コロナ禍で「来年度健診を控えたい」が3人に1人  G&Gが大規模調査

ジョンソン・エンド・ジョンソン(G&G)は、全国の20~79歳の男女1万5000人を対象に、「健康診断・人間ドック、がん検診に関する意識調査」を実施した。がんを早期発見し、早期治療を行うための健康診断・人間ドックやがん検診の受診は肝要であるが、新型コロナウイルス感染拡大により、健康診断やがん検診の受診減少が懸念されている。
 同調査では、健康診断・がん検診の受診への意識と実態を調査した。調査概要および主な調査結果は、次下の通り。


【調査概要】
調査機関:2020年10月23日~2020年10月26日
調査方法:インターネット調査
調査対象 :調査会社登録モニターのうち、全国の20代~70代の男女を対象に実施
有効回答数:1万5000人(男性:7404人、女性:7596人)※エリア別性年代別人口構成比での割り付け
※がん検診に関する回答対象者は検診対象に準ずる
(胃がん・肺がん・大腸がん:40歳以上の男女) (子宮頸がん:20歳以上の女性) (乳がん:40歳以上の女性)
※構成比(%)は小数第2位以下を四捨五入しています。合計が100%にならない場合がある。

 調査対象者に、コロナ対策で緊急事態宣言が出された4月以降の「健康診断」および「がん検診」の受診意向を時期別に聞いた。アンケート実施期間(10月23~26日)より以前についてはその時の気持ちになって、またそれ以後については調査時点での意向を尋ねた。その結果、「控えたい(控えたかった)」もしくは「やや控えたい(控えたかった)」と回答した割合が最も多かったのは、宣言発令後の4月から解除翌月にあたる6月までの期間で、「健康診断」が53.6%、「がん検診」が56.9%であった。
 この割合は、時間の経過とともに減少傾向にあるものの、来年度(2021年4月~2022年3月)であっても「控えたい」とする人は、「健康診断」が30.7%、「がん検診」が33.9%にものぼった。がん検診については、過去3年間(2017年~2019年)に、胃がん・肺がん・大腸がん・子宮頸がん・乳がんのいずれかのがん検診を受けたことのある40歳以上の男女(n=7,054)に限ると、「来年度控えたい」と回答した人は26.7%であった(データ記載なし)。

 なお、今年度・来年度のいずれかのタイミングにおいて健康診断を「控えたい」と思った人の63.2%が、「控えたい理由」として「新型コロナウイルスの感染リスクがあるから」を選択していた(複数回答設問。表データ記載なし)。

 実際の受診状況は、2020年10月時点で「健康診断」を受診済みの人が約4割(38.6%)、今年度中に受診予定の人を含めると約6割(57.7%)であった。一方、いずれのがん種の検診をみても、受診済みは2割程度、今年度受診予定を含めても3割程度にとどまっている。さらに、「受診予定はない」「わからない」の回答者割合も、「健康診断」の約3割に対し、「がん検診」は6割前後となっている。

 受診状況は、加入している健康保険種別にも差がみられた。後期高齢者医療制度の加入者を除くと、会社員や公務員とその家族は、「組合けんぽ」「協会けんぽ」「共済組合」に加入するケースが多く、自営業や会社を退職された人とその家族の多くが「国民健康保険」に加入している。下表は、2020年度の受診者(2021年3月までの受診予定者を含む)の割合を保険種別でみたものである。

 「健康診断」は、「国民健康保険」の加入者の受診している割合が低く、2人に1人(50.4%)しか受診していません。「がん検診」の受診状況でも同じような傾向がみられ、いずれのがん種の検診も約2~3割にとどまっている。

 一方、企業が単独、あるいは共同設立し保険者となる「組合けんぽ」加入者は、全体平均に対して高い受診率となっている。

 2020年10月末時点で「健康診断」の未受診者を対象に、受診しない理由を聞いてみた。全体では「コロナの感染リスクがあるから」が最も多かった(26.9%)ものの、受診予定時期によって、回答割合に差がみられた。

