静脈を活用したコロナ陰性・ワクチン接種歴デジタルヘルス証明の共同実証開始  電通や鹿島建設、日立製作所など

簡便さと証明書の偽造や他者のなりすまし防止

 電通や鹿島建設、日立製作所などの5社は21日、新型コロナウイルス感染症の検査結果やワクチン接種履歴を静脈を活用した公開型生体認証技術PBIを用いて認証する共同実証を開始したと発表した。
 9月27日〜10月6日までの実証では、技術面および運用面での有効性が確認された。次回の実証では、デジタル庁が推進するVRS(Vaccination Record System:ワクチン接種記録システム)のワクチン接種履歴とのデータ連携や、国際標準「スマートヘルスカード」に準拠したデータ仕様の実装を予定している
 紙やスマートデバイスを使わず手ぶらで提示できる新たなデジタルヘルス証明の実現に向けた共同実証により、With&Beyondコロナ時代における安心空間の実現を目指す。
 共同実証に参画しているのは、鹿島建設、日立製作所、H.U.グループホールディングス、九州大学、電通。
 9月27日〜10月6日には鹿島が所有する「赤坂Kタワー」(東京都港区)にて、実証への協力に同意した同社の従業員を対象に、ワクチン接種履歴などの事前登録から検査の実施、デジタルヘルス証明発行、オフィス入館までの一連の技術検証を実施した。
 今後、オフィスなど建物内での実装に向けた準備を進めるとともに鹿島の建設現場などにおいても共同実証を行う予定だ。

デジタルヘルス証明と生体認証技術を活用した入室管理


 日本国内でもワクチン接種や検査が普及し、同接種歴や陰性証明を活用した行動制限の緩和が模索されている中、ワクチン接種履歴および陰性証明のデジタル表示(デジタルヘルス証明)を活用した安心空間を実現する仕組みが求められている。
 その一方で、現在の新型コロナワクチン接種証明書はほとんどが紙媒体のみの発行であり、証明書の偽造や他者へのなりすましなどのリスクが指摘されている。
 また、感染の有無を調べる検査についても、機器や手法などの違いから検査精度にバラつきが生じることが課題として報告されている。今回の技術実証では、個人情報保護に配慮した利便性の高い新たなデジタルヘルス証明の実現に向け、技術面および運用面での有効性が確認された。
 実証では、対象の従業員がPHR(Personal Health Record)アプリ「ウィズウェルネス」をダウンロードし、検査予約やワクチン接種履歴の登録を行う。
 陰性証明は検査結果と九州大学病院の医師が診療業務支援システム「医’sアシスト(イーズアシスト)」で行う事前問診で総合判定し、「ウィズウェルネス」に診断結果を通知することで、デジタルヘルス証明として発行される。
 また、参加者の同意を得たのち、日立の非接触型指静脈認証装置C-1で指静脈の情報を事前登録し、「ウィズウェルネス」で管理されている情報と連携する。
 これにより入室時は、指を装置にかざすだけで認証が可能となり、紙やスマートデバイスによる本人確認や証明書の提示は不要となる。


 今回実証する生体認証技術を活用したデジタルヘルス証明は次の3つの特長を有する。

(1) 公開型生体認証技術PBI活用により、利便性と信頼性(個人情報保護)を両立した本人認証

・偽造・改ざんやなりすましが難しい生体情報(指静脈)を採用。紙の証明書やスマートデバイスの提示を必要とせず、指を装置にかざすだけで本人を認証。

・個人情報である証明書は、第三者による管理ではなく、個人の自己主権のもとで管理が可能。明確な本人の同意・意思に基づいて証明書を開示する仕組み。

・生体情報は復元できない形に変換して登録・認証。生体情報そのものは都度削除し、どこにも保管しないため、個人情報を保護。

(2)新型コロナウイルス検査2種類を組み合わせた陰性証明

・空港検疫などで利用されている抗原定量検査とPCR検査の組み合わせを採用。抗原定量検査の結果が判定保留などの場合はPCR検査を実施。

(3) 診療業務支援システムを活用し、医師の総合判定から証明発行までをデジタル化

・H.U.グループホールディングスが提供する「医’sアシスト」を用いて、医師が遠隔で検査結果を総合判定し、データ連携している「ウィズウェルネス」へ検査結果を通知すると同時にデジタルヘルス証明を発行。

 9月27日〜10月6日に実施した赤坂Kタワーでの同実証では、一連のオペレーションを検証し、技術面および運用面での有効性が確認された。

実証の様子
事前準備:デジタルヘルス証明発行および公開型生体認証技術PBI登録
入室時のオペレーション

次回の実証では、デジタル庁が推進するVRSのワクチン接種履歴とのデータ連携や、国際標準「スマートヘルスカード」に準拠したデータ仕様の実装を実施する。
 また、オフィスビル以外の場所(学校・病院・イベントホール・レストラン・観光地・建設現場)など対象範囲を広げるべく検討していく。
 なお、今回の結果と今後の実証をもとに、With&Beyondコロナ社会において安心な空間を実現するためのデジタルヘルス証明playbookを策定する予定でだ。
 実証における各社の役割と目的は、次の通り。

◆鹿島建設:建物・施設の安心空間を創出する新たな付加価値サービスの実現、実証場所の提供。With&Beyondコロナ社会におけるデジタルヘルス証明を活用した建物・施設の安心空間の構築と運営に関する知見を得る。
 取得したデータと鹿島が有する他の技術を組み合わせて、より高度なソリューションの確立を推進する。

◆日立製作所:PBI技術および指静脈認証装置C-1の提供。個人固有の情報を本人の意思のもとで活用する「自己主権型アイデンティティ管理」は、DFFT (Data Free Flow with Trust:信頼ある自由なデータ流通)を実現する上での重要なコンセプトになっている。
 今回の取り組みは、その有力なユースケースの一つと捉えており、生体認証と暗号技術の活用により、個人端末に依存せずデジタルに自己証明ができることの価値を検証し、本実証で得られた知見や課題をもとに、PBIの利用シーンの多様化、展開強化を図っていく。

◆H.U.グループホールディングス:国内最大規模の臨床検査関連会社として、抗原定量検査(判定保留などの場合はPCR検査)の実施を通じた臨床検査の実施と、デジタルヘルス証明発行のために診療業務支援システム「医’sアシスト」およびPHR「ウィズウェルネス」を提供。
 新型コロナウイルス感染症対策のノウハウ・知見とヘルスケアICTサービスの融合を推進する。

◆九州大学:電通との次世代医療データプラットフォーム連携協定の一環として参画。「医師による陰性証明」をオンラインで問診・判定を実施する。

◆電通:生活者視点からのデジタルヘルス証明のUXD(ユーザーエクスペリエンスデザイン)設計と一連のソリューションの全体企画と運営を行い、九州大学と推進するPHR構築のコアコンテンツとしてデジタルヘルス証明の社会実装を推進する。

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