすいことがよくわかる。
3. 上司とのコミュニケーションは企業規模に影響されない
同僚とのコミュニケーション状況は、企業規模の大きいほうが円滑な傾向にあると判った。続いて「① 上司は気軽に話ができますか?」「③ 上司は、あなたの個人的な問題を相談したら、きいてくれますか?」、すなわち上司とのコミュニケーション状況を分析したところ、企業規模による有意な差はみられなかった。
上司とのコミュニケーションは仕事の報告や連絡、相談など「業務連絡」が想定されることから、企業規模との関連がなかったと推察される。
この領域で不良な回答群の多い企業は、あくまでその企業特有の課題を抱えている可能性があり、「うちは大企業だから」「小さな会社だから」とコミュニケーションを諦めるのは、本質から目を背けているだけかもしれない。
4. 個々人の価値観を尊重してくれるかは企業規模に影響されない
さらに「⑤ 努力して仕事をすれば褒めてもらえる」「⑥ 一人ひとりの価値観を大事にしてくれる職場だ」においても企業規模による有意な差はみられない。従業員を大切にし、個人の価値観を尊重する姿勢は企業規模に影響されないといえる。
この結果を踏まえると、従業員一人ひとりの考えを尊重するのが難しい理由として規模の大小を挙げるのは適切ではない。「上司とのコミュニケーション」同様、その会社特有の課題があると考えられる。
「もっとアイディアがほしい」「新しい風を吹かせたい」という想いがあれば、皆の価値観を知るにはどうやったらいいかを考えることが必要である。
5. 経営層からの情報の信頼性は企業規模によらない
最後に分析を行ったのは「⑦ 経営層からの情報は信頼できる」である。この設問で不良回答の多い企業は、「人数が多いのでなかなかメッセージは届かないんですよ。一般従業員はほとんど経営層と顔を合わせることもありませんから」、「小さい会社なので常に変化していくのは当たり前。おそらくこのスピード感についてこられない人が悪い回答を付けているんですよ」と規模をその理由としがちだ。だが、企業規模で回答傾向に有意な差はみられなかった。
社内のコミュニケーション状況と一口にいっても、「その円滑さが企業規模と関連している」ものと、していないものが存在していることがわかった。もっとも、規模によって差があった設問でも課題を放置していいという理由にはなrない。
職場改善においては、自社のおかれた状況下で「何ができるか」を模索していく姿勢が欠かない。
ストレスチェック研究所は、ドクタートラスト内に設置された研究機関である。ストレスチェックで得られた膨大なデータの分析を行うとともに、ストレス耐性が高く組織の強みである人材を「STELLA(ステラ)」と名づけ、これら人材を活用した強固な組織作りを目指す職場環境改善コンサル業務を行っている。