がん悪液質治療薬エドルミズによるがんサポーティブケアに期待  小野薬品メディアセミナー

高山氏

 小野薬品は7日、メディアセミナーを開催し、髙山浩一氏(京都府立医科大学 呼吸器内科学教授)が、「がん悪液質治療薬の登場で変わる、がんサポーティブケア」をテーマに講演。がん悪液質の病態や、がん悪液質初の治療薬であるグレリン様作用薬「エドルミズ」の有用性・安全性について解説した。
 がん悪液質は、がんに伴う体重減少(特に筋肉量の減少)や食欲不振を特徴とする複合的な代謝異常症候群で、がん患者の 50〜80%に認められ、患者の生活の質(QOL)や予後などに対して顕著な影響を及ぼしている。だが、これまでがん悪液質に有効な治療手段は確立されていない。
 講演の中で高山氏は、まず、「がん治療とがんサポーティブケア(指示医療)は車の両輪で、がん治療にはこの両輪は欠かせない」と述べ、指示医療の重要性を強調した。
 悪液質の中心は、“体重減少”で、体重減少が起こり易いがん種と、そうでないがん種がある。体重減少率は、膵がん、胃・食道がん、頭頚部癌、肺がんの順に高い。消化器がんは、早い段階で体重が減少し、肺がんは徐々に体重が減っていく特徴がある。
 悪液質の有病率もこの順で高く、がん種ごとの体重減少と悪液質の有病率は一致している。これらのがん種の患者では、半分以上が悪液質を惹起している。
 がん患者の主な直接の死因は、「どこかの臓器不全で亡くなる症例が2/3」、「悪液質による死亡は1/4(23%)」を占めている。
 がん悪液質による生命予後の悪化は、 2010年1月~2011年8月の間に初回化学療法を受け,継続的に試験に参加した進行性非小細胞肺がん患者(病期:Ⅲ期/Ⅳ期,組織学的/細胞学的所見の根拠あり)の臨床データでも明確に示されている。
 ダイエット(飢餓、栄養摂取量不良)による体重減少と、がん悪液質による体重減少の大きな違いは、ダイエットは、エネルギーの消費量を減少させて骨格筋を減らさないように減量している。
 これに対して、がん悪液質は、エネルギーの消費量が増えて脂肪が減少し、骨格筋まで分解してしまう。
 がんは「治癒しない傷」と言われており、「傷による慢性の炎症で炎症性サイトカイン(IL-1、IL-6、TNF-αなど)の放出が続けば、安静時のエネルギー消費量が増加し、最終的に骨格筋の減少が起こる。
 加えて、炎症性サイトカインは、脂肪分解のさらなる脂肪褐色化、食欲抑制、代謝異常を惹起して、がん悪液質が発症する。
 がん悪液質には、前悪液質(Pre cachexia)、悪液質(Cachexia)、不応性悪液質(Refractory cachexia)の3つのステージがある。
 第1ステージの前悪液質は、「体重減少≦5%、食欲不振、代謝異常」、第2ステージの悪液質は「経口摂取不良、全身性炎症」、第3ステージの不応性悪液質は、「がん悪液質の様々な状態、異化状態かつ治療抵抗性、PSの低下、生命予後<3ヵ月」の症状を特徴とする。
 第2ステージである「悪液質」の診断基準には、①過去6ヵ月間の体重減少>5%、②BMI<20、体重減少>2%、③サルコペニア、体重減少>2%がある。①、②、③のいずれかが惹起すれば、悪液質と診断される。
 これまでのがん悪液質の治療では、コルチコステロイド(抗炎症)、NSAIDs(抗炎症)、エイコサペンタエン酸(抗炎症)、プロゲステロン剤(食欲改善・体重増加)が使われていた。だが、いずれの治療もわずかの骨格筋量増加しか示せず、副作用等で日常診療で使い続けていくのは困難であり、がん悪液質に有効な治療手段は確立されていなかった。
 こうした中、「悪性腫瘍(非小細胞肺癌、胃癌、膵癌、大腸癌)におけるがん悪液質」の治療薬として、グレリン様作用薬「エドルミズ」が上市(本年4月21日)された。
 エドルミズは、国内でがん悪液質患者を対象に実施した3つの臨床試験で、がん悪液質の患者における体重および筋肉量の増加並びに食欲の改善傾向を示しており、今後、がん患者の QOL 改善、がん医療におけるサポーティブケアに寄与することが期待される。
 高山氏は、その効果について「エドルミズを投与して数日後、早い人はその日のうちに食欲が上がる印象を受けた」と紹介。その一方で、使用上の注意にも言及し、「成長ホルモンを刺激するので血糖値が上がる。Grade3の副作用には、糖尿病、γ-GTP増加、リンパ球数減少、2型糖尿病がある」と指摘した。
 さらに、「エドルミズは、ナトリウムチャンネルを阻害するので徐脈になりがちで、徐脈になれば血流量が減少して心不全が悪化する」と説明。
 その上で、「うっ血性心不全のある患者、心筋梗塞又は狭心症のある患者、高度の刺激伝導系障害(完全房室ブロック等)のある患者には、禁忌である」と強調した。
 用法・用量については、「通常,成人には100mgを1日1回,空腹時に経口投与する。食事の影響を受け易いので、起床時に服用する」と明言した。
 また、「骨格筋量は増加するが、筋力が増えていない」ことをエドルミズの課題として挙げ、「持続可能な運動プログラム開発による“筋力増加”の重要性」を強調した。
 患者と家族の食欲不審と体重減少に対する意識の違いにも触れ、「患者の意識は薄いが、家族は気にしており、患者のストレスや家族との対立の原因となっている」と紹介し、「がん悪液質の病態を多くの人に知って貰いたい」と呼びかけた。
 さらに、医療従事者に対しても、「不応性悪液質という最も悪くなった状態をがん悪液質と捉えている人が多い。もっと早い状態のがん悪液質を認識し、よりエドルミズが効果を発揮しやすい段階からの投与が重要である」と訴求した。

 また、がん悪液質克服の鍵は、薬物療法(がん悪液質の発症機序に直接作用)、運動療法(レジスタンストレーニング、持久力トレーニングなど)、栄養療法(経腸栄養剤、栄養補助食品、食べ方や調理法の工夫など)をチーム医療で展開する必要がある。
 最後に高山氏は、「医師、薬剤師、看護師、医学療法士などさまざまな医療従事者が加わって、患者の身体機能とQOLの維持・改善を行い、健康寿命の延長に寄与して頂きたい」と強調した。

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