関西大学社会安全学部の近藤誠司研究室は26日、コロナ禍における聴覚障害者の防災意識調査結果を発表した。同調査は、聴覚障害者の実態捕捉を目的に、滋賀県草津市において全数調査を行ったもの。その結果、災害時の支援者問題や社会的孤立の問題、避難所でのコミュニケーション問題など多くの課題が浮き彫りとなり、障害者同士の世代間交流を促す仕組みづくりの必要性が裏付けられた。
同調査は、草津市に在住する聴覚障害者328人に対して、質問紙の郵送・返送方式で実施された。調査期間は、本年9月1日~10月7日。全24問の設問形式で、回収率は47.9%(回収数157)で、回答者の7割以上が60代以上の高齢者であった。
アンケート調査結果の概要と近藤准教授のコメントは次の通り。
■ 聴覚障害者のコミュニケーション方法は、「発声」が6割強、「手話」や「スマホ」は3割弱
普段のコミュニケーション方法として、「手話」や「スマホ・携帯」を選んだのはそれぞれ約3割弱で、最も多くの人が選択したのは「発声」であった。
失聴者よりも難聴者が多いこともあり、「発声」が重要な手段となっていることが確かめられた。その結果、コロナ禍においてマスクやフェイスシールド等を着用したり、声のボリュームを抑制したりすることが、コミュニケーションの障壁となる可能性があると推察される。
■ 聴覚障害者の立場から、避難所に準備しておいてほしいこと、市民に知っておいてほしいこと
避難所に求めるものとして、必要な物品には「聴覚障害者ワッペン」、「耳マークのバッジ」などの聴覚障害者であることを示すヘルプマークをはじめ、「支援者を表示するビブス・ゼッケン」、「筆談ボード」、「手話通訳」、「字幕表示の設定をしたテレビ」などが挙げられた。
また、表示文章の短文化や拡大文字を求める 意見や、場内アナウンス・サイレン・デジタル音などの代替措置を考案してほしいといった意見もあった。
さらに、「背後から話しかけられてもわからない」、「マスクを付けている状態では聞き取りにくい」ことを知っておいてほしいといった声も複数あった。
■ およそ4人に1人が「コロナ禍で嫌な思いをした経験がある」と回答
コロナ禍において、聴覚障害者で困った点、嫌な点があったかを尋ねたところ、22.7%の人が「ある」と回答。「発声」や「口話」の場面で周囲からの理解や協力を得られずに苦境に陥っていた人が大勢いることが判明した。
具体的には、「マスクを付けての会話は聞き取りづらく口元も読みとれない」、「マスクを外してとは言えない」、「聞こえづらいので顔を近づけると嫌がられた」などがあった。また、仕事をする上で困難を抱えた人もいて、「リモートでのテレワークが困難」とする意見が複数寄せられた。そのほか、「生活全般に影響が及び、外出しなくなった」と記述した人もいた。
■ 近藤准教授のコメント
自分自身では困難を解消できない“社会的孤立”の問題について、今後、より深く調査・検討する必要がある。行政支援(公助)に限界や制限があるなかで、一つの活路を見出すとすれば、聴覚障害者同士の世代間交流を賦活する仕組みづくりが要請される。デジタルデバイスを使いこなせる若い聴覚障害者が避難所運営に志願して、高齢の聴覚障害者の悩みや不安を汲み取り、きめ細かく対応すれば、健常者・障害者間のコミュニケーションギャップを苛烈にしてしまうリスクの低減ができるものと考えられる。