医療従事者13名で形成する熱中症・脱水症の啓発団体の教えて!「かくれ脱水」委員会は、熱中症シーズンに向けて「熱中症の死亡・後遺症リスクは、例年よりも高い」と提言した。
コロナ禍も2年目に突入し、依然、新型コロナウイルスの感染予防対策をしながらの生活を強いられている。こうした中、気温上昇とともに、また、感染症予防と併行して熱中症予防を意識しなくてはならない夏がやってくる。
特に、コロナ禍も2年目に突入した今年は、長引く自粛生活で身体の中の水分を蓄える器官でもある筋肉が衰えて、より脱水症・熱中症にかかりやすくなっている人も多いと推測される。また、今年の夏は自粛疲れや慣れにより、外出者が昨年よりも増える可能性がある。
新型コロナ対応に追われる医療機関になるべく負担をかけないよう、各人における熱中症予防リテラシーを高め、予防に努めるべきだ。
万が一、熱中症になってしまった時の対処法を身に着けておかねば、搬送先のキャパシティが十分でないパンデミック時は、一刻を争う熱中症への処置が遅れ、死亡に至る可能性、後遺症が残ってしまう可能性が高まる。
すべての人が、熱中症の応急処置を把握しておくことで、新型コロナ感染症よりも多い熱中症での死者減が期待できる。
そこで、「教えて!『かくれ脱水』委員会」副委員長の谷口英喜氏(済生会横浜市東部病院 患者支援センター長/周術期支援センター長/栄養部部長)が、熱中症で救急搬送されないために知っておくべき応急処置を紹介した。
新型コロナウイルス感染症と熱中症の症状は区別がつきづらい。ゆえに、新型コロナウイルス感染が疑われるだけで、受け入れ側は新型コロナ感染者を受け入れる体制を整える必要がある。(防護服着用など)
また、それは、“なかなか搬送先が見つからない”という事態を招き、熱中症を重症化させてしまう確率も高まる。
熱中症は、いかに素早く正しい処置をするかが、死亡せずに済むか、後遺症が残らないかの分かれ目です。だが、今年は新型コロナウイルス感染症患者の受け入れが相次ぎ、搬送できる病院の空きがなく長時間、長い場合は1日以上待たされ、挙句受け入れ先がないケースもあり得る。
熱中症が重症化してしまった状態ですぐに救急処置がなされなければ、死亡率も、脳機能障害などの後遺症が残るリスクもぐっと高まってしまう。
熱中症の症状(発熱・過呼吸など)は、新型コロナウイルス感染症の症状と非常によく似ている。理由がわからず高熱が出ている場合は新型コロナウイルス感染症を疑い、感染者の搬送として扱われ、一刻を争う熱中症の処置が遅れてしまうリスクにつながる。
暑熱環境にいた、水分をとっていない等、熱中症であることがほぼ確実である場合は、救急担当者に必ず「熱中症になる環境だったので熱中症だと思われる」と伝えよう。そうすることで、医師の判断への負担軽減につながる。
◆熱中症で救急搬送されないために備えておくべき物
①部屋にエアコンを設置しておく
熱中症になった時には身体を急激に冷やす必要があるので、扇風機だけだと対策として脆弱です。エアコンが故障していないか、今すぐに試運転をして、問題がある場合は修理、買い替え、清掃など、適切な対処をしておこう。
②氷嚢
(保冷剤、ビニールパックに水を入れて凍らせる、ペットボトルを凍らせるなどでも可)
熱中症になってしまった際、身体の太い血管が走っている箇所を急激に冷やすことで重症化を防ぐことができる。冷凍庫に最低6つの氷嚢(ないしは氷嚢として使用できるもの)を常に凍らせておくとよい。おでこを冷やしても体温を低下させる効果は少ないので注意を要する。
③経口補水液
熱中症は「脱水症」により汗がかけず、身体を自力で冷やすことができずに「高体温」になってしまう症状である。
