分子シャトル運動の従来理論予測と実験結果との不一致原因を解明 岐阜大学

生体分子モーターを利用したデバイス開発への活用に期待

 岐阜大学工学部の新田高洋准教授らの研究グループは、分子シャトル運動における従来の理論予測と実験結果との不一致の原因を解明した。
 同研究から得られた知見は、分子シャトルを利用したデバイスの設計に役立ち、高性能なデバイス開発への活用が期待される。
 これらの研究成果は、23日(日本時間)にScientific Reports誌のオンライン版で発表された。
 細胞内には、力発生や物質輸送を担う分子機械(生体分子モーターが存在する。生体分子モーターは、生体内に存在するタンパク質の一種で、筋肉の収縮などを担うミオシン、細胞内物質輸送などを担うキネシンなどがある。アデノシン三リン酸という物質を分解するときに得られるエネルギーを利用して、力発生や運動を行う。
 近年、この生体分子モーターを細胞外に取り出しての工学利用が目指されている。中でも生体分子モーターによって駆動される分子シャトルは、マイクロスケールでの物質輸送や計算などへの応用が試みられている。

図1 分子シャトルの概念図


 生体分子モーター・キネシンは、細胞内に存在する分子スケールの機械で、同じく細胞内に存在するタンパク質フィラメントである微小管の上を、人が二足歩行するように運動する。
 このキネシンと微小管を細胞外に取り出して、分子シャトルをつくることができる(図1)。同分子シャトルの利用により、物質輸送や計算を行わせることが試みられている。

図2 外力下での分子シャトル運動のシミュレーション


 これらのデバイスの性能を左右する重要な因子は、分子シャトルの運動方向の揺らぎである。この方向揺らぎについての理論予測が行われているが、実験による測定結果と50倍程度の違いがある。
 そこで、新田氏らの研究グループは、シミュレーションを用いて、外力下での分子シャトル運動を再現した(図2)。分子シャトルの各部分の方向揺らぎを計測すると、両端から1~2μm程度の部分が大きく揺らいでいることがわかった(図3)。
 これは、微小管上でのキネシンの結合間隔よりも長く、キネシンが結合している微小管部分も揺らいでいることを示している(図4)。

図3 分子シャトルの角度揺らぎ
図4 分子シャトル運動の模式図


 この研究結果は、従来の理論の仮定とは異なり、分子シャトルの運動方向を考慮する際にキネシンの柔軟性を無視できないことを示している。同研究により、理論予測と実験結果の不一致は、理論では考慮されていなかった生体分子モーター・キネシンの柔軟性を考慮すれば解決できることが示され、分子シャトル運動の詳細なメカニズムが明らかとなった。
 これにより、分子シャトル運動のより正確な予測や制御を可能にし、生体分子モーターを利用したデバイス開発への寄与が期待できる。

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