うつ病患者の社会復帰では「自分自身を客観視できるようになる」のが重要ポイント  武田薬品とルンドベック・ジャパンがオンラインセミナー

 うつ病患者の社会復帰は、症状の改善と供に「患者が自分自身を客観視できるようになる」のが重要な指標となる。加えて、患者本人の努力や主治医の支援は勿論、それ以上に周囲の適切な協力が大きなポイントになることが、「うつ病からの社会復帰に向けて考えるべきこととは」をテーマとした武田薬品とルンドベック・ジャパン共催のオンラインメディアセミナーで確認された。
 うつ病は、一進一退を繰り返しながら時間をかけて回復し、寛解に至っても6割の患者が再発するなど、回復の判断の見極めが非常に難しい疾患だ。
 特に、現役世代では、日本企業の9.2%がメンタルヘルスの不調により休職した従業員を抱えるといわれ、メンタルヘルスの不調を抱える患者の社会復帰を適切に支援することは日本社会全体にとって大きな課題となっている。
 長引く休業期間に焦って復帰過程で出勤して悪化したり、出勤できても仕事が手につかないプレゼンティーズムの問題もあり、社会復帰のタイミングをどう判断するかは多角的な検討が求められている。
 こうした中開催された同オンラインメディアセミナーでは、石郷岡純氏(CNS 薬理研究所主幹/医療法人石郷岡病院理事長)が、「患者と医師のうつ病の症状、治療への期待、社会機能に関する共同調査研究」結果を報告した。続いて、林晋吾氏(ベータトリップ 代表)が、自らのうつ病から社会復帰した成功事例に際して直面した課題や回復に至ったポイントを紹介。野崎卓朗氏(産業医科大学 産業精神保健学研究室 非常勤助教/産業医)は、産業医の立場から「うつ病患者の社会復帰における重要点」を解説した。

石郷岡氏


 石郷岡氏によれば、患者と医師のうつ病に関する共同調査研究結果では、「気分症状、身体症状、認知症状のいずれにおいても、現在の症状に対する認識に患者と医師の間で全体として大きな違いが見られなかった」
 さらに、「医師は患者に比べて全ての病期において患者の社会機能を低く評価した」、「治療へ期待することは、医師は患者に比べて軽症期、軽快期で‟元の生活に戻れるようにする点”を考える割合が高く、患者は‟副作用が起きない点”を期待する割合が高かった」
 石郷岡氏は、これらの結果を総合して「全ての病期において医師は患者よりも患者の社会機能を低く評価したことから、患者が自身の社会機能を楽観的に楽観的に捉えている可能性が示唆された」と明言。
 その上で、「うつ病患者の社会復帰では‟症状の改善”が大前提で、機能の回復はそれよりも遅れる現実を知ってもらう必要がある」と強調した。さらに、「うつ病におけるどのパフォーマンスが社会復帰に際して問題かは、患者個々によって異なる。うつ病の原因は、一律に対処できないものの、そこを解明することで治療の道筋が開けてくる」と力説した。

林氏


 林氏は、うつ病で会社を離職してから起業してビジネスで成功した自らの経験をもとに、社会復帰に際して直面した課題として、「自分の状態を把握できていなかった」、「自分の考え方や行動のクセと向き合っていなかった」、「食事や睡眠など、日常生活が整っていなかった」を紹介。「社会復帰に際して、これらの課題が要因となって対応が遅れたり、再発を繰り返した」と振り返った。
 さらに、社会復帰できたポイントとして、「私のことを期待しつつ、ゆっくり待ってくれている人達がいた」、「出来事を客観的に振り返ったり、自分と向き合うことを続けた」、「日常生活を整えたり、身体の負担にも気を配るようになった」を挙げた。

野崎氏


 野崎氏は、まず、「体調が良くなった=社会に復帰できると考え、職場に戻るが体調が元に戻っただけでは、殆どがうつ病を再発している」現実を強調。
 その上で、うつ病の再発原因として「本人のライフスタイル」、「価値観・物の考え方に対する偏り」、「性格」を指摘し、「復帰して継続するには、これらを変える、もしくはより良い方向に向けていかねばならない」と断言した。
 そのためには、「かなりのエネルギーを使い、自分自身に向き合う辛い作業が伴うので、回りの支援も不可欠となる」との考えを示し、「可能性を信じてやればできる」と呼びかけた。
 また、うつ病患者が社会復帰する仕組みでは、「生活習慣がしっかり整う」、「自分の体調を確認する」、「どうしたら再発を防止できるのか自己と向き合って対策していく」の3点について患者が時間をかけて実践し、周囲が期待して支援していく環境作りの重要性を訴えかけた。

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