 今年度は受診せず来年度に受診を予定している人の4割以上(43.1%)がコロナの感染リスクを理由にしていた。「受診予定はない」と回答した人は、「健康状態に不安はないので、必要性を感じない」(29.6%)が最も多くなっている。

 次に、10月時点で受けていない人が最も多かった「胃がん検診」を例に、がん検診を受診しない理由をみてみると、20.1%の人が「からだの変調を感じないから」を選択していた。特に、「受診予定はない」とした人での回答率が最も高く(27.7%)、「健康状態に不安はないので、必要性を感じていないから」においても4人に1人(25.8%)となっている。「今年度受診年だが、来年度に回す予定」の人の36.8%が、「コロナの感染リスクがあるから」を選択していた。

 なお、胃がん以外のがん検診においても、受診していない理由は胃がんと同様の傾向となっている(参考資料1参照)。さらに、過去3年間(2017年~2019年)に各がん検診を受けた人に限って、各がん検診を受診していない理由をみても、同様の傾向となっていた(データ記載なし)。

 

「健康診断」を今年度に受診した、もしくは今年度中に受診予定と回答した人を対象に、受診理由を尋ねた。その結果、半数以上(54.9%)が「これまでも定期的に受けているから(検査を休みたくない)」と回答しており、次いで、「健診を受けると安心できるから」(31.1%)、「感染対策が講じられており、コロナに感染するリスクは低いと思うから」(21.4%)となっている。

 各種「がん検診」の受診理由においても同様の傾向がみられ、「これまでも定期的に受けているから(検査を休みたくない)」が、すべての「がん検診」において最多となり、2人に1人以上が回答している。また、「発見が遅れ、手遅れになりたくないから」も約2~3割が回答している。

 世界的にコロナの収束が見えない中で、「今後、どのような医療情報を得たいと考えているか」について尋ねたところ、「コロナに関する正しい基本情報」(39.7%)、「コロナの感染予防に有効な方法」(32.9%)が3割を超えた。がんをはじめとする三大疾病の発見の遅れに関する情報を知りたい人の割合は、コロナ関連の情報を知りたい人より少ない傾向がみられた。

 また、来年度に「健康診断」やいずれかの「がん検診」の受診を予定している人に関しては、特に「どの病院を受診したらよいのかわからないので、おすすめの病院・専門医の情報」や、「コロナの感染リスクがあるなか、受診・治療すべきかどうか判断できる情報」、「コロナの感染リスクを軽減するために健診・検診時に留意する事項」において、平均を5ポイント前後上回る結果となった。

 

国が公共的な予防策としている「がん検診」は、「対策型がん検診」と呼ばれ、科学的根拠に基づき一定年齢以上の方に定期的な受診が推奨されている。「対策型がん検診」については、費用補助など受診をしやすくするための制度も設けられている。

 がん検診の制度や科学的根拠に関連する事柄について認知状況を確認したところ、調査対象者全体では、「この中に知っているものはない」を除き、すべての項目で4割を下回る結果となった。特に、各「がん検診」の推奨年齢や頻度に関する認知割合は2割以下と低く、受け身な状態の人が多いことが推察される。

 一方、今年度なんらかの「がん検診」を受診した人(予定を含む)の結果をみると、がん検診の制度や科学的根拠に関連する事柄について、すべての認知割合が全体の数値を上回り、特に制度面での理解が進んでいることが明らかになった。

 

 最後に、緊急事態宣言が出された4月以降から調査実施までの期間において、医療機関の受診を考えた時の行動について尋ねた。

 期間中、体調不良や体調異常を感じても、約4割(36.1%)の人が、受診を一時期控える、あるいは現在も延期している。これは、特に若い世代に顕著であった(20代:40.7%:30代:48.2%、40代:41.6%)。

 脳梗塞や脳出血など重大な脳血管障害が疑われる症状の一つである「手足のしびれやもつれ、激しい頭痛、舌のもつれ」、心疾患が疑われる症状の一つである「動悸、息切れや脈の乱れ」に関しても、症状を感じた人は少ないものの、約2割の人が医療機関の受診を控える行動をとっていた。

