「教えて!『かくれ脱水』委員会」は1日、「熱中症で搬送されないための全国民の熱中症セルフメディケーションの徹底」を緊急提言した。同提言は、新型コロナウイルス感染症の対応が現状のままで熱中症シーズンを迎えれば、日本の医療現場の崩壊危機がさらに危惧されることから、その回避を目的としたもの。2012年に発足した同委員会は、各医療分野に詳しい13名の医療関係者で組織されており、「熱中症者をゼロにしたい」を基本理念に、熱中症・脱水症の予防啓発を展開している。
今回、新型コロナウィルス感染症の大流行を受け、今にも崩壊の危機を迎えている日本の医療の現場の状況を鑑み、今後迎える熱中症多発シーズンに向け、緊急提言を発信したもの。
新型コロナウイルス感染症の影響で、医療崩壊の危機がますます高まっている現状の中、「熱中症患者搬送によるその危機の増幅」が予測される。熱中症患者が搬送されれば、救急医療体制への負荷を強めるだけでなく、新型コロナウイルス感染症による院内感染の危険性も高まるからだ。新型コロナウィルス感染症の対応でキャパシティを超えつつある医療機関に、例年通りの熱中症患者が救急搬送されれば、もはや未曾有のパニック状態を招き、日本の医療機関の多くが機能しなくなるリスクがある。
この夏、医療の最前線への負荷を最小限に食い止めるために、いま同委員会が伝えたいのは、「熱中症における“セルフメディケーション”の徹底」だ。四季があり、暑熱馴化(=暑さになれること)が必要、かつ、高温多湿な気候の“熱中症大国日本”だからこそ、特に注意を要する。昨年の熱中症による搬送者(5月から始まり8月まで)は全国で7万1317人で、一昨年は9万5127人に上る(総務省消防庁熱中症情報・令和元年5月〜9月の熱中症による搬送状況より)。本年は、春季に多くの人が外出自粛をしているため、「汗をかいていない」、「運動をしていない」傾向にあり、身体の機能が暑さに慣れて、汗をかいて体温を下げる等の対処ができる“暑熱馴化”ができていず、筋肉量も減っている。
筋肉は、身体に水分を貯めるもっとも大きな臓器であるため、筋肉量が少ないということは保持できる水分量が少ない、すなわち、脱水になり易いとも言える。また、常日頃マスクをつけて過ごしているため、体内に熱がこもりやすくなってしまう。常にマスクをしたままの人であれば、口渇の鈍化(マスク内の湿度があがっていることで喉の渇きを感じづらくなる)傾向にある可能性もある。特に、もともと喉の渇きに気づきづらい高齢者がますます気づきづらくなり、知らないうちに脱水が進み、熱中症となってしまうリスクが高まる可能性がある。「マスクを外してはいけない」という思いがあり、気づかないうちに水分補給を避けてしまうのも脱水の一因になり得る。高齢者で、人と接しなくなると、誰も服装や温度の異常を指摘してくれない。さらには、体調が悪くても発見も遅れてしまうし、すぐに助けが来ることも難しい。
脱水は、免疫低下にもつながり、ウィルス感染のリスクも上げる。脱水症は、免疫機能を落とす。鼻から肺までの空気の通り道である気道には、ウィルスや細菌などの異物が体内に侵入するのを抑える気道粘膜や繊毛があり、それらがある程度潤っていることでその機能が発揮できる。侵入してきた異物を痰として外部へ運び出すために粘液が必要になる。
また、脱水症だと、摂取した栄養素が造血細胞に届かずに、免疫能が低下する可能性がある。「水分補給が足りていない、いわば脱水状態であれば、ウィルス感染のリスクも上昇する」ことを心する必要がある。熱中症にならずとも、脱水症はウィルス感染のリスクにつながる。「身体がベタつく」、「だるい倦怠感がある」、「頭がフラつく」、「発熱」、「頭痛」などの症状を起こすのも熱中症特徴だ。実はこれらは、新型コロナウィルス感染症の軽度の症状にもよく似ており、見分けるのは難しい。
だからこそ、熱中症になる環境・生活の回避は、これらの症状の原因が熱中症ではなく、新型コロナウィルス感染症であるのではという可能性を早期に疑えることに繋がる。熱中症の症状とコロナ感染の症状は類似しており、熱中症である可能性を消しておく必要がある。一方、「PCR検査が陰性で自宅療養していたら実は熱中症であった」、というケースも想定されるため、できるだけ自身で熱中症を予防しなければならない。
