千葉大学病院内に産学連携の「ヒト粘膜ワクチン学部門」設置 塩野義製薬

新型コロナ等の粘膜ワクチン研究開発を推進

左から木山竜一塩野義製薬医薬研究本部長、手代木社長、中山学長、横手幸太郎千葉大学病院長、中島裕史千葉大学大学院医学研究院教授 

 塩野義製薬と千葉大学は10日、東京都内で記者会見を開き、千葉大学病院内に共同研究を目的とした「ヒト粘膜ワクチン学部門」を設置し、本年4月より始動すると発表した。
 同部門の設置は、塩野義製薬と千葉大学病院が締結した「粘膜免疫誘導型ワクチンの研究開発を推進する共同研究部門設置に関する契約」に基づくもの。部門長には清野宏未来医療教育研究機構特任教授が就任する。
 設置期間は5年(予定)で、千葉大学(22名)と塩野義製薬(複数名)のスタッフが、呼吸器粘膜免疫の理解による経鼻・噴霧・経肺型ワクチンの研究開発を推進する。経鼻ワクチンの対象疾患は、新型コロナウイルス、インフルエンザ、肺炎球菌。新型コロナ経鼻ワクチンは、2022年度内に臨床入りする。
 新型コロナウイルス感染症やインフルエンザなどの呼吸器感染症に対する予防ワクチンには、病原体に感染した後の発症予防、重症化予防だけでなく、病原体の感染そのものを防御する効果も必要とされる。
 ヒト粘膜ワクチン学部門では、特に、病原体への感染を防ぐために重要な役割を果たす、鼻腔や喉などにおける粘膜免疫を効率的に誘導できる粘膜ワクチンの研究開発に取り組む。
 ワクチン接種は注射による接種が一般的だが、感染防御において重要な働きを果たす粘膜免疫を誘導するためには、経鼻投与ワクチンの使用が効果的だと考えられている。
 その一方で、経鼻投与のワクチンには、鼻腔内への投与量と体内への吸収量との相関や、噴霧の方法による粘膜免疫の誘導効率に対する影響が明らかにされていない。
 こうした課題を解決するには、産学連携による非臨床研究と臨床研究のブリッジング研究が不可欠となる。そこで、臨床研究に応用可能なコロナワクチンセンターを有する千葉大学病院と、感染症領域の研究開発・製剤化技術に強みを持つ塩野義製薬が連携し、経鼻投与ワクチンの抱える課題解決を目指す。
 会見では、手代木功塩野義製薬社長が、「現時点では、筋肉注射でのワクチン接種が先行しているが、塩野義製薬ではより簡便で痛みが伴わない粘膜免疫を用いる方法も取り入れていく」考えを強調。
 その上で、「ヒト粘膜ワクチン分野において日本で最も研究成果の優れた千葉大学との共同研究をめていくことになった」とこでまでの経緯を説明し、「千葉大学との産学連携により、有効な感染予防策を提供してグローバルヘルスに貢献したい」訴えかけた。
 一方、千葉大学のワクチン新時代に向けた戦略には、①経鼻ワクチン (P1)、粘膜ワクチン (P2)研究開発の産学連携、②米国 UCSDなど海外臨床研究機関との連携によるワクチン開発・治験・臨床試験推進体制、③グローバルなワクチン学専門家集団の育成・継続的輩出ーがある。
 さらに、「千葉大学病院コロナワクチンセンター」、呼吸器粘膜免疫の未来型ワクチンを研究する「千葉大学医学研究院」、消化器粘膜免疫の未来型ワクチンを研究するUCSDメディカルセンターを結んで「未来粘膜ワクチン研究開発拠点」を構築。産学協業と日米研究開発推進体制を駆使したグローバルな研究環境でのワクチンシーズ持続的創出と安定供給体制構築への研究開発を進めている。
 中山俊憲千葉大学長は、「研究力、国際ネットワーク力などの千葉大学の強みを生かして、千葉大学附属病院の中に塩野義製薬との研究拠点を構築した。新しい世代の粘膜ワクチンを国民に届けるための研究成果を発信していきたい」と抱負を述べた。
 清野宏特任教授は、「新型コロナウイルスなど呼吸器感染症を引き起こす病原体は鼻咽頭(鼻・のど)に始まる呼吸器の粘膜から侵入し、肺炎など重篤な症状を発症する」と説明し、「侵入口である粘膜に抗体をつければ感染・伝搬を阻止できる」と強調。
 その上で、粘膜ワクチンの有用性について「注射ワクチンは、体の中に免疫をつけ重症化を抑制する。これに対して粘膜ワクチンは、ウイルスの呼吸器粘膜からの侵入・伝搬阻止と、体の中に免疫をつけて重症化を抑制する2つの役割を有している」と解説した。

清野氏


 清野氏は、経鼻ワクチンデリバリーシステムの開発にも言及し、「カチオン化ナノゲルを用いた経鼻ワクチンは、鼻腔粘膜にワクチン抗原が付着し、長時間保持する」と報告。
 経鼻ワクチンとPCR検査の関係性についても、「経鼻ワクチンの投与により、分泌型IgGでコーティングされたウイルスが鼻中に排出される。そのためにPCRの陽性率が低下する可能性を指摘する声もある」と紹介した。
 さらに、「PCR検査は、ウイルスそのものよりも遺伝子を増幅しているので、本当に陽性率が下がるかどうかは、今後、それを踏まえた動物実験を行ったり、千葉大学病院コロナワクチンセンターと連携した臨床試験を実施しながら研究開発を進めて行く」考えを示した。

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