大阪道修町にある少彦名神社の「神農祭」が11月22、23日、「ご鎮座240年祭」として開催される。道修町は、江戸時代から薬問屋や製薬関連企業が軒を連ねる「薬の町」として知られ、神農祭は大阪の「とめの祭り」として多くの人々に親しまれてきた。
今年は、コロナ禍で各地の神社の大祭が自粛・縮小を余儀なくされる中、「ご鎮座240年祭」がどのように開催されるのか、地元道修町を始め全国の参拝者の関心の的となっている。そこで、式年祭の祭典委員長を務める多田正世氏(大日本住友製薬会長)に、240年祭祭典委員長を引き受けた感想や抱負、コロナ禍における神農祭開催の形式を聞いた。
「ご鎮座240年祭という記念すべき重要な式年祭の祭典委員長を仰せつかることになり大変光栄である」多田氏は、優しい笑みを浮かべながら開口一番こう語り、「道修町で医薬品事業を行っている製薬企業の責任者として、当然お受けしなければならないと感じた」と振り返る。
神農祭は、薬祖講の講員からなる祭典委員会が中心となって運営されており、祭典委員会は委員長1人、副委員長1人、祭典委員会社12社と関係団体の代表の委員18人からなる。
ご鎮座240年祭の第1回祭典委員会が開かれたのが本年2月初めで、「今年の大祭は、記念すべき歴史の中でエポックメイクとなるため、何としても成功させねばならない。各自アイデアを持ち合って頑張ろうと、会議も大いに盛り上がった」
だが、各委員が「やる気満々」で帰路について2週間も経たないうちに、新型コロナ問題が発生した。それ以降は、「式年祭ではどういった対応をすべきなのかを、別所賢一少彦名神社宮司を中心に、塩野元三薬祖講講長(塩野義製薬特別顧問)にもお考え頂き、多々ご助言を頂戴した上で9月最終週に基本的な政策骨子を議論した」
その結果、「参加者の安全を第一とする」と、「疫病退散、病痿平癒、健康祈願を神徳とする神社のため、必ず大祭を開催する」の2点が基本的な考えとして示された。「参拝者や神事参加者の安全対策を最優先にした上で、神徳に基づいてご鎮座240年祭大祭を必ず開催する」基本方針が確認された。
安全対策では、「露店は出さない」、「境内への参拝者の入場を調整し、ソーシャルディスタンスを保つ」、「直会(なおらい)は行わない」など、一つ一つ具体的事項が詰められた。
10月15日には2回目の祭典委員会が開催され、感染防止策について別所宮司が細かく説明し、大祭開催の了承を得た。翌16日の神社役員会でも、別所宮司と春名博之氏(大日本住友製薬コーポレートガバナンス部総務グループマネージャー)らが作成した「神農祭での新型コロナウイルス感染防止ガイドライン」が高評価を受け、同ガイドライン遂行による大祭開催が了解された。多田氏は、「ガイドラインには、新型コロナウイルス感染防止のための細かなルールが規定されており、リスクの低減につながると考えている」と明言する。
少彦名神社(神農さん)は日本医薬総鎮守で、地域の守り神であると同時に、新型コロナウイルスのパンデミックから全国民を守る疫病退散の社でもある。文政5年(1822年)、大坂でコレラが流行した時、道修町の薬種仲間が疫病除薬として丸薬(虎頭殺鬼雄黄圓)に合わせて「張子の虎」が配布され、その効能が高かったため「張子の虎」の御守が、疫病退散・病気平癒・健康成就の象徴として全国的に知れ渡るようになった。昨今では、神農さんで「新型コロナウイルス退散・感染収束」を祈願する参拝者があとを絶たない。
「そういった歴史も含めて、少彦名神社の成り立ち、意義、価値を皆さんにご理解いただきたい」と強調する多田氏。さらに、「こうしたご理解をベースに、大祭には密を避けるため分散してご参拝いただき、コロナ禍の時だからこそ参拝者の皆様に“張り子の虎”の授与を受けて頂くことを願っている」と訴求する。
一方、薬祖講には、医薬品会社や卸を始めとする薬業関係者約350社が会社単位で加入している。江戸時代、薬種問屋街であった道修町の商人が「国民の健康を守るためにお互い協力する」ことを目的に講が設立された。その考えは、現代の「如何に各企業が社会に貢献するか」という大きなテーマに結びつく。
多田氏は、医薬品業界が社会貢献するために課せられた課題として、①国民の健康・長寿に寄与する②医薬品事業を経済成長に繋げる③社会制度を維持するための人々の健康保持④さらなるサイエンス発展への寄与ーを挙げる。「この4つの課題解決が、SDGs(持続可能な開発目標)へと繋がっていく」と強調する。少彦名神社の大祭は、市民の健康保持のために行われているものであり、製薬企業の社会的役割と相通じるところは大きい。
世界的な新型コロナ感染状況を見ると、全くコントロールできていない国が多々ある。その一方で、中国のように強権を発動してロックアウトを継続し、抑え込んでいる国もある。だが、日本は国民が「三密の回避」、「マスク着用」、「手洗い・うがいの励行」を真面目に行い、新型コロナウイルス感染の第二波を抑え込みつつある。
こうした日本人の生真面目さ、律義さの国民性は、「神のご加護の下に真摯な行動を取る」という古来からの考え方がバックグラウンドにあると言っても過言ではない。「苦しい時の神頼み」もまた真なりである。
最後に多田氏は、「コロナ禍での大祭開催において、感染者を一人でも出してはいけないという点で祭典委員長として大きな責任を痛感している」と断言。その上で、「少彦名神社は、社会に開かれた神社であり、疫病退散・無病息災などの神徳や設立理念からも、この神社に参拝して神のご加護を願うのは一般の人々の行動基準である。是非皆様にご参拝願いたい」と重ねて強調した。