◆熱中症予防のポイントは、次の通り。
①3食きちんと食べる。
②喉が渇いたなと感じ始めたら水分摂取(多量のカフェイン摂取は控える)
③水分補給が十分できない時のために経口補水液を 家族1人2本×3日分、常備
④クーラーをすぐつけられるよう調整しておき、暑いと感じる環境にいない。
①換気をこまめにし、湿度も高くならないように注意する。温度・湿度は、環境省が毎日発表している暑さ指数(WBGT Wet Bulb Globe Temperature、湿球黒球温度))もチェックする。
⑥快適な環境でよく睡眠をとる(疲労も熱中症リスクになる)
⑦人混みを避けた散歩や室内での軽い運動を行う。
⑤の「暑さ指数」とは、熱中症の予防を目的とした指標。単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されるが、その値は気温とは異なる。暑さ指数は、人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい ①湿度、 ②日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、 ③気温の3つを取り入れた指標である。環境省WBGT サイトhttps://www.wbgt.env.go.jp/wbgt_data.php
水分摂取に関する注意点としては、まず、健常人なら3食の食事をきちんと摂り、喉がかわいたら飲み物を飲む、暑くなってきたら普段よりも多めに飲む、を心掛けていれば良い。たっぷり水分を摂れる人は、カフェインの入った飲み物でも大丈夫だが、カフェインには利尿作用があるので、なるべくカフェインの入っていない麦茶・真水などにする。
高齢者の方だと、喉があまり渇かなかったり 、トイレに頻繁にいかねばならないことを気にして水分摂取を避けてしまう人もいる。そういった人は、無理をしてたくさんのお茶を飲むよりコップ1杯の経口補水液を飲むのが効果的である。経口補水液であれば少量で効率よく塩分・水補給ができる。
「食欲がないので3食きちんと食べられない」状況でも、脱水を起こさないよう、水分摂取を心掛ける必要がある。その場合は、1日500mlの経口補水液を1本飲むなどして、水分と塩分を補うようにする。経口補水液は、高血圧など、塩分を制限しなくてはならない人は注意を要する。医師・薬剤師に相談して飲むようにすれば良いだろう。
アルコールは、アルコールの分解に水分を多量に必要とするため、むしろ脱水状態を進めることになるので注意する。
もしも、熱中症を疑われれば、軽度の時点で『経口補水療法』を行うことが重要となる。もしも熱中症が疑われる場合は、次の実践を心がけたい。
①涼しい場所に移動させる(日陰やクーラーの効いている場所)
②身体を冷却する。衣服を脱がせたり、きついベルトやネクタイ、下着はゆるめる。露出させた皮膚に冷水をかけて、うちわや扇風機などで扇ぐのも有効。氷のうなどは、首の両脇、脇の下、大腿の付け根の前面に当てて皮膚のすぐ近くにある太い血管を冷やす
③意識がはっきりしているなら、経口補水液を飲ませる。=経口補水療法。反対に、「呼び掛けや刺激に対する反応がおかしい」、「応えない(意識障害がある)」時には、誤って水分が気道に流れ込む可能性があるため、無理に飲ませない。「吐き気を訴える」または「吐く」場合、口からの水分摂取は適切ではないため、医療機関での点滴等の処置が必要となる。
【参考資料】
教えて!「かくれ脱水」委員会
服部益治氏(社会福祉法人 枚方療育園 医療福祉センターさくら院長 兵庫医科大学特別招聘教授 医学博士)、谷口英喜氏(済生会横浜市東部病院 患者支援センター長兼栄養部部長)、専門委員一同
提言掲載ページ(「かくれ脱水JOURMAL」)https://www.kakuredassui.jp/usefulinformation/recommendation_declaration/recommendation_declaration01