オートファジーによるミトコンドリア分解促進新因子発見  新潟大学

 新潟大学大学院医歯学総合研究科機能制御学分野の福田智行准教授、神吉智丈教授らのグループは11日、ミトコンドリアに存在するAtg43というタンパク質が、オートファジーによるミトコンドリアの分解(マイトファジー)を促進することを見出したと発表した。
 マイトファジーは、機能の低下したミトコンドリアを分解することで、細胞の健全性を維持している。同研究は、マイトファジーのメカニズムの一部と細胞内での役割を解明するとともに、ミトコンドリアの機能低下が原因となる神経変性疾患や心筋症などの様々な疾患の予防・治療に繋がる重要な成果として注目されている。
 Atg43は、マイトファジーに不可欠なタンパク質で、ミトコンドリアの外縁に存在し、マイトファジーの際にミトコンドリアが膜に包まれる過程を促進する。また、Atg43が欠損してマイトファジーができない細胞は、栄養が乏しい環境で生存できない。
 ミトコンドリアは、細胞に必要なエネルギーの大半を産生する。エネルギーと同時に発生する活性酸素は、ミトコンドリア自身や他の細胞成分を損傷してしまう。さらに、損傷したミトコンドリアからはより多くの活性酸素が発生するという悪循環が生じる。
 ミトコンドリアを膜で取り囲んで分解する特別なオートファジー(マイトファジー)は、損傷したミトコンドリアを除去することで、健全な細胞を維持している。マイトファジーは、酵母のような単細胞生物からヒトを含む高等生物まで、様々な生物に共通してみられる重要な生命現象である。ヒトでマイトファジーが欠損すると、細胞内に機能の低下したミトコンドリアが蓄積し、老化や神経変性疾患が引き起こされる。
 そこで、マイトファジーのメカニズムや細胞内での役割の解明は、ミトコンドリア関連疾患の予防や治療に繋がると期待され、様々な生物種やモデルを用いてマイトファジーの研究が行われている。
 福田氏らの研究グループは、分裂酵母を用いてマイトファジーに不可欠な因子を探索し、Atg43というタンパク質を発見した。観察の結果、Atg43はミトコンドリアの外縁に存在していることが分かった。また、マイトファジーの際に膜がミトコンドリアを包み込む過程で、この膜上に存在するAtg8というタンパク質にAtg43が結合することも判明。さらに、遺伝子操作によりAtg8がミトコンドリアと直接結合できるようにすれば、Atg43の機能が欠損した細胞でもマイトファジーを生じさせることに成功した。


 従って、ミトコンドリア上のAtg43と膜上のAtg8が結合することで、膜の伸長がミトコンドリア上で安定して進行し、膜がミトコンドリアを効率よく包むことができるものと考えられる(図1)。加えて、Atg43の機能が欠損してマイトファジーが生じなくなると、栄養飢餓の際にミトコンドリアが正常に機能しておらず、細胞の生存も維持できなくなることが分かった(図2)。これらの研究成果から、マイトファジーのメカニズムの一部と、マイトファジーが細胞内で果たす役割の一端が明らかになった。
 同研究により、マイトファジーにおいてAtg43はミトコンドリアが膜に包み込まれる過程を促進することが分かった。一方、Atg43は、ミトコンドリア上にまんべんなく存在しているため、ミトコンドリアの中から膜に包まれる領域がどのように決定するか、決定の過程にAtg43が関与しているかどうかは分かっていない。福田氏らは、今後、分解領域がどのようにして決められているかを解明して、マイトファジーのメカニズムの全貌解明を目指す。また、Atg43の機能が欠損した細胞を様々な条件下で観察し、マイトファジーの欠損がどういった環境においてどのような異常を引き起こすのかの解析により、マイトファジーが細胞内で担う役割についてもより一層明らかにしていく。
 ヒト細胞にはマイトファジーレセプターと呼ばれるタンパク質が複数存在しており、いずれもミトコンドリアの外縁に存在してAtg8に相当するタンパク質と結合することが知られている。こうしたヒトのマイトファジーレセプターと分裂酵母のAtg43との間にタンパク質としての相同性はないものの、いずれも同じ機能を果たしていると予想される。そこで、それぞれの研究から得られる知見の統合により、マイトファジーのメカニズムについてより深い理解が得られる。
 また、ヒト細胞においてもAtg8に相当するタンパク質をミトコンドリアに直接結合させることでマイトファジーが促進できるかどうかが検証できる。もし、ヒト細胞でもマイトファジーが促進できれば、マイトファジー不全が引き起こす老化や神経変性疾患の治療法の確立への貢献が期待できる。
 なお、これらの研究成果は、2020年11月3日、eLife誌(IF 7.080)に掲載されている。

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