近年、医療現場においてもITやAIは不可欠なものとなっている。その一方で、これら高度先端技術の利活用は、都市部に遍在する傾向にある。地方や過疎地ではあらゆる側面で遅れが目立ち、「生活格差」が生じているのが現状だ。こうした中、先端総合開発研究所(本社:札幌市)とボーダレス・ビジョン(同)は、医療用テレビ電話 クラウド版「キズナウェブ」を開発した。同システムの開発は、医療の先端技術を広く普及し、社会基盤のボトムアップを目的としたもの。
キズナウェブは、今使っているPCやタブレット、スマートフォン、インターネット環境をそのまま使用できるクラウド版Webブラウザを用いた動画双方向通信システム。
安価で、「オンライン診療」、「遠隔健康医療支援」、「Dr to Drカンファレンス」、「通訳コール」の4機能を自由に使えるのが特徴だ。1カ月のライセンス料(1ID)は、税抜き4500円で、主に大きな設備投資が困難な地方の個人開業医や離島の診療所向けに開発された。
1998年にマレーシアで遠隔医療システムを立ち上げた経験を持つ坂部望氏(先端総合開発研究所代表取締役、元岡山理科大学准教授)は、「北海道は、札幌一極集中で過疎地や離島が多く、マレーシアと環境が類似している。地方の医療機関には常勤の専門医が居ないため、都市部の専門医が画像を通して地方の医師に指示を出すシステムの構築が不可欠となる」と指摘する。
さらに、「マレーシアでの経験をもとに、ITのために膨大な光回線構築などで莫大な投資をすることなく、ノートパソコンやスマートフォンが1台あれば、通常のインターネット環境で動画双方向通信ができるシステムを開発した」とキズナウェブの開発までの経緯を説明する。
現在、キズナウェブは、北海道内40医療施設で採用されている。年明けには、長崎県の五島列島でも活用される予定にある。
キズナウェブの4機能の一つである「オンライン診療」ツールは、患者からの予約管理、緊急時対応、医師側からの診療計画に沿ったスケジュール管理、ライブ双方向コミュニケーション画像、高画質サブ映像画像等を備えたWeb統合システムだ。通信におけるセキュリティ対策も、厚労省ガイドラインを遵守している。
診療報酬改定で2018年から保険診療が認められて本格的にスタートした「オンライン診療」や、薬機法改正後に予定される「オンライン服薬指導」での活用が期待される。
「遠隔健康医療支援」ツールは、“地域包括ケア”が推進され、多職種連携が重視される昨今において、在宅医療や訪問介護など「在宅現場と医療施設を結ぶ」遠隔支援システムの役割を担う。リアルタイム動画での情報共有は、“その状況”を的確に伝え合うことが可能だ。
同システムは、キャリアのモバイル通信網でも動作可能なため、在宅患者側のスマートフォンや薬剤師、看護師、介護士、リハビリ担当者などが持参するモバイル端末でも有用である。また、家庭内のWi-Fiを利用した通信でも快適に動作できる。
「Dr to Drカンファレンス」ツールは、カルテ情報や共有エコー映像、資料や薬剤などの現物供覧、手術映像の供覧など、あらゆる分野の情報を共有しながら、カンファレンスを実行でき、遠隔地との距離と時間を縮める最適の手段となる。国内はもちろん、世界との情報共有も可能で、実績もある。
かかりつけ医や総合診療医がさらなる確信をもって診断に臨むために、専門医への助言を求めたり、処方薬について薬剤師から最新情報や処方提案を得るなど、様々な情報取得にも有用である。
「キズナウェブ通訳コール」は、ディスプレイ上で遠隔地にいる通訳者をその場に登場させて、感情豊かな生身の通訳をする優れものだ。
リアルタイム通訳部門を担うのは、国際事業20年の実績を持つXeneに登録する2500人の外国語堪能なスタッフ。インバウンドで増え続ける訪日客が体調急変で滞在先の診療所やクリニック、薬局に駆け込むが、医療死噦のスタッフに患者との言葉の壁があり、その解消に役立つ。
医療施設のインターネットで「キズナウェブ通訳コール」を起動し、インターネットでサーバーに接続、サーバーが施設IDを認識すると言語選択画面に進み、選択言語に対応可能な通訳者にアクセスできる。 通訳者へは自動で携帯端末へ通知し、通訳者がキズナウェブ通訳コールを起動すればコールした医療施設と接続され、患者と医師や薬剤師、医療従事者の会話を円滑にする。