帝京大学医学部神経内科学講座主任教授の園生雅弘氏と同臨床助手神林隆道氏らは、COVID-19の封じ込め成功の主因はsocial distancingであり、PCR検査を広く一般に行うことの寄与は少ないと考えられる共同研究結果を発表した。
札幌医科大学医学部附属フロンティア医学研究所ゲノム医科学部門講師の井戸川雅史、岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野教授の下畑享良、大阪医科大学医学部化学教室教授の林秀行らとの共同研究により、公開データを用いて、COVID-19の封じ込め成功の主因を分析したもの。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行の封じ込めのために、PCR検査を広く一般人に行うべきという主張がなされているが、COVID-19封じ込めの成功と、人口中のPCR検査率とにどのような関係があるかについて、実際に検討した報告はこれまでに存在しなかった。
そこで、園生主任教授らの研究グループは、インターネット上の公開データを用いて次の検討を行った。本年5月16時点で感染者1000人以上の90ヶ国について、COVID-19の封じ込め成功度(トラジェクトリー解析で1週間における新規感染者数の最新値を、その過去の最大値で割ったもの)と、人口中のPCR検査率、さらに一人当たり国民総生産(GDP)との相関を調べた。
GDPを説明変数として選んだのは、COVID-19の封じ込めに重要な方策と考えられるsocial distancingの遵守度にGDPが関連すると仮定したため。
その結果、COVID-19の封じ込め成功は、検査率、GDPともに有意な相関があったが、重回帰を行うと検査率の貢献は消えて、封じ込め成功度はGDPのみで説明できた。個々の国を見ると、タイ、マレーシア、シンガポールの東南アジアの近接3国においては検査率が低いほど(前記の順番、タイが最低)封じ込めは成功しており、想定と真逆の関係にある。これはタイでは早期にロックダウンが徹底されたこと、シンガポールでは2020年4月初旬まで一般人のマスク着用を推奨していなかったことと外国人労働者の密な環境に関連する可能性がある。
日本は、PCR検査率の低さ(0.19%)を批判されているが、検査率2〜7%の欧米主要国と比べて、最新の封じ込め成功度において、欧米での優等生国(フランス,スペイン,ドイツ,イタリア)に引けを取らず、英国、米国、スウェーデンなどよりもはるかに良い状況にある。
検査率世界最高のアイスランドは、封じ込め成功も世界最高だが、同じく第2位、第3位のUAE、バーレーンは、封じ込めに全く成功していない。GDPは高いが、封じ込めができていないところに湾岸諸国が並ぶ。同じグループにスウェーデンがあるが、この国が封鎖を緩くしていることは有名である。
以上より、COVID-19封じ込めの成功はsocial distancingが主因であり、PCR検査を広く一般に行うことの寄与は少ないと考えられる。PCR検査はもちろん重要・有用な検査であり、特に医師が必要と判断した時には速やかに行える体制の整備は必須である。だが、現行の方針、即ち、臨床症候からの疑い例の確定、院内感染の予防と封じ込め、可能であればクラスター同定と封じ込めなどを目的として行うというスタンスで基本的に問題ないと考えられる。
同研究成果が掲載された国際雑誌は次の通り。
Masahiro Sonoo, Masashi Idogawa, Takamichi Kanbayashi, Takayoshi Shimohata, Hideyuki Hayashi. Correlation between PCR Examination Rate among the Population and the Containment of Pandemic of COVID-19. Public Health. in press.