京都薬科大学の赤路教授らの研究グループは6日、Preferred Networks(PFN、本社:東京都)との共同研究で、新型コロナウイルス感染症治療薬のリード化合物を発見したとはppyプした。同共同研究により、AI技術を取り入れた医薬品探索研究法を開発するとともに、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の増殖に必須の酵素(メインプロテアーゼ)を阻害できる有望なリード化合物を創出したもの。
プロテアーゼは、タンパク質を加水分解する酵素の総称で、新型コロナウイルスの増殖には3CLプロテアーゼと呼ばれる独自のプロテアーゼが大きく関わることがわかっている。
同成果は、新型コロナウイルス感染症の治療薬のみならず、あらゆる医薬品開発の加速化への寄与が期待される。
京都薬科大学では、新興感染症の一種である重症呼吸器症候群(SARS: severe acute respiratory syndrome)治療薬開発を目指した基礎研究を継続して行ってきた。これまでに、SARS原因ウイルスの増殖に必須の酵素機能を阻害できるペプチド型化合物や非ペプチド型環状化合物の創製に成功している。
こうした基礎研究をPFNが開発した深層学習技術に基づくAI創薬技術と融合させることで、新型コロナウイルスの増殖に必須なメインプロテアーゼを阻害するリード化合物を創出した。
創薬には一般的に基礎研究から製造・販売まで10年以上の時間と、数百億円以上の莫大な費用を要する。さらに、その成功率はわずか2万分の1以下と言われており、開発期間の長期化と費用の増大が大きな課題となっている。
AI創薬とよばれる技術では、これまで研究者の知見に大きく依存してきた医薬品探索研究に深層学習技術と大規模な計算資源を投入する。これにより、候補物質の探索や分子設計などの医薬品開発工程を大幅に短縮するとともに、人間が発想できない新しい分子構造の提案ができると期待されている。
今回のPFNとの共同研究では、これまでに京都薬科大学で蓄積してきたSARSコロナウイルス増殖阻害剤の基礎研究成果をAI創薬手法と融合させることで、きわめて短期間のうちに画期的な新しい構造を持ったリード化合物の創製に成功した。
この研究成果は、大学での基礎研究成果がAI創薬による化合物設計方針に高い実現可能性を与えるとともに、コンピューターが設計した化合物の薬としての合理性評価に極めて有効に働いた結果といえる。
実際には、PFNのAI創薬技術とプライベートスーパーコンピュータMN-2によって提案された複数の化合物のうち、13化合物を京都薬科大学で合成しそれらの活性評価を行った結果、7化合物で新型コロナウイルスのメインプロテアーゼの活性を阻害する作用を確認した。このような少数の厳選された候補化合物からきわめて短期間のうちに有望なリード化合物に到達することができたのは、有効な基礎研究の蓄積と最新のAI創薬手法の融合が新たな医薬品開発手法に成り得ることを明確に示している。
京都薬科大学では、今後もこうした最新の手法に貢献できる基礎研究を継続するとともに創薬基礎研究の実用化に向けた共同研究を加速させていく。