塩野義製薬と国際NGOワールド・ビジョン・ジャパンは16日、2015年10月に開始したアフリカの母子の健康を支援する「Mother to Mother SHIONOGI Project」の第一期事業の成果を公表した。
新型コロナ感染症が国際社会に大きな影響を与える中、途上国における医療アクセスは益々困難な状況下にある。ケニア共和国では、妊産婦死亡率は日本の68倍、5歳未満児死亡率は日本の22倍と、SDGs目標の達成に向けて未だ大きな課題が残されており、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)達成に向けた具体的な取り組みが求められている。
同事業は、ケニア共和国ナロク県イララマタク地域で行ってきたもの。同地域は、遊牧民のマサイ族が多く暮らす地域で、保健施設や医療サービスの質・量の不足、地域住民の保健に関する知識不足、自宅出産の慣行などの課題を抱えていた。
同事業を通じて医療施設・水衛生環境のインフラ整備や地域保健人材・住民への教育を実施することで、マサイ族が医療サービスの重要性を理解し、診療所への来院者数はプロジェクト開始前と比較して年平均1.8倍に増加した。
また、2018年からは、介入の科学的評価のためWVJと国立大学法人長崎大学が連携し、「5歳未満児の健康改善と発達、妊産婦の健康改善に向けた疫学調査」を実施した。
調査の結果から、水衛生環境の改善を中心とした保健・栄養・幼児教育の包括的な取り組みを通じて、同事業が母子の健康改善に寄与したことが明らかになった。
Mother to Mother SHIONOGI Project第一期事業の成果は、次の通り。
1、医療アクセス向上
保健施設での分娩割合(専門技能者の介助含む)は12倍に増加した。生後12か月から23か月幼児の予防接種3完遂率も改善し、より多くの方が医療サービスを受けられるようになった。
2、水衛生環境改善と住民の行動変容
水供給施設の整備により、乾季における井戸へアクセスできる世帯は、9%から36%と4倍に増加した。また、住民への衛生教育を通じて、水源と周辺の家庭における大腸菌の検出頻度は66%改善、石鹸を使った手洗いを行う世帯の割合は33%から69%と2倍に増加し、完全母乳哺育の割合は65%から78%と1.2倍に増加した。
3、まとめ
水衛生環境の改善を中心とした保健・栄養・幼児教育の包括的な取り組みを通じて、子どもの下痢症有病率(28%から12%)、発育障害率(37%から30%)、消耗症率(25%から15%)の改善に繋がった。
同事業の疫学調査の結果は論文公表予定であり、今後ケニアの母子保健政策や事業に活かされることが期待される。
なお、2020年4月から開始している第二期事業では、ケニア共和国キリフィ県の3つの診療所を対象に支援している。その1つであるリマ・ラ・ペラ診療所では、安定した医療サービス提供を目指し、パナソニックによる「LIGHT UP THE FUTUREプロジェクト」の協力を得て、太陽光発電システムの設置に取り組む予定である。
同プロジェクトは、今後も分野横断的なパートナーシップにより、それぞれの強みを活かし、ケニアにおける医療アクセスの向上とUHCの達成に向けて取り組んでいく。