感染症に特化した「グラムスキー薬局」開設による地域医療貢献を目指して 名古屋の薬剤師・瀧藤重道氏

瀧藤氏

名古屋市内の保険薬局で薬剤師をしている瀧藤重道氏は、感染症に特化した「グラムスキー薬局」開設による地域医療への貢献を目指している。同プロジェクトの立ち上げは、「新型コロナウイルス感染症の流行により、感染症治療のみではなく感染対策の重要性を認識した」ことに端を発する。
 感染症に特化した薬局作りは、普通に薬局を開くよりも個室や空調で初期費用がかかる。しかも、医療機関前の門前薬局ではなく、面で院外処方箋を応需するため、収支が安定するまで時間がかかることが予想されるため、その対策としてクラウドファンディングを実施している。そこで、瀧藤氏の感染症に特化した薬局作り構想を紹介したい。

 瀧藤氏は、感染症発症時の抗生物質の使い方に興味があり2013年から「グラム染色」検査を利用して細菌を推定し適切な抗生物質処方を医師へ提案する取り組みを行っており、特に、在宅医療現場での感染症治療に力を尽くしてきた。
 こうした中、新型コロナウイルス感染症の流行により、「感染症治療のみではなく感染対策の重要性を改めて認識した」と強調する瀧藤氏。その強い思いが「感染症に特化した薬局作り」のバックグラウンドとなっている。「グラムスキー薬局」のオープンは、11月~12月頃を予定している。

ブラッシュアップ中の店舗イメージ


 保険薬局が担うべき感染対策は、①薬局内で患者に感染症を起こさせない、②薬局職員が感染症患者から感染しない、③正しい感染症対策の情報を一般市民に提供するーの3点が挙げられる。
 これらを実行する為には、薬剤師の知識はもちろん、薬局の構造的な問題を解決する必要がある。今まで多くの薬局は、感染症対策に力を入れて来なかった。その理由は、消毒用エタノールなどの消毒薬やマスク、フェイスシールドなどの個人防護具、陰圧室の設置などの感染症対策に費用が掛かるからだ。また、待合室はそれほど広く作られておらず隔離することは困難である。
 コロナ禍において薬局業務に従事する瀧藤氏は、「このような状況を解決できる感染対策を専門とした薬局を作る必要がある」と強く感じるようになった。

 感染症に特化した“グラムスキー薬局”のプロジェクトの内容は、次の11項目を中心とする。
①個室での対応
 待合室での感染症の患者の待機は、患者同士、職員への感染が広がる危険がある。新しい取り組みとして、来局後感染症の有無に関わらず個室へ案内し、服薬指導、薬の譲渡から会計まで全て完結する流れを実現する。それは、感染対策のみならず今まであまり実施されてこなかったプライバシーの保護にも有効だ。

図:空気の流れイメージ

②空気の流れのデザイン
 主に新型コロナウイルス感染症対策として患者同士や職員が被爆しないようにする換気システムが必要になる。換気扇を各個室に設置して患者と接する環境の改善を図る。

③感染性疾患用個室の確保
 感染症が疑われる患者とそうでない患者を分ける。受付でトリアージしてすぐに専用の待合室、個室へ案内することで他の患者や職員への感染を防ぐ。

④オンライン服薬指導システムの導入
 感染症対策として医師のオンライン診療を受けた患者がオンライン服薬指導を利用することで接触機会を減らす。

⑤オンライン診療、漢方相談の案内

個室のイメージ


 ITツールが使いこなせず、医師の電話診療やオンライン診療の利用方法が分からない人も多くいる。そのような人に対しては、来局して貰い、個室で薬剤師が医師のオンライン診療につなぐサポートをする。
 発行された処方箋の薬はその場で渡すことで感染対策のとられた空間で診察から薬の譲渡まで完結させることが可能である。
 また、受診する医療機関がわからない患者には、オンライン診療可能な医師を紹介したり、漢方を使用した方が良いと薬剤師が思う場合は、漢方専門薬局へのオンライン漢方相談につなぐことを実施する。
 その際に薬剤師が同席し、患者の症状を伝えるサポートや医師の治療意図を共有し、適切な薬物治療の提案も行う。この取り組みには、△患者が自分で病院を探して受診する手間がなくなる、△オンライン診療、漢方相談に薬剤師が同席することで、患者が医師と薬剤師に同じ話をする必要がなく、3者間の認識間違いもなくなる、△より良い薬の処方が可能になるーの3つのメリットがある。

⑥清掃、消毒が容易な構造
 薬局では患者が嘔吐した際、次亜塩素酸ナトリウムで消毒する。床の材質に耐薬品性に優れた単層塩化ビニル長尺シートを採用して溶接施工することで清潔な環境を維持できるようにする。