経口補水液とは、脱水を起こした際に必要になる水と電解質(塩分・糖分・カリウム)が、小腸から効率よく吸収される濃度で配合された飲料である。
経口補水液を用いて即座に脱水症を緩和することを「経口補水療法」と呼び、WHO(世界保健機構)においても推奨されている処置である。
お茶や真水だと吸収されづらく、スポーツドリンクは糖分が多めで吸収に負担がかかる場合がある。夏は必ず、冷蔵庫に経口補水液を数本冷やしておこう。
熱中症かな? と思ったときの対処法
熱中症の症状:めまい・湿疹・筋肉痛・筋肉の硬直・大量の発汗・頭痛・不快感・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感・意識障害・けいれん・手足の運動障害・高体温
熱中症を疑った際は、意識があるかを確認してほしい。意識がない場合は、とにかくすぐに救急車を呼び、電話口で「熱中症の疑いがある」と伝えよう。
意識がない場合(救急車を呼んでから)もある場合も、まず第一に、涼しいところに行き、身体を冷やすのが先決である。冷房のかかった屋内、難しい場合は風通しの良い日陰など、とにかく涼しい場所に移動する。
氷嚢やペットボトルなどよく冷えたものがあれば、イラストの箇所(図1、首の頸動脈、わきの下、太ももの付け根。血流を冷やすため、太い血管の箇所を冷やす)を冷やそう。
脱水状態で汗をかけていない場合もありますが、汗をかいている場合は気化により体温を冷やすことに役立っているので汗はふかないようにしよう。
冷却すべき箇所
次に、次の「3トル」をすぐさま行おう。
1)周囲の人と距離をトル
少なくとも2m以上、できる限り人と離れる、離す。
2)マスクをトル(マスクは喉の渇きに気づきづらく、呼吸しづらい)
熱中症を疑うときは、処置をしている人は必ずマスクをして感染に気を付けつつ、本人のマスクをまずは外そう。
3)経口補水液をトル
脱水時はお茶や真水よりも『経口補水液』を摂取する。他の水分でも飲ませないよりは良い場合もあるが、もしも食事を摂っていないなど塩分が不足している状況で真水やお茶などナトリウム(塩分)が入っていない飲み物を飲ませてしまうと低ナトリウム血症という危険な症状を招く場合があるので、少なくともスポーツドリンクなど、塩分を含むものにしよう。
ペットボトルを渡して本人が自分でキャップをあけられる場合は、飲みたいだけ経口補水液を飲ませよう。自分でキャップがあけられないほどに朦朧としている場合は、誤って水分が気道に流れ込む可能性があるため無理に飲ませず、すぐに救急車を呼び、身体を冷やし、マスクを取り、待機する。
「吐き気を訴える」または「吐く」という症状がある時も飲料は強制的に飲ませずに、医療機関への搬送を最優先にする。
意識があり、経口補水液を飲める状態で飲ませてみて状態が回復(体温が下がる、体調がよくなる)した場合は、救急搬送をしなくても大丈夫である。
頭痛や足のつり、ふらふらするなど、熱中症の症状とも新型コロナ感染症の症状ともとれる症状が出た際は脱水症をおこしている場合もある。経口補水液を飲んで改善したら一安心して良いだろう。ただし、咳や発熱、呼吸苦などの肺炎症状が残るようであるならば病院に行くようにしよう。
また、心臓病や腎臓病などの基礎疾患がある人も、回復してもかかりつけ医を受診することを推奨する。万が一症状が悪化する場合には、すぐに救急車を呼ぼう。
症状と応急処置を正しく知るだけで、救急隊員、医療機関の負担を軽減できるので、すべての人がこの知識を持っておいてほしい。
コロナ禍の身体は、脱水症・熱中症に弱くなっている。一人ひとりが、正しい対策をすれば100%近く予防できるのが熱中症だ。一人ひとりの熱中症予防、正しい応急処置が、医療の現場を守ると心得てほしい。