 体調不良や体調異常、脳血管障害や心疾患が疑われる症状を自覚しながら、医療機関の受診を控えた人にその理由をたずねると、いずれの項目においても、「延期・一時期控えた時の自身の体調や症状よりも、コロナの感染リスクの不安が大きかったから」が最多となり(48.6%)、30代では54.7%、40代では54.0%と特に高くなっていた。次いで「コロナの感染リスクを絶対に回避したいから」が43.9%であった。
 一方で、「まだ病院に行かなくても大丈夫だと思ったから」や「症状がおさまったから」受診しなかったという人も1~2割みられた。

 調査対象者全員に、コロナの感染拡大の影響による疾患リスクへの不安について聞いてみたところ、「健康診断や人間ドックを見送ることで、病気の発見が遅れること」や「がん検診を受けないで早期発見が遅れること」を「不安である」とした人の割合は約6割にとどまった。

 

佐野氏

「2020年の春、新型コロナウイルスの感染流行により、健康診断やがん検診を提供する多くの施設が業務を停止した。特に、内視鏡検査については、緊急時以外の検査を可能な限り控えるよう学会から勧告も出た。また感染拡大に対する不安から、患者の医療機関への通常の受診・通院に強いブレーキがかかった。
 7月頃から徐々に改善されてきてはいるものの、医療者は皆、この状況に危機感を強めている。今回の調査では、この新型コロナ感染拡大が皆さんの健診や医療機関受診にいかに強い影響を与えているかが明確になっている。
 この調査が行われたのは、8月の第2波がおさまってしばらく経った10月下旬であった。回答された人々も健診や受診を控えようという気持ちが薄らいできた頃だと思われるが、それでも40歳以上の3人に1人が来年のがん検診は控えたいと答えられたのはショックである。
 もちろん、健康に自信があってコロナ禍とは関係なくがん検診は受けないという人もいますが、比較的意識が高く、過去3年間にがん検診を受けたことのある人に限っても、4人に1人は来年の検診を控えたいと答えている。また、様々な体調不良や異常を感じても、コロナ感染を避けたいがために医療機関を受診しないで済ませている人がやはりたくさんおられる。
 がんの診療に携わる我々が何を心配するか、是非知っていただきたい。がん検診の意義は、症状のない人たちに早期のがんを見つけて治すことだ。発見の確率はそれほど高くはないが、それでも毎年確実に多数の早期がんが見つかり、比較的軽い治療(例えば内視鏡的切除など)で治癒している。
 非常にゆっくり成長するがんもあるが、多くは着実に進行するので、がん検診が半年、あるいは1年遅れることで、より進んだ状態で見つかることになり、より大きな手術や強い抗がん剤が必要になる。せっかく毎年検診を受けてきていたのに、コロナのために1年延びた、あるいは何となく受診しなくなってしまって、来年あるいは再来年に進行したがんが姿を現すといったことが、必ず起こってくるはずだ。
 検診の遅れだけではない。実は、がんの中には比較的早期に何らかの症状を引き起こすものがあり(例えば早期胃がんに伴う胃潰瘍の症状や、小さい肺がんが引き起こす軽い肺炎など)、医療機関を受診して検査で発見されることがたびたびある。
 日本は、内視鏡検査やCTへのアクセスが世界で最もよく整備されており、検診以外の日常診療で発見される早期のがんが少なくないが、今、これが減っているのである。さらに、かなり進行したがんで症状が出ていても、コロナ感染を恐れて自宅で我慢し続け、非常に具合が悪くなって初めて病院を受診する人がいる。治癒は望めなくとも延命をめざす治療があるが、全身の状態が悪化しているとそれさえ行えない。
 このように、コロナのためにすべてが後回しになり、がんが進む。我々は、こを恐れている。せっかく長年かかってできあがっていたがんの早期発見と安全な治療の体制が、このウイルスのために壊れてしまうのを見たくはない。
 新型コロナウイルスは、どうやら簡単にはいなくならない。それならば、“正しく恐れ”、必要な安全策をとりながら、一歩を踏み出そう。まだ遅すぎることはない。

タイトルとURLをコピーしました