塩野義製薬は16日、ACTG(The AIDS Clinical Trials Group、本部:米国カリフォルニア州)と共同で、新型コロナ感染症(COVID-19)治療薬として同社が開発中の経口抗ウイルス薬「S-217622」のグローバルP3試験であるACTIV-2d(SCORPIO-HR試験)について、米国FDAが新型コロナ感染症のACTIV-2プログラムの一環としてグローバルP3相試験の実施を了承したと発表した。
米国NIHが支援する同試験は、重症化リスクを有する新型コロナ感染者を世界中で募集している。
ACTGは、近年新型コロナ感染症の外来治療の評価に活動を拡大している世界最大のHIV研究ネットワーク。ACTIV-2は、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の構成機関である国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)が支援する官民パートナシッププログラム「ACTIV」の一つで、ACTIV-2d(SCORPIO-HR試験)が含まれる。
同プログラムは、新型コロナ感染症に対して最も有望な治療薬やワクチンの開発を優先的に加速する協調型研究戦略を立案するために設立された。ACTIV-2は、新型コロナワクチンや治療薬、診断薬の開発、製造、流通を加速するための米国政府各機関の取り組みである連邦COVID Response-Therapeuticsからの支援も受けている。
SCORPIO-HR試験は、NIAIDの資金援助を受け、同社協力の下でACTGが主体となって実施される。
対象患者は、SARS-CoV-2陽性者で発症から5日以内であり、重度の新型コロナ感染症へ進行する可能性のあるリスク因子を1つ以上有する外来患者で、48週間の多施設共同、無作為化、二重盲検比較試験である。 同治療薬を1日1回、5日間経口投与した際の有効性と安全性を評価する。欧州、北米、南米、アフリカ、アジアより約1700人の患者登録を予定しており、同治療薬投与群とプラセボ群が2:1の比率で割り付けられる。
これまで、主に日本国内で実施されたP2/3相試験(Phase 2a part、Phase 2b part)での良好な抗ウイルス効果に基づき、FDAより同試験の実施が了承された。
なお、同件が2022年3月期の連結業績予想に与える影響に関しては、今後、状況に応じて精査する。
S-217622は、北海道大学と塩野義製薬の共同研究から創製された3CLプロテアーゼ阻害薬。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は3CLプロテアーゼというウイルスの増殖に必須の酵素を有しており、S-217622は3CLプロテアーゼを選択的に阻害することで、SARS-CoV-2の増殖を抑制する。
培養細胞を用いた予備的な非臨床試験において、オミクロン株の亜種であるBA.2株に対して既存の変異株を用いた結果と同程度の抗ウイルス活性が確認されている。
塩野義製薬は、これまでに得られた非臨床、臨床、製造・CMCに関するデータを基に、2022年2月25日付でPMDAに対して条件付き承認制度の適用を希望する製造販売承認申請を行った。
現在、国内を中心に軽症/中等症の新型コロナ感染症患者を対象としたP2/3相臨床試験のPhase 3 part、または無症候/軽度症状のみ有するSARS-CoV-2感染者を対象としたPhase 2b/3 partを実施している。
◆S-217622主任研究員でカリフォルニア大学サンフランシスコ校のAnnie Luetkemeyer博士のコメント
S-217622は、新型コロナ感染症治療のための緊急使用許可により現在使用されている経口薬と同じクラスの治療薬であり、代謝阻害剤の併用が不要な1日1回投与の簡便な治療薬である。
新型コロナ感染症の治療には、忍容性が高く、深刻な合併症リスクの低減と感染期間の短縮を可能にするより効果的な選択肢が必要である。これまでに得られている臨床試験データを踏まえ、S-217622が新型コロナ感染症の重要な治療オプションに加わることを期待している。
◆手代木功塩野義製薬代表取締役社長のコメント
多くの人々が日常生活を再開し始めるにつれて、新型コロナ感染症の重症化の抑制や医療システムの負担軽減を可能とする効果的な抗ウイルス薬が必要であると考えている。
S-217622は、SARS-CoV-2の体内での増殖を阻害するよう設計された強力な抗ウイルス薬であり、これまでに、感染性のウイルス力価を減少させ、ウイルス排出を速やかに停止させることが示されている。
S-217622という新たな治療オプションを、リスク因子を有する患者層を含むより多くの新型コロナ感染症患者さんに提供するためのNIHとACTGの協力および支援を高く評価する。
COVID-19が世界的な脅威として人々の生活に大きな影響を与える中、当社はパンデミックの早期終息による社会の安心・安全の回復に貢献するために、本治療薬の開発に引き続き注力していく。