縁起物をテーマにラッキーアイテムを独自にアレンジしたモチーフを描く奥寺正美氏は、東京・葛飾柴又出身の新鋭女性美術家だ。
病院の壁などに絵を描いて、患者やその家族の精神を和ませるホスピタルアート展示や、老人ホームでのぬり絵教室で活躍するなど、医療分野にも造詣が深い。
医療分野への繋がりは、奥寺氏の絵画から溢れ出る‟気持ちを和ませてくれる温かみ”と‟幸運を運んでくれそうな期待”を感じる不思議な力によるところが大きい。
近年、わが国においてもホスピタルアートを積極的に取り入れている医療機関は多く、入院病棟では、鎮静薬の使用量が減り、回復が早くなったという報告もある。
一方、老人ホームでのぬり絵教室は、奥寺氏の作品の下絵を簡略化させた画材に入居者が着色していくもので、参加者の楽しみとともに、ぬり絵の継続による認知症の予防効果も期待されている。
こうした中、奥寺氏は、2度目の個展を、8月11日~15日まで阪神百貨店(大阪市北区)7階阪神美術画廊で、「奥寺正美絵画展ー幸せな絵合せー」をテーマに開催した。
今回の展示では、干支を題材とした新作や、関西の縁起物などおよそ30点がお披露目され、コロナ禍で沈みがちな閲覧者の気持ちを高揚させた。
作品コンセプトについて奥寺氏は、「私は、縁起物をテーマに、モチーフを別の何かに見立てたり、言葉遊びやだまし絵のような要素を取り入れています」と説明する。
その上で、「一見、全く関係のないモチーフの組み合わせに見えますが、言葉や形状が親しいことで作品を校正しています。このモチーフ同士にはどのような繋がりがあるのか謎解きながら作品を楽しんでいただければ幸いです」と訴求する。
今回のGalaxy Galleryシリーズー干支ーは、東洋の干支の星の配置が12星座(黄道十二宮)の星の配置に当たることをバックグラウンドに作成されたもの。
令和元年、奈良のキトラ遺跡の四神や十二支の壁画が国宝に指定された。日本を含めたアジアの諸国では「干支」を時間や方角に対応している他に占いとしても用いられた。天体の運行の法則は、農作物の収穫には欠かせないものであった。宇宙と自然の流れからそれぞれの動物たちの特徴に置き代っている。
奥寺氏は、「今回は、現代的にアレンジした干支と動植物の名前から由来された組み合わせをお楽しみください」と話す。
一方、関西の有名な縁起物の一つに、和歌山の熊野神社、京都の下鴨神社でお祀りされている「八咫烏」(ヤタガラス)がある。その八咫烏を描いたのが、「higher self bless breath」だ。
また、日本の九頭龍神伝説はたくさんあるが、その中でも最も多い伝説は、「嵐や毒を撒き、高僧が龍を懲らしめ、現れた場所を守護する善龍になる」という話だ。
特に、奈良の平城京の九頭龍伝説は、天然痘の元となる鬼を喰らうと木簡 に記述されている。人類が唯一克服したウィルスは、天然痘である。
また、アーキタイプシンボル研究文庫によれば、ドラゴンは天地創造と終末と結びついている。多くの神話では、世界の秩序はドラゴンを倒した後に生じるとされている。同様にドラゴンの力の復活が宇宙的状態への回帰を示すという。
龍は、四神(朱雀、白虎、青龍、玄武)の中では東西南北の「東」、四季では「春」を意味する。中国では秋になると淵の中に潜み、春には天に昇ると言われている。
「桜に龍 -draw dragon-」は、そのインスピレーションから桜を合わせた作品となっている。桜の全般的な花言葉は、「精神美」「優美な女性」「純潔」だ。
奥寺氏は、「精神美は、桜が日本の国花という位置づけから、日本国、そして日本人の品格を表すシンボルとして、美しさを託したではないでしょうか」と言ってほほ笑む。