塩野義製薬は10日、同社がグラクソスミスクライン、ファーザーとともに資本参加するヴィーブ社が、長期作用型注射剤カボテグラビルのHIV感染予防効果を検証するP2b/3試験(HPTN 083試験)の最終解析において、中間解析と同様に同剤の良好な予防効果を確認したと発表した。同剤の2か月毎投与により、対照となる1日1回投与の経口薬を66%上回る有意な予防効果が確認されたもの。同試験結果は、第23回国際AIDS会議(AIDS 2020)で報告された。
同試験は、HIV感染リスクが高い、男性と性交渉を行う男性またはトランスジェンダーの女性を対象に、HIVに感染した被験者の割合を主要評価項目として、長期作用型注射剤カボテグラビルの2か月毎投与と既存の予防薬であるエムトリシタビン/テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(FTC/TDF)の1日1回経口投与を比較したP2b/3相二重盲検比較試験である。中間解析の良好な結果を評価したデータ安全性モニタリング委員会(DSMB)の勧告により、同試験は予定より早期に終了した。
最終解析の結果の概要は以次の通り。
◆感染予防効果
Ø 試験中にHIVに感染した被験者52名のうち、13名が長期作用型注射剤カボテグラビル群(0.41%、95%信頼区間:0.22-0.69%)であり、39名が対照薬のFTC/TDF群(1.22%、95%信頼区間:0.87-1.67%)であった。
◆安全性
Ø 両群ともに忍容性が高く、ほとんどの有害事象は軽度または中等度であったた。
Ø 有害事象について、カボテグラビル群では注射部位反応、発熱、および高血圧が、FTC/TDF群では嘔気がそれぞれ有意に高く認められた。
Ø 注射部位の痛みまたは圧痛について、カボテグラビル群では80%の被験者で、プラセボが注射されるFTC/TDF群では31%の被験者で認められた。
Ø カボテグラビル群における注射部位反応あるいは注射に対する不耐性による中止例は2.2%であり、FTC/TDF群における注射部位反応による中止例は認められなかった。
これらの最終解析結果より、長期作用型注射剤カボテグラビル群は対照薬のFTC/TDF群に対して有意なHIV感染予防効果を示し、主要評価項目を達成した。
また、FTC/TDF群から無作為に抽出した被験者の87%でテノホビルの血中濃度が検出されていたことから、経口投与群での服薬率は高かったと考えられる。経口投与群の服薬率が高かったにもかかわらず、長期作用型カボテグラビルはFTC/TDF群に対してHIV感染予防効果が66%(95%信頼区間:38-82%)高い結果であった。
今後ヴィーブ社は、同試験データを基に当局への承認申請を予定している。長期持続型注射剤カボテグラビルによるHIV感染予防については、HIV感染リスクの高い女性を対象にしたP3相臨床試験(HPTN 084試験)も実施中で、現在までに3000人以上の被験者が登録されている。
塩野義製薬は、今後もヴィーブ社の経営に参画することで、HIV感染症治療や予防におけるドルテグラビルおよびカボテグラビルの価値最大化に貢献していく。なお、同件が塩野義製薬の2021年3月期の業績に与える影響は軽微である。
◆HPTN083試験概要
HPTN 083試験は、HIV感染予防において、FTC/TDF 錠(200mg/300mg)の1日1回経口投与と比較して、2か月毎に投与する長期作用型注射剤カボテグラビルの安全性と有効性を評価するためにデザインされた第P2b/3相二重盲検試験である。
各参加者は、盲検化された治験薬を最大3年間投与される。当該試験は2016 年11月に登録開始された。HPTN083試験は、アルゼンチン、ブラジル、ペルー、米国、南アフリカ、タイ、ベトナムの施設で、男性と性行為を行う男性またはトランスジェンダーの女性、4566名を対象に実施された。
◆HPTN084試験概要
HPTN 084試験は、HIV感染予防に対する安全性と有効性を、HIV感染リスクが高い女性3200 名を対象に、8週間ごとに投与する長期作用型注射用カボテグラビルとFTC/TDF 錠(200mg/300mg)の1日1回経口投与と比較評価するためにデザインされたP3相二重盲検比較試験である。HPTN 084は、2017年11月に登録開始され、ボツワナ、ケニア、マラウイ、南アフリカ、エスワティニ、ウガンダ、ジンバブエの施設で実施されている。
◆IV予防試験ネットワーク(HPTN)
HIV Prevention Trials Network(HPTN)は、HIV感染と感染拡大を予防するためにデザインされた臨床試験の安全性と有効性を評価、検証するための、研究者、倫理学者、コミュニティメンバーおよび他のパートナーによる世界的な共同臨床試験ネットワーク。National Institutes of Health (NIH)、National Institute of Mental Health (NIMH)、およびNational Institute on Drug Abuse (NIDA)は、HPTNに共同出資している。HPTNは、19カ国85以上の臨床研究施設と協力し、新たなHIV感染予防の戦略を評価している。HPTNの研究課題は、登録および評価された参加者16万1000名以上を対象とした進行中または完了した50件を超える試験における、主に抗レトロウイルス薬(抗レトロウイルス療法および曝露前予防)の使用、および薬物乱用、特に注射薬物使用に対する介入、行動リスク低減への介入および構造的介入を含む統合的戦略に焦点を当てている。