⑦抗生物質適正使用の為のグラム染色スペースの確保
 現在、感染症対策が注目されているが、感染症の他の問題に抗生物質の使い過ぎによる薬剤耐性菌がある。薬剤耐性菌とは、抗生物質の使用に伴って細菌が変化し、特定の種類の抗生物質が効きにくくなる、または効かなくなることだ。
 薬剤耐性によって世界では年間およそ70万人が死亡している。このまま何の対策も講じなければ、2050年には1000万人が死亡すると予想され、がんの死亡者数を上回る。必要な時に必要な種類の抗生物質を使用する事が重要と言われている。
 瀧藤氏は、2013年からグラム染色の細菌検査を用いて、尿や痰、鼻水、目脂などを染色して感染症を惹起する細菌を推定することで医師へその細菌に合った抗生物質を提案するという取り組みを行ってきた。この取り組みは、医療関係メディアや中日新聞に取り上げられている。
 だが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い検体からの被爆を避けるために現在はほとんど実施していない。そこで、グラム染色を安全に行うために病原体検査用陰圧Box「DANTECT for Pt / Pt Plus」という作業者が検体から感染しない設備を導入する。

⑧風邪のセルフメディケーションでの煎じ漢方販売
 一般の方にはまだあまり知られていないが、風邪は症状が2日から14日以上持続するものの自分で治せる疾患である。治療は、基本的には十分な休養と栄養の取れた食事になる。
 そこに、漢方薬をうまく使えば早く治療することが可能となる。漢方薬は、煎じ薬といって生薬をお湯で煮出して成分を抽出しての服用が特に有効だが、市販はあまりされていない。
 同薬局では「タキザワ漢方廠」のパックされた漢方を採用し、効果の高い漢方で風邪のセルフメディケーションを後押しする。 

⑨海外渡航者への感染対策商品の販売
 コロナウイルスの影響で海外渡航が減少しているが、海外渡航には感染症の危険がある。特に蚊に刺されて感染するマラリア、デング熱、ジカ熱などはワクチンでは回避できないため、虫除けを使用する必要がある。
 日本では、1年中虫除け商品を販売しているところは少なく、海外渡航の感染症対策としての虫除けの専門的なアドバイスをできる施設も殆どないのが現状である。
 また、世界で推奨されているペルメトリンという虫除け薬品を染み込ませた衣類も日本ではあまり浸透しておらず、一般的な虫除けスプレーとの違いを説明して販売する必要がある。
 さらに、トラベルワクチン接種を行っている名鉄病院、金山ファミリークリニック、藤が丘オーキッドクリニックと連携し、虫除けが必要な地域へ渡航する人に同薬局を紹介してもらえるようにする。

⑩薬局から外部へ情報発信ツールとしてのデジタルサイネージの設置
 コロナウイルス感染症によって、生活の質の維持・向上のために健康や医療に関する情報を活用する能力としての「ヘルスリテラシー」の不足が問題となっている。
 インターネットやSNSなどで様々な情報に簡単にアクセスできる反面、それが正しい情報か分からないまま鵜呑みにしてしまう行動が多々見られた。その一つは、あまり有効ではないとされている次亜塩素酸水や空間除菌の流行である。
 薬局は、正しい医療情報の発信を担う施設である。同薬局では、外壁にデジタルサイネージを設置し、通行者に向けて信頼できる情報を発信する。

⑪郵送検査キットの販売
 感染症の早期発見のために、HIV、B型肝炎、C型肝炎、梅毒、クラミジア、淋菌などの検査を患者自身で自宅で血液、尿などを採取して郵送して、検査ができるようにする。
 なかなか病院に行けない人が検査を受けやすくするのが目的だ。

 プロジェクトの展望・ビジョンとして、感染症対策を整えた薬局のスタンダードモデルを築き、その必要性を発信する。2002年に重症急性呼吸器症候群(SARS)、2012年に中等呼吸器症候群(MERS)、などが流行した。新型コロナウイルスは、ワクチンの普及により収束を迎えるかもしれないが、今後も新たな感染症が突然起こる可能性は否定できない。
 また、もともと冬にはインフルエンザやノロウイルスなどの感染症が流行する。
 瀧藤氏は、「多くの感染症に対応できる構造、知識、医薬品を備えた薬局を作りたい」と力強く抱負を語る。
 その一方で、感染症に特化した薬局の開設は、普通に薬局を開くよりも個室や空調の設置で初期費用がかかり、門前ではなく面で処方箋を応需するため、収支が安定するまで時間がかかることが予想される。瀧藤氏は、その対策としてクラウドファンディングを実施している。
 クラウドファンディングの目標金額は、300万円で、目標金額を達成した場合のみ、実行者は集まった支援金を受け取ることができる(All-or-Nothing方式)。支援募集は8月16日(月)午後11:00まで。「グラムスキー薬局」開設のクラウドファンディングは、 https://readyfor.jp/projects/gramski から応募できる。
 最期に瀧藤氏は、「このプロジェクトを成功させることは調剤報酬の削減や調剤薬局数の削減など暗い話題が多い開局薬剤師を取り巻く現況に風穴を空けることができると感じている」と断言。その上で、「現在、学生である若者達に希望ある未来を見せたいと思ってさらに頑張っていく所存である」と意気込んだ。

タイトルとURLをコピーしました