新潟大学大学院医歯学総合研究科消化器・一般外科学分野の若井俊文教授らの研究グループは27日、大腸癌の病理標本スライドを深層学習することで大腸癌の遺伝子変異を予測する人工知能を開発したと発表した。
この人工知能は、癌の遺伝子解析にまつわるコスト問題を解決し、大腸癌の個別化治療を推進する上で極めて重要だ。同研究成果はSpringer社の科学雑誌「Journal of Gastroenterology」に掲載された。なお、同研究の一部は、デンカ株式会社との共同研究で行われた。
大腸癌の病理標本スライドを「人間の目」で観察すれば、遺伝子変異の量が非常に多い癌であるTumor mutational burden-high(TMB-H)では、特徴的な病理組織像(腫瘍内リンパ球浸潤)が認められる。
今回開発した大腸癌の病理標本スライドを深層学習する「人工知能」は、大腸癌TMB-Hの予測精度において、「人間の目」と同等かそれ以上であると考えられる。
近年、固形癌の薬物療法は、個々の遺伝子変異のパターン(遺伝子変異プロファイル)に基づいて行われるようになっている。Tumor mutational burden-high(TMB-H)は、大腸癌を含む各種の固形癌で認められる遺伝子変異プロファイルの一つであり、TMB-Hの癌細胞の中には極端に多くの遺伝子変異が蓄積している。
TMB-Hでは、腫瘍特異抗原(ネオアンチゲン)の発現が高く、T細胞の認識を受けやすくなることから、免疫チェックポイント阻害剤の効果が高いと考えられている。
一方、TMB-Hを同定するためには、次世代シークエンサーを用いた遺伝子変異解析が必要であるため、解析コストの高さが問題となっていた。大腸癌のTMB-Hを予測する人工知能の開発は、癌の遺伝子解析にまつわるコスト問題を解決し、大腸癌の個別化治療を推進する上で極めて重要だ。
同研究グループは、大腸癌手術を受けた人より研究参加の同意を得て同研究を行った。同研究は、3つのステップからなる。
第1に、「人間の目」で大腸癌の病理標本スライドを観察し、TMB-Hの病理学的特徴を明らかにした。
第2に、大腸癌の病理標本スライドを用いて深層学習を行い、TMB-Hを予測する「人工知能」を開発した。
最後に、大腸癌TMB-Hの予測精度に関して、「人間の目」と「人工知能」を比較した。
研究成果は、次の通り。
(1)大腸癌の病理標本スライドを「人間の目」で観察すると、TMB-Hでは特徴的な病理組織像(腫瘍内リンパ球浸潤)が認められた。
(2)大腸癌の病理標本スライドからTMB-Hを予測する「人工知能」を開発した。
(3)「人間の目」と「人工知能」の大腸癌TMB-Hの予測精度(Area under the curve)は0.910と0.934であった。
これらの事項より、今回開発した「人工知能」は、大腸癌TMB-Hの予測精度において、「人間の目」と同等かそれ以上であると考えられた。
同研究グループでは、今回開発した大腸癌TMB-Hを予測する人工知能の精度を高め、さらに他の癌腫のTMB-Hを予測する汎用型の人工知能の開発を目指したい意向を示している。
また、今回開発した人工知能が実際の免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を予測できるかどうかについの評価も実施する考